LOGIN夏目凛(なつめ りん)は病気で、余命いくばくもなかった。 その日から、凛は悟った――生死の前では、すべてが幻のようなもので、今までこだわってきたことが全てバカバカしく思えてきた。 自分勝手な、タカるだけの家族なんて、いらない! プロポーズしたくせに、すぐに他の女とイチャつく婚約者なんて、いらない! 全てを失った凛は、やっと自由になれた...... それからしばらくして、凛の噂で持ちきりになった。 夏目さんが金持ちを捕まえたって。 夏目さんが若い男と旅行してるって。 夏目さん、超金持ちになって、お金使いまくってるって。 夏目さんは...... 後で、凛に捨てられた人たちは真実を知って、泣きながら土下座して許しを乞うことになるんだ。 金づる扱いをしてくる両親はこう言った。「お前はいつまでも私たちの可愛い娘だ。一緒に家に帰ろう」 クズの元彼は言った。「俺が愛しているのは凛だけだ。もう一度だけチャンスをくれ」と言った。 しかし、もう遅い! 男は凛の前に立ちはだかり、険しい顔で言った。「これ以上凛に近づいたら、足を折る」 そして、あの高位にある男は、凛の前にひざまずいて、こう言った。「生きていようが、死んでいようが、お前は俺のものだ」 霧島聖天(きりしま せいてん)は、自分が善人ではないことを自覚している。 名門霧島家の当主である聖天は、冷酷で、誰よりも早く決断し、行動し、恐れられていた。 誰が想像できただろうか。あんなに近寄りがたい聖天が、一人の女の子を8年間も想い続けていたなんて。 彼の数少ない優しさは、全部彼女に捧げられていた。
View More凛は軽く笑った。「彼らはもとから、あなたは私側の人間だって思ってるので、今私のために翔太を異動させたら、ますますそう思われますよ」「やましいことは何もないんですから、怖がる必要なんてありませんよ」浩二は眉をひそめた。「それに、私たちの共通の目的は佐藤グループを良くするということなんですから。一緒に戦う仲間じゃないですか」「おっしゃる通りです」凛は浩二のお茶を新しいものに取り替える。「ですので、こんな大事な時期に翔太を異動させるべきじゃないですよ。このことは、タイミングをみましょう。年明けに佐藤グループは海外市場をさらに開拓する予定なので、その時に、経験豊富なリーダーが必要になるんです
バーから佐藤家に帰ったのは、もう2時半だった。翔太が玄関のドアを開けると、リビングの薄暗い明かりが目に入り、思わず眉をひそめた。「やっと帰ってきたか?」良平の声が、静かな夜に響き渡った。怒りを抑えているのが伝わってくる。翔太は玄関の棚に車のキーを放り投げると、スリッパを履いて階段の方へと向かった。良平と話す気は全くないようだ。「翔太!」良平の声のトーンが上がる。明らかに不機嫌だ。「待て!」命令口調で言われて、ようやく翔太は足を止めた。そして、イライラした様子で返す。「何だよ?」「こんな時間まで待っていたのに、挨拶一つしないとは。お前、父親の俺を何だと思っているんだ?」良平は厳
「どこに行くんだ?」良平の問いかけに答えたのは、事務室全体が揺れるような、耳をつんざくドアの閉まる音だけだった。散乱した書類を見ながら、良平は深い疲労を感じ、椅子に深く腰掛け、こめかみを強く押さえた。煌がいなくなってから、ますます疲れるようになった。佐藤グループでの仕事は大変だし、翔太と関わるのも疲れる。50代にして急に老け込んだ気がする。気力はあるのに、体がついていかない。良平は大山が最期に抱いていた思いが、少しだけ分かったような気がした............深夜。翔太はソファ席に座っていた。周りの連中はすでに泥酔し、テーブルの上はめちゃくちゃだった。「おい......な
その夜、浩二は病院で偶然優奈に会ったことを凛に話していた。優奈がどうやってぶつかってきたか、そして、いかにも自分が可哀想なのか、泣きながら辛い境遇を訴え、最後には目を潤ませながら、浩二の有能さと優しさを褒め称えてきた、と全てを事細かに凛へ報告した。純情を装い、他人の同情を得ようとするそのテクニックはなかなかのものだったらしい。しかし、浩二は優奈に全く興味がなく、妻と佐藤グループへの忠誠心しか持っていなかった。彼は実に細かく、そして心底うんざりした様子で話してくれたので、凛は何度も吹き出しそうになった。凛は、すでに志穂から、優奈と潮が雑誌社で大喧嘩をし、優奈が酷い目に遭ったことを聞いて