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第88話

Author: 月下
絵里は、この会社でできた、初めての友達だったのかもしれない。

だが、その初めての友達も、本当の友達ではなかった。やはり、彼女を傷つけたのだ。

文月はぱちぱちと瞬きをすると、涙が、その頬を伝って落ちた。

「何でもないわ。仕事を失いそうになっただけ」彼女は目を伏せ、それから、あえて語気を荒げて言った。「あなたには関係ないことでしょう!」

博之は、ふっと軽く笑った。

「君は、そんな素直じゃない態度の方が、ずっと面白いね。

甘いものでも食べれば、少しは気分も晴れるんじゃないか」

博之は、半ば強引に彼女をデザートカフェへと連れて行った。

ふわふわの可愛らしいケーキが、文月の前に差し出される。文月は、それをただ、じっと見つめていた。

「これ、私のために?」

博之が答えた。「ここに、他に誰かいるのか?」

文月は遠慮なく、いくつもケーキを食べ、ようやく心が落ち着いた。

昔、学校で落ち込んでいると、由美がいつも、美味しいものを食べに連れて行ってくれた。

蒼介と喧嘩した時も、そうやって仲直りしたものだった。

やがて、蒼介も謝り方を覚えた。

ミルクティーやデザートを文月の前に差し出すことが、彼の暗黙の謝罪だった。

だが、大学を卒業してからは。

蒼介は、そんな普通のプレゼントを、めったにしてくれなくなった。

宝石類や、ダイヤモンドのネックレス、高価なガラスの靴に、綺麗なドレス。そのどれもが、文月が望んでいたものではなかった。

文月は、やはり、初めの頃の美味しいものの方が好きだった。

文月が口を開いた。「ありがとうございます、北澤さん。もしかしたら、私、最初から誤解していたのかもしれません。あなたは、とても優しい方なんですね」

博之は突然、手を伸ばした。そして、彼女の口元についたクリームを、そっと拭い取った。

文月の体は、硬直した。

「あなた……」

「今でも、僕が優しい人間だと思うのか?」

文月の唇が、一直線に結ばれた。

澄川市、病院。

蒼介は、酒の飲み過ぎで胃に穴が開き、病院に運ばれた。

手術室の外では、萌々花が一人で待機していた。彼女は、焦りの色を浮かべた目で中を見つめ、中の人間に何かあったらと、不安でたまらない様子だ。

何しろ、蒼介は彼女の金づるなのだ。万が一、その金づるがなくなったら、どこでまた、こんな便利な金づるを見つけられ
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