第2話

「俺だよ」

「お酒飲んだの？」

「うん、友達と少し飲んだ」

バスルームからシャワーの音が聞こえてきて、由佳は眉をひそめながら寝返りを打ち、不安そうに眠っていた。

隣のベッドが沈む感覚があった。

大きな手が彼女の腰に触れ、滑らかな曲線に沿って下がっていき、何かをしようとしていた。

「うーん、今夜はダメ」由佳は目を閉じたまま、半分寝ぼけながら彼を止めた。

無意識に子供を傷つけないようにしていた。

大きな手が動きを止め、彼女の背中に置かれた。「寝ていいよ」

由佳は本当に疲れていて、すぐに深い眠りに落ちた。

朝、由佳が目を覚ました時には、隣にはもう暖かさはなく、少し皺の寄ったシーツだけが昨夜彼が戻ってきた証拠だった。

彼女は少し後悔していた。昨夜どうして寝てしまったんだろう？

大丈夫、今日話してもいいのだ。

由佳は顔を洗い、クローゼットに行き、清次のために白いスーツを選んだ。自分が妊娠したことは喜ばしいことだからと、赤いストライプのネクタイも選び、ベッドの端に置いた。

清次は既に朝のランニングから戻ってきていて、パジャマでソファに座り、階段から下りてくる由佳を見上げて、手に持っていた書類を置いた。「朝ごはんを食べよう」

朝食を食べ終わると、由佳は深呼吸して、喜びをほほに浮かべながら言った。「清くん、話したいことがあるの」

子供ができることを知れば、きっと喜ぶだろう。

「俺も」山口清次は落ち着いた声で言った。

「じゃあ、先に話して」由佳は甘い笑顔を浮かべながら少し恥ずかしそうに言った。

「由佳、離婚しよう」山口清次は立ち上がり、ソファの上の書類を手渡しながら言った。「離婚届を読んで、問題があれば言って。できる限り応じるから」

由佳の心臓は一瞬止まったかのように、驚いて清次を見つめた。

脳が真っ白になって、自分の耳を疑った。

やっと声を取り戻し、唇が震えながらその言葉を繰り返した。「離婚？」

清くんは彼女と離婚するの？

何事もないのに、どうして突然離婚を言い出したの？

何の兆しもなく、彼女はショックを受けた。

「あの夜、俺たちはハメられて、仕方なく結婚したんだ。公開もしていないし、むしろ早めに終わらせる方がいい」清次はまるで日常の些細なことを話しているかのように言った。

由佳の顔は青ざめ、周囲は一気に寒気がした。

胸が大きな手にぎゅっと握りつぶされたかのように、息がしづらいほどだった。

違う、違う。

由佳は彼を九年間愛してきた。

16歳で山口家に来た時から、25歳で事業が成功する時まで。

彼に恋をし結婚してからの三年間は彼女の青春だ。

彼女にとって、結婚は仕方のないことではなかった。 喜んで彼と結婚した。

しかし、彼にとっては仕方のないことだった。

彼女は重く唾を飲み込み、深呼吸して彼を見つめ、できるだけ落ち着いた声で言った。「この三年間、夫婦仲良かったじゃない？本当に決めたの？私と離婚するって？」離婚という言葉は言葉にするだけで重い痛みがあった。

「決めた」

「おじいさんとおばあさんには」

「俺が説明する」

「もし私が」妊娠していたら？

彼は少しうんざりして、彼女の話を遮った。

「歩美ちゃんが帰国したんだ」

由佳の呼吸が止まった。その言葉はまるでナイフのように彼女の心に突き刺さり、血が流れるようだった。

彼女は無言で離婚届を受け取り、自分が機械のように言った。「わかった、読んでみる」

ハメられて、仕方なく結婚した、なんてことは重要ではなかった。

重要なのは最後の一言だった。 加波歩美が帰国したのだ。