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第 564 話

Author: 一笠
「達彦さんが来られたようです」

聖天はすかさず車椅子を動かし、慶吾の相手をしている暇はないとばかりに、その場を離れようとした。大山に余計な気を使わせたくないという思いもあったのだろう。

彼らが去っていく様を目の当たりにし、慶吾は拳を握りしめた。あの生意気な奴、挨拶一つしないとは。

「お父さん、落ち着いて。聖天は......」

「彼の味方をするな!」

慶吾は恒夫を睨みつけた。「恒夫、さっき聖天に声をかけるべきじゃなかったんだ!霧島家から追い出されたのなら、あいつはもう他人だ!」

「そこまで言うことないだろう。彼は......」

言葉を続ける恒夫だったが、慶吾の冷たい視線を受けると、口をつぐんだ。
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