Masuk新幹線のパーサーをしている望月花耶はある出来事で傷心中。一夜を共にした相手の間に子供が出来、責任を取るために婚約したが入籍日に白紙にされる。悪阻で倒れそうになり助けられる。 休憩室で目が覚めると、懐かしい人がいて…。
Lihat lebih banyak朝の光が障子を通して柔らかく差し込む。 花耶はまだうとうととしたまま、隣で寝息を立てる伊誓さんを見つめていた。寝顔は穏やかで、どこか少年のようなあどけなさを残している。 「……おはよう、花耶」 低い声で囁かれ、花耶は目を開ける。 伊誓さんはすでに起き上がり、窓の外の景色を眺めていた。 「おはようございます……」 花耶が小さく返事をすると、伊誓さんは振り返り、にっこりと微笑む。 「君と一緒にいると、朝の空気も特別に感じるな」 「私もです……伊誓さんと一緒なら、毎日が幸せです」 花耶は布団の中で体を伸ばし、伊誓さんの腕に触れる。手を絡め合い、互いの温もりを確かめるその瞬間、まるで時間がゆっくりと流れているように感じられる。 「……花耶、今朝は何を食べたい?」 「えっと……旅館の朝食、楽しみです」 「そうか。じゃあ一緒に行こうか」 二人は手をつなぎ、まだ静かな旅館の廊下を歩く。廊下の畳の感触や、朝の光に照らされる障子の温かさに、花耶は心が落ち着くのを感じる。 朝食の席で、二人は小さな笑顔を交わしながら食事を楽しむ。 「伊誓さん、昨日の夜……」 花耶は小さく言葉を切ると、恥ずかしそうに目を逸らす。 「うん? 何だい、花耶」 「昨日は……ありがとう、楽しかったです」 伊誓さんはにやりと笑い、花耶の手をそっと握る。 「俺もだよ。君と一緒にいると、何でもない時間さえ特別になる」 その言葉に、花耶は自然と頬を赤く染める。 朝食後、二人は旅館の庭を散歩する。 青空の下、花の香りが漂う庭園で、伊誓さんはそっと花耶の肩に手を置き、隣を歩く。 「こうやって二人で過ごす時間、もっと長く続けばいいのに」 「私も……ずっと、伊誓さんと一緒にいたい」 互いの言葉に笑顔を交わしながら、二人の距離はさらに縮まっていく。 そして、花耶は小さな声で「愛してます」と囁く。 伊誓さんは耳を赤くしながら微笑み、そっと唇を重ねた。 新婚旅行の朝は、甘く、柔らかく、そして濃密に二人の時間を包み込んでいた。 ***ラウンジでの穏やかな時間が落ち着きを見せる中、伊誓さんは花耶の手を取り、膝の上にそっと置いたまま、視線を深く合わせる。「花耶……今日、このまま君と二人きりでいられる時間を、もっと特別にしたい」その言葉に、花耶の心臓は跳ねる。胸の奥でじんわ
朝の光がカーテンの隙間から柔らかく差し込む。花耶は、まだ少し眠そうな目をこすりながら、隣で静かに寝ている伊誓さんの肩越しに小さく微笑んだ。陽咲はベビーベッドで眠っている。小さな胸が上下するたびに、花耶の胸も自然と温かくなる。 「……いいなぁ、この時間」 思わず呟くと、伊誓さんは眠ったまま小さな笑い声を漏らす。花耶は静かにベッドから抜け出し、陽咲のいるベビーベッドへ向かった。柔らかい毛布の中で小さく丸まっている娘を見つめると、胸の奥がじんわりと温かくなる。 「おはよう、陽咲……今日も元気だね」 そっと手を伸ばし、産毛の柔らかさに触れる。小さな手がふと花耶の指に絡まり、彼女は思わず笑顔になった。「もう、こんなに人を愛せるんだ……」と。 陽咲を抱き上げると、まるで小さな命全体を包み込むような気持ちになる。伊誓さんがまだベッドに横たわっている中、花耶は静かにリビングへと移動し、朝食の準備を始めた。パンを焼き、フルーツを切り、温かい紅茶をカップに注ぐ。そんな些細な日常も、今は愛おしい。 「花耶……起きてたのか?」 背後から低く柔らかい声が聞こえ、振り返ると伊誓さんが半分眠ったまま立っていた。少し髪が乱れ、まだ眠そうな瞳が愛おしくて、花耶は自然と微笑む。 「陽咲が起きちゃう前にちょっとだけ……朝ごはん作ってたの」 「そうか。ありがとう」 伊誓さんはそう言って、花耶の背中に手を回す。軽く抱き寄せられると、心がふわっと温かくなる。情熱的な愛というより、日々の小さな優しさが積み重なった穏やかな幸福感。それはまるで、ぬるま湯に浸かるような安心感だ。 「ねぇ、今日の予定って特にないよね?」 「そうだな……久しぶりに三人でのんびり過ごせそうだ」 伊誓さんはそう言うと、花耶の手を取り、自分の胸に軽く押し当てる。心臓の鼓動が伝わり、花耶は少し頬を赤らめる。「ぬるま湯のような愛……でも、これが一番心地いい」と、胸の中で呟いた。 朝食を済ませると、三人でリビングのソファに腰を下ろした。陽咲はすぐに母の腕の中で眠り、伊誓さんは花耶の手を握る。言葉は必要ない。ただ一緒にいるだけで、世界は完璧に思えた。 「花耶、今日はお昼に散歩に行くか?」 「うん、天気もいいし陽咲も気持ちよさそう」 小さな声で会話しながら、二人の手は自然と絡み合う。日常の些細な瞬間の中にある、互いを
出産してあっという間に一ヶ月が経った。そして今日は一ヶ月検診の日だ。「今日は検診の後、みんなここに来るって」「え、来てくださるんですか? お義母様もお義父様も?」「あぁ。兄さんも来るらしい。生まれてから写真しか見てない!って言っていた」 伊誓さんのご両親に会うのはこれで三回目だ。一度目は結婚の挨拶で、二回目は出産して数日後だった。それにお義兄さんとは安産祈願の後の食事会に会ったきりですごく久しぶりだから少し緊張する。だけど、よく考えたら望月家の親戚が集まる会のようだなと思う。「母も浩介さんも来てくれるって言っていたから会えるの楽しみです」「そうだな。じゃあ、検診に行こうか」 車の中で話をしながら病院に向かい、自分の診察券と陽咲の診察券を出して再来受付機に通すと先に陽咲の乳児検診のために小児科へ向かった。 一ヶ月の乳児検診では、身長や体重、頭囲、胸囲の測定に小児科医の診察だ。『清水川陽咲ちゃん、三番診察室にお入りください』 アナウンスが流れて、三人で入ると「こんにちわ」と言われた。「……こんにちわ。じゃあ測定していきますね」 小児科が終わると私の産後検診を受けるために産科外来に向かう。産科外来では妊婦健診の時のように尿検査と採血、体重測定をしてから中待合室で待った。はじめに清瀬先生の診察をしてもらう。「子宮も戻ってますね。花耶さん、これで産科は卒業になります」「そうなんですか。なんだか寂しいですね……」「私もとても寂しいです。だけどもし何かあったらいつでも来てくださいね」 診察後は助産師さんに母乳の出具合をチェックしてもらい、エジンバラ産後うつ病問診票というものを渡された。「これは皆さんにやってもらっているので、気軽に書いてみてね」 問診票というかアンケートのような感じで答えていくとすぐに終わり助産師さんに渡した。「じゃあ、もし何か不安なことがあればいつでも相談にきてね。赤ちゃんに関しては先生がいるけど、母体に関してはうちらの方が詳しいから。何かあったら、先生に連れてきてもらいなね」「はい。ありがとうございました」 順調に検診は終わり会計を済ませると、伊誓さんは車を取りに行くからとソファに座っているように言われて近くのソファに座る。「……よく寝てるなぁ」 陽咲は何度見ても可愛くて癒される。だけどこんな大きくなった子が自
入院して一ヶ月、私はやっと退院が決まった。「清瀬先生、お世話になりました」 無事に二十四週、妊娠七ヶ月となりお臍のあたりまでふっくらと丸みを帯びてきていて重みも感じられるようになった。ずっとお友達だったこのベッドともお別れだ。「はい、次の検診待ってますね。そういえば清水川先生は?」「今、車を取りに行っていて……そろそろ来ると思います」 そんな話をしていると病室に本人が入ってきた。「花耶ちゃん、車ロータリーに停めてきたよ。車椅子持ってきたから乗ろうか」 伊誓さんは車椅子を持ってきていてそれをベッドの近くに置きロックをしてステップを外した。「……ゆっくりでいいからね」 背中を支えられながら車椅子に乗り移った。「ねぇ清水川先生、それって自前の車椅子……だったり?」「はい、もちろんです。家用も買いました」「あはは、そうなのね? うん、まぁ先生がいれば安心よね」 清瀬先生が苦笑いをしているのを見ながらも伊誓さんと一緒に病室を出た。病室から出て車が停まっているというロータリー近くに行くと前とは違う車が停まっていた。「伊誓さん、車……」「あぁ。変えたんだよ、高いと花耶ちゃんが乗りにくいからね。さぁ、乗ろうね」 車椅子から降りて後部座席に乗り込めばシートベルトをお腹の負担にならないようにしてくれた。そして膝掛けを掛けてくれてゆっくりと伊誓さんはドアを閉めた。慣れたように車椅子を畳んで後ろに乗せると、運転席に彼も乗り込んだ。「じゃあ、出発するね。何かあれば遠慮なく言ってね」「はい。ありがとうございます」 さくらファミリー総合病院から車を走らせ二十分ほど、今日から住む予定のマンションに到着した。都心にありながら高台があり静かで日当たりのある住宅街でスーパーや薬局、近くには公園があり名門校の幼稚園から高校まであって子育てはしやすいぴったりな街なのだと伊誓さんに聞いた。 車から降りて車椅子に乗り辺りを見ると距離的には都心なのに緑豊か、マンションの入り口は階段じゃなくて車椅子でも大丈夫なスロープだった。「じゃあ、動くよ。行きましょう」 ロビーに入ってすぐのエレベーターで六階の部屋に行くと、玄関には車椅子が待っていた。「あの、お部屋にも車椅子あるんですね」「うん。これと色違いだよ」 部屋用の車椅子に乗り換えるとすぐにリビングに入った。
両親への報告 優仁の訪問から一ヶ月が経った。「今日もよろしくお願いします」 悪阻も落ち着いて今は安定期に入り、仕事は時短には変わらないが体調はなんとか以前のように戻ることはないが注意をしながら働くことができるようになっていた。出勤をして今日一緒に乗車するチームのいるテーブルへ向かう。そこにはもう顔馴染みとなった月岡さんがいた。「望月さん、おはようございます。よろしくお願いしますね」「あ、月岡さん。おはようございます! こちらこそよろしくお願いします」 つわりがひどい時は月岡さんにチーフパーサーの地位を取られた気がして悔しいとずっと思っていたが、彼の人なりを知って仕事への姿勢を見て
元婚約者の訪問 応接室から移動して近くにあるよく行った喫茶店に優仁と入った。「それで、なんの話があるの? 私には話すことはないんだけど」 席に座りすぐに私は切り出した。すると優仁は「なんで教えてくれなかったんだ」と突然睨みつけながら呟いた。「……え? なにを」「君のお父さんのことだよ。再婚していたのは知っていたけど、まさか望月製薬さんの社長だったとはな。瑚乃美よりも上じゃないか……なんで教えてくれなかった?」 なんで義父のその情報を知っているの?私の口から義父のことも両親のことを誰かに話したことはない……ということは調べたの?「言うタイミングなんてなかったでしょ、それに義父は母
頼れる人なんていない 佐倉先生に出迎えられた私は、清水川先生とはお礼を言って別れ産婦人科へ向かう。産婦人科の中にある処置室①と書かれた部屋に入ると、診察を受けた。「なんとなくだけど話は聞いたよ。検診の帰りだったんだね、今は体の調子はどう」「少しだけ、いいです」 私は母子手帳を出すと先生に渡した。「ありがとう、一度拝見するね」 佐倉先生は母子手帳を受け取ると、今日の検診で検査をしてもらった結果のページを開いた。「体重、結構減ってるね。食べたり飲んだりするの辛い?」「そうですね、少し」「そうだね、じゃあ、今回も点滴をしよう。……じゃあ、点滴室に案内するね」 そう言うと看護師さ
出会い入院して四日目。吐き気やめまいで起き上がるのも一苦労だったけれど、今日はほんの少し体調が安定していた。一時間ほどベッドに座っていることもでき、桃花と話すときのように、軽いおしゃべりもできるようになった。「こんにちは、望月さん。調子良さそうですね」 扉の向こうから佐倉先生の声がした。声だけで少し安心する。「あっ、先生。こんにちは! はい、悪阻が始まってから一番体調が良いです」 微かに頬が熱くなるのを感じながら、目は自然と窓の外の光に向けた。まだ外は夏の柔らかな日差しに包まれている。「それは良かったです。以前話をしていた清水川を連れてきました。今、よろしいですか?」「あ、わか
Ulasan-ulasan