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第3話

Auteur: 白山
私と駿斗はただ、私が妊娠したことで彼が急かされ、結婚式の日を決めただけだ。

プロポーズもなく、婚約パーティーもない。

それなのに今になり、彼は佳純にはこれでもかと気を遣っている。

鼻で笑いながら、私はいいねを押し、駿斗から送られた二千万円を受け取った。その瞬間、ドアの暗証番号を押す音が聞こえた。

佳純が人を連れて入ってきた。その指先のダイヤの指輪がきらきらと光っている。

「藍井さん、まだいるの?

駿斗に言われて、先に家に戻ってきた。リフォームが必要か見ておこうと思って」

私はうなずき、脇に退いて迎えの車を待つことにした。

S国の医療チームから治療プランが届いてきた。赤ちゃんを守りながら化学療法を行う成功率は60%だという。

私と子どもが共に命を落とす可能性もある。

それでも十分だ。国内に残れば、私たちはどちらか一人を選び、50%の生存率に賭けるしかない。

部屋の中は相変わらず騒がしい。

佳純は人に指示し、私のウェディングドレスを切り刻み、私の痕跡を捨てて自分の服に入れ替えさせた。

額縁に入った結婚写真も外され、くしゃくしゃに丸められてゴミ袋へ押し込まれた。

彼女は終始笑顔で、私と同じように手をお腹に当てている。

だが、その言葉の端々には勝者の余裕が滲んでいる。

「藍井さん、恨まないでくださいね。私たちの結婚写真、明日には届くの。藍井さんの写真を残しておくのはやはりふさわしくないの。

やはり入れ替わりが必要なんでしょ?」

「ええ」

私は淡々とうなずき、視線を落として治療プランを読み続けた。

治療期間中は付き添いが必要だ。以前の入院では駿斗が世話をしてくれていたし、彼がいない時は彼の母親が来ていた。

だが彼の母親は初めから私のことが好きではない。会社はすべて息子のものだと思い込んでいるのだろう。

それに、私の入院費も自分の息子の苦労して稼いだお金で払われたと決めつけ、いつも冷たい態度だった。

明日S国に着いたら、医療チームに介護スタッフを多めに手配してもらおう。

そう考えているとき、引っ越し業者が私のリュックを蹴倒し、さらに足で踏みつけた。するとガラスの割れる音がした。

「踏まないで!」

私の心臓がひやりとし、慌ててその足を押しのけた。

だが、両親との家族写真の額はすでに割れ、破片が写真に白い傷をいくつも刻んでいる。

ちょうどそのとき、駿斗が入ってきた。

すると、玄関にしゃがみ込み、家族写真を抱え、呆然とした目をしている私を見た。

佳純が素早く近づき、身をかがめて謝った。

「ごめんね、藍井さん。うちの人が焦ってしまって。いくらなの?弁償するから。二千万円で大丈夫?」

駿斗は眉をひそめ、私を避けるようにして佳純の腕を取り、小声で言った。

「妊娠中なんだから、かがむなよ」

続けて私を見下ろし、責めるように言った。「まだいるのか。お金に不満?」

八年も連れ添ってきた彼は、この家族写真が、私に残された唯一の両親の形見だと知っているはずだ。

その痛みを察したのか、下腹部に鋭い痛みが走った。

私は壁に手をつき、自力で立ち上がってうなずいた。

「じゃあ賠償金二千万円。入金を確認したら、すぐ出ていく」

最後のこの二千万円は、駿斗はしぶしぶ振り込んだ。

彼は同時にこう呟いた。「お金を受け取ったら、さっさと堕ろせ。俺には子どもが一人いれば十分だ」

彼の背後で、佳純は唇を強く噛みしめ、もはや穏やかな顔はない。

だが私は見えないふり、聞こえないふりをし、入金を確認すると振り返らずに出ていった。

S国に到着し、医療チームが手配した車に乗ると、ニュースでHKテクノロジーの上場セレモニーの映像が流れている。

赤いドレス姿の佳純が、駿斗と並んで立っている。

【お似合いのカップル】だと称えるコメントが溢れ、私の名前に触れるのもあったが、すぐに賛辞にかき消された。

写真を拡大すると私は気づいた。佳純の首元と手首にあるのは、駿斗が私に買ってくれたアクセサリーだ。

その瞬間はっきりと悟った。私と駿斗は、本当に終わったのだ。

「病院まであと一時間だけど、少し休まないか?」

助手席の人が声をかけてきた。私はスマホを閉じて眠ろうとし、ふとその声に聞き覚えがあることに気づいた。

顔を上げた瞬間、笑みを含んだ、どこか困ったような目とぶつかった。

「もう二十分経ったのに、俺だって気づかなかった?」

一気に眠気が吹き飛び、私は乾いた笑いを漏らした。

「偶然だね」

「こっちで医学を学んでいて、卒業後に医療チームを立ち上げたんだ」

そう言いながら、遠阪遼真(とおざか りょうま)は魔法瓶の蓋を開け、私に差し出した。
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