LOGIN親友の桐山彩(きりやま あや)の結婚式で、ブーケが私・白河雪乃(しらかわ ゆきの)の手に飛び込んできた。 彩がにやにやしながら近づいてきた。 「霧島誠(きりしま まこと)を付き添いに呼ぶの、どれだけ大変だったか知ってる? 七年間ずっと片想いしてたんだから、そのブーケ持って告白してよ!」 私はブーケを抱えたまま、呆然として固まった。 彩は知らない。私と誠は、もうすでに一年間こっそり付き合っていたことを。 片想いがついに実ったと思っていた。苦労の末に手に入れた幸せだと。 でも、彼に別れを突きつけて家から来た見合いの申し出を断らせようとしたあの日。 彼は気だるげに笑って、ひとつも気にした様子もなく言った。 「雪乃、七年も俺に片想いしてたくせに、本当に俺から離れられるのか?」 我に返った瞬間、誠が真っすぐ歩いてきて、私の腕からブーケを抜き取り、隣にいた先輩に何気なく手渡した。 固まった私の顔を見て、眉を上げながら、確信と侮蔑が混じった目で言った。 「雪乃、やっぱりそうだろ。お前は俺から離れられない」
View More打ち上げの後、社内で年間最優秀社員の発表があった。私の名前が一番上にあった。それと同時に、海外本社からの研修招待状が届いた。期間は半年、全額奨学金付きで、国際トップクラスの医療建築プロジェクトにも参加できる。どれほどのデザイナーが夢見ている機会だろう。以前は、誠のそばにいつでも駆けつけられるようにと、出張も研修も数え切れないほど断ってきた。でも今、その招待状を前にして、一瞬も迷わず名前を書いた。ペン先が紙の上を滑り、さらさらと音を立てた。過去の自分への、最後の別れのような音だった。出国の前夜、時也が食事に誘ってくれた。場所はフレンチレストランで、窓の外には夜の中を流れている川が輝いていた。この時間を通じて、時也はいつの間にか私の生活に静かに溶け込んでいた。深夜まで残業している時には、体に優しい食べ物のリストを送ってきた。案の出来に不安で焦っている時には、川沿いに連れていって風に当たらせながら、クライアントへの愚痴を聞いてくれた。一切のプレッシャーをかけることなく、ただ大きな敬意と温もりをくれた。いい恋愛というのは、一方的な消耗でも、片方の卑屈な媚びでもないのだと、少しずつ分かってきた。二本の木が地の下で根を絡ませ、雲の中で葉を触れ合わせるようなものだ。並んで立って、一緒に育っていく。食事の終わりに、時也がポケットからベルベットのケースを取り出した。胸がわずかに締め付けられて、あの日に宴会場で誠が無造作に渡してきたあの古いケースが頭をよぎった。あれは侮辱で、施しだった。時也は私の顔を見てそれを察したように、微かに笑ってケースを開けた。中に銀色のネックレスが静かに横たわっていた。チャームは小さくて精巧なメスの形だった。メスは、心臓外科医の信念。「白河雪乃さん」時也は私を見つめた。目は柔らかく、でも揺るぎなかった。「心臓外科の手術で最も大切なステップをデブリードマンといいます。壊死した組織、腐った組織を完全に取り除いて初めて、心臓は再び動き出し、血液は再び流れる」細長い指がそのチャームをそっと撫でてから、視線を上げて、私の目の奥まで深く見つめた。「飛んでいってください。過去の痛みは全部、手術台に置いてきてください。帰ってきたら、新しい白河雪乃になって戻っ
入札成功の打ち上げの席で、皆が盛り上がっていた。私も珍しくワインを何杯か飲んで、少しふわついていた。「白河さん、おめでとう!今回の会社一の功労者よ!」「ほんとに!林の青ざめた顔見た?すっきりした!」同僚たちに囲まれて乾杯して、笑い声が絶えなかった。その時、個室のドアが勢いよく開き、酒の匂いをまとった誠が入ってきた。髪は少し乱れて、ネクタイが斜めになっていて、かつての余裕ある姿は欠片もなかった。場が一瞬で静まり返った。誠は真っすぐ私の前まで来て、目を赤くして手を伸ばした。「雪乃……一緒に帰ろう」隣に座っていた時也が立ち上がりかけたが、私が手で制した。立ち上がると少し頭が回ったが、目は澄んでいた。「霧島さん、部屋を間違えましたか?千夏さんの打ち上げは隣じゃないですか?」誠は私の皮肉が聞こえていないようだった。じっと私を見て、声に今まで聞いたことのない焦りと懇願が滲んでいた。「俺が悪かった、雪乃。本当にそう思ってる。ネックレスであんな真似をしたのも、千夏に肩入れしたのも、俺たちの関係を認めなかったのも……全部俺が悪かった」彼はポケットからスマホを慌てて取り出して、震える指でロックを解除した。「ずっと皆んなに公開したかったんだろ?今すぐSNSに投稿する!今すぐ全員に言う、雪乃は俺の彼女だって、一番大切な人だって!結婚しよう。明日、籍を入れに行こう!」周りの同僚たちが顔を見合わせて、ざわめいた。その滑稽な姿を見て、胸にじんとした悲しさがよぎった。「いいよ」淡々と言った。「じゃあ投稿して」誠の顔に喜びが浮かんだ。すぐにSNSを開いて、アルバムを開き、ツーショットを探し始めた。でも、指が画面を一回、二回、三回とスクロールしていき……どんどん速くなって、どんどん震えた。アルバムには数千枚の写真があった。千夏との大学時代のツーショット、友人たちとの飲み会の騒ぎ、色々な場での自撮り。飼っているゴールデンレトリバーの写真まであった。でも、私はいなかった。一枚もなかった。七年間そばにいて、一年間付き合っていたのに。スマホの中に、私がはっきりと一人で映った写真は一枚も見つからなかった。何枚かの集合写真に、一番隅の暗がりに、ぼんやりした横顔があるだけだった。誠の手
それから半月後、明徳プライベートホスピタルの増築プロジェクトの最終入札会が予定通り行われた。会議室の空気は張り詰めていた。千夏は今日、赤のスーツに身を包み、完璧なメイクで、勝ちに来た顔をしていた。彼女のプロジェクトの設計案は相変わらず華やかだった。全て輸入の大理石の床、シャンデリア、外来ホールには巨大な噴水まで設計されていた。「私たちが目指すのはハイエンドで贅沢な受診体験、患者様に特別感を感じていただくことです」千夏は壇上で流暢に語り、プレゼンのスライドは見た目に凝っていた。審査員たちは何度も頷いた。特に誠が。最大の投資家代表として、彼には一票の拒否権があった。休憩時間、誠が給湯室で待ち伏せていた。病院でのあの日以来、気まずいまま別れていた。誠は私が本当に彼の胃痛を気にかけないと分かると、じっと見つめてから去っていた。今日の誠は疲れた顔をしていた。目の下にうっすらと隈があったが、私を見る目は上から目線だった。「雪乃、お前の案を見た」コーヒーを一口すすって、気だるそうに言った。「地味すぎる、見どころがない。千夏の案は派手すぎるが、ビジネスとしては筋が通ってる」手を洗いながら、顔も上げずに言った。「それで?」誠が近づいて、声を低くした。「今すぐ俺に頭を下げて、自分が悪かったと認めて、今夜マンションに戻ってこい。そうすればこの一票、お前に入れてやる。そうしなければ、この数ヶ月の努力も、時也が手を貸したことも、全部無駄になる」鏡の中に、確信に満ちた誠の顔が映っていた。蛇口を閉めて、ペーパータオルを引いて、ゆっくりと手の水気を拭き取った。それから振り返って、にっこりと笑いかけた。「誠、私はあなたがいなければ生きていけないとでも思ってるの?私のことも、私の専門性も、舐めすぎよ」言い終えて、丸めたペーパータオルをゴミ箱に放り込んで、出ていった。後半戦が始まった。壇上に上がってスライドを開いた。華やかな完成イメージ図はなく、詳細なデータ分析と動線シミュレーションだけがあった。「病院はホテルではありません。患者が必要としているのは特別感ではなく、回復と使いやすさです。林さんの噴水のデザインは美しいですが、高湿度の環境は菌の繁殖を招きやすく、水音は聴診の妨げに
誠は最近、苛立っていた。少し圧をかけて資材の供給を断てば、以前のように泣きながら謝りに来ると思っていた。ところが一週間経っても、私からは何の動きもなかった。来ないどころか、プロジェクトが驚くほど順調に進んでいると耳に入ってきた。当初より質のいい資材まで使っているという。「くそっ!」深夜のバーで、誠は手のグラスを叩きつけた。アルコールが理性を麻痺させながら、胸の奥の正体不明の焦りを増幅させていた。スマホを取り出して、習慣的に私の番号を押した。「おかけになった電話は……」またブロックだった。バーテンダーのスマホを借りて、震える指で覚えきっている番号を押した。コール音が二回鳴り、繋がった。「もしもし?どちら様ですか?」聞こえてきたのは私の声ではなかった。静かで低い男の声だった。背景ではキーボードを叩く音と、私の不満そうな呟きが聞こえた。「このパソコン、またフリーズした……」「再起動してみて」その男の声は呆れるほど優しかった。誠が一瞬で爆発した。天野時也の声だ!こんな夜中に、二人きりで、何をしているんだ!?「雪乃!あいつに代われ!お前……」ツー容赦なく切られた。誠は怒りで全身が震えた。かけ直そうとした瞬間、胃に激しい痛みが走った。持病だった。以前は胃が痛むたびに、どんなに遅くても一本電話を入れれば、私が胃に優しいスープと薬を持って駆けつけてくれていた。「雪乃、痛い……」ボックス席で体を丸めて、冷や汗を流しながら、無意識に名前を呼んだ。でも今回は、誰も答えなかった。最後はバーのスタッフが救急車を呼んで、近くの病院に運ばれた。――明徳プライベートホスピタル。私が増築を担当しているあの病院だった。目を覚ますと、既に夜が明けていた。病室は静まり返っていて、点滴の液が滴る音だけがしていた。期待していた温かいスープもお茶もなく、介護士の無愛想な一言だけがあった。「起きました?精算書は机の上です」あまりの落差に、胸がからっぽになった。点滴の針を抜いて、よろよろと病室を出て、私を探しに行こうとした。この時間は工事現場にいることは分かっていた。廊下の曲がり角に差し掛かった瞬間、目を剥くような光景が目に入った。窓際に陽光が差し込