LOGIN高辻綾香は、ホテルグループの秘書課で働いている。 先輩の退職に伴って、その後を引き継ぎ、専務秘書となったが、彼は自分の幼馴染で初恋の相手だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れる。 心中は穏やかではない。 そんな自分の気持ちとは裏腹に、なぜか距離を縮めてくる幼馴染。 綾香は、自分の思いをどうしていいかわからない。 自己肯定感低めの秘書(ヒロイン)×クールエリートな上司(幼馴染) 初恋こじらせオフィスラブ♡
View More「綾香、机に手をついて」
耳元で、低い甘い声が囁く。
着物の裾から彼の大きな手が太ももを撫でる。
「あ、は、恥ずかしい」
その手が、その滑らかな肌を腰まで滑らせたとき、ひたと止まる。
「何も着けて無かったのか。なんて無防備なんだ、まったく。知ってたら部屋から出さなかったのに」
綾香は、専務室の執務机に手をついて、足を開き、あられもない姿を晒していることに羞恥で体中が熱くなった。
「ほら、もう、どうしようもなくなってるじゃないか」
すでに太ももまで湿らせるほどに潤っている足の間に、指が触れる。綾香の喉からため息が零れた。
「ん、あぁ、は」
どうして、こんな時間にこんな場所でこんなことをすることになったのか、興奮でぼうっとなった頭ではもう何も考えられなかった。
いつもは表情を崩すことのない、彼の端正な顔も、少し冷静さを欠いているように見えて、綾香はそっと頬ずりをした。唇を寄せるようにして、舌を絡ませる。
「は、可愛いな。あぁ、綾香、俺を乱すのはお前だけなんだ。お前のことを思うと冷静でいられなくなる。昔からずっと」
胸元をぐっと開くようにして割られ、はりのある白い胸がこぼれでる。
着物の衿で寄せられるように盛り上がる胸の、その先端を摘まむように捏ねられ、綾香は呻いた。
「は、あぁぁ.......ん」
静かなオフィスにその声が響く。
ビルの高層階にあるそのオフィスの窓からは、新年の賑わいを見せる近くの駅の様子や、渋滞する車の長い列があった。
しかし、興奮で頭のどこかが痺れ始めている綾香の目には、ただの流れゆく光にしか見えなかった。
翌日、デートと言って連れて来られたのは、いつぞや来た海辺のホテルだった。あの時は、夜も遅い時間だったので周囲が見えていなかったが、木立に囲まれた一棟ずつのヴィラになっているようだ。「明るい時間に来ると、また雰囲気が違うのね。建物も少しずつ形が違う」「海岸に向かって傾斜地を利用して、全部で6棟あるんだ。家族連れで利用できるものもあるよ」以前に食事をしたのと同じ棟に入る。「プライベートビーチに続く道が、すべての棟の裏手に繋がってるんだ。今度は、夏に来よう」部屋に入ると、前と同じようにダイニングテーブルが花で飾られていた。しかし、食事の前に見せたいものがあるから、と螺旋階段を昇って上階に向かう。以前に来たときは、夜の海を窓越しに見た。今はちょうど夕暮れ時で、部屋に西日が差し込んでいる。ベッドルームの先に籐製の大きなカウチが置いてある広いテラスがあった。「うわ‥‥」建物から張り出した形のテラスのちょうど正面に、まさしく日が沈んでいこうとする海が広がっている。穏やかな波の先に周囲の仄暗さを際立たせるように、中心の宝石のような輝きがあり、そこからオレンジ色の輝く道筋がこちらに向かって伸びていた。「すごい。幻想的。オレンジの道がここまで届きそう‥‥」思わず、手すりに身を乗り出して、その景色に見入っていた。「さすがね。やっぱり、廉は、海の男‥‥」からかうように言いながら後ろを振り向くと、廉が片膝をついて、しゃがんでいる。そして手にはビロード張りの赤い箱がある。絵にかいたような王道の‥‥「高辻綾香さん、俺と結婚してくれませんか」絶対に断られない、という自信のある余裕の笑顔に、一瞬、その答えをどうしようか迷った。自分のプロポーズは、保留にされたままなのにこれはズルい、とも思うし、あまりに王道過ぎるこのスタイルに突っ込みも入れたかった。でも、目の前の自信満々の笑みが余りに可愛くて、愛しくて、到底、意地悪をする気にはなれない。じわじわと体の奥から滲み出る喜びで、口元から笑みが零れる。「はい。喜んでお受けします。一生、廉と一緒に幸せに
父の幼稚な逃避行動は、それから1年もしないうちにあっけなく終わった。孝也のところに女の子が生まれたのだ。当初、子どもはもう少し先、と言っていた2人だったが、よく検討すると、孝也が学生であるうちの方が時間に融通が利き、エリカがキャリアを重ねながら、子育てをするのに都合が良いのではないか? となったらしい。両親は、初孫に舞い上がり、離れを改装して、そこに子どものプレイルームを作る暴走ぶりだった。あれだけ廉から2人の関係を明言されるのを嫌がっていたくせに、初孫の綾奈を抱きながら、「綾香、孫は何人いてもお父さん面倒見るから! やっぱり体力のあるうちにリタイアするって大事だな。廉くんに感謝しないとな」とニヤニヤしていた。そして、組織のトップを廉に譲ることを取締役会で提案し、さっさと会社の経営から身を引いてしまった。今期から、廉は、セルリアングループの代表取締役となっている。この決定の少し前に、綾香は会社を辞めた。創業者の娘が次の代表の婚約者で、さらに秘書課で誰かの秘書として働くというのは無理がある、という自分の判断と、もう一つは、自分のやりたいことはなんだろう、を深く考えた結果だった。秘書の仕事はやりがいもあり、自分の性格にも合っていた。しかし、これが自分の一生やりたいことか、と問うと釈然としない何かが残る。そして、情熱を注げるものはなんだろう、と模索してみると、ずっとやり続けて苦にならないのは家事、そのうち特に料理だった。そこで、紫衣さんの料理教室に通うようになり、生きることの根源は食べることだと知り、もう少し深く取り組んでみようと考えたのだ。「家事が好きなら、専務と結婚して専業主婦でも良かったんじゃない?」綾香の部屋で朱莉がコーヒーを飲みながら、焼き立てのアップルパイを食べている。「まぁ、それも忙しい夫を支えるっていう意味では魅力的だと思うよ。でも、今はまだ結婚もしていないし、いろいろ選択肢があるなって思って」結局、綾香は、オンラインで栄養学を学びながら、紫衣さんの教室で料理を教わる傍らアシスタントをすることになった。紫衣さんのサポート的な役割をこなす内に、秘書時代の
ウェディングパーティーが終わり、ホテルの部屋へと引き上げる。廉は、この後も取引先の人たちと上階のバーでお付き合いがあるようだ。部屋に戻り、バスタブに湯を張って、イランイランのオイルを垂らして入る。ふぅ~甘い匂いが心を落ち着かせる。とてもいい結婚式だった。天気にも恵まれたし、何より御園さんと藤堂課長がとても幸せそうで羨ましくなった。目を瞑ってバスタブに沈み込むように浸かる。まだ、プロポーズも何もされていないけれど、廉が自分との将来を考えてくれていることぐらいは、わかっている。だからこそ、父と話をしようとしてくれているのだし。ぼんやりと長風呂をしていると、廉が部屋に戻って来た気配がする。「綾香、俺も入っていい?」バスルームを覗き込んで、もう、半分シャツを脱ぎかけている。少し、顔が赤い。いつもより飲んでいるようだ。湯船から手首を出して、おいでおいでと手招きした。背後から綾香を抱きかかえるようにして廉が入る。浴槽から湯が溢れてバスルームの床が洪水になる。廉と指を絡めて、その胸にもたれた。「いい結婚式だったわ。ここのロケーションは最高ね」「今後の開発で、このホテルとさっきのチャペルの周辺は、なるべく雰囲気を変えないように改装する予定だ。ここは古いけどいい建物だしね」廉が、絡めた指で自分の薬指をさすっている。廉は父の態度をどう思っているだろうか。もしかしたら、ああいう父親と家族になるのはごめんだと思っているのかもしれない。「廉‥‥」「ん?」「私‥‥廉と家族になりたいな‥‥」綾香の指をさすっていた節の大きい指が止まる。そしてぎゅっと指を絡ませて手を握った。「お父さんがどうしてあんな態度を取るのかわからないけど‥‥もし、廉がお父さんのことを嫌だって思うなら、別に高辻の家と付き合いをもたなくてもいい‥‥」廉が首筋に額を擦り付けて笑い始める。「社長が聞いたら、卒倒しそうだな。ふははは」軽く首筋に唇を押し付けて、撫でるように触れる。それだけで心地よさが背筋を伝う。
自分と廉との関係が当たり前のように社内で扱われるようになった頃、廉が、きちんと社長と話をしよう、と相談してくれた。父は、廉のことを高く買っているし、こうして会社を任せようとまでしているのだから、きっと喜ぶに違いない、と正直たかをくくっていた。廉と2人で話がある、と約束して自宅へ戻った日、父は、急な出張でアメリカへ行くことになった、とバタバタと目の前で出かけて行ってしまった。ここ1年ほどは、会社の顔としての海外とのやりとりはほとんど廉がしていたはずなのに。仮に、社長が出向くような案件があったとして、廉に知らされないということがあるだろうか?玄関先で、肩透かしをくらい、そっと隣に立つ廉の表情を見ると、目を細めて何かを思案しているようだった。母は、2人の関係について、もちろん、わかってましたよ!という感じで、大喜びだった。そして、その場で紫衣さんに電話をして、きゃぁきゃぁとはしゃいでいた。「廉、紫衣さんは‥‥お母さんは、私とのことを知っていたの?」「もちろんだよ。ここに来る前にちゃんと話をして来た。社長が認めてくれたら、改めて母も挨拶に来たいと言ってた‥‥んだけどな」日を改めて、自宅が難しいのであれば会社近くの料亭でも、と父との話し合いの場を持とうと幾度か約束を繰り返したが、毎回、直前になって都合が悪くなり、話をすることができない。廉だって忙しい合間をぬって時間を作っているのに、父は勝手なのではないかと綾香は腹を立てはじめていた。そして、それを宥める廉の様子を見て、さすがに何かあるのでは、とも感じた。「綾香、明日、時間があるかな」金曜の夜、韓国にいる廉から電話でそう聞かれた。彼の帰国は明日の夕方頃の予定だ。「どうしたの? 明日は午前中に紫衣さんの教室に行く予定だったけど」「それって横浜の教室だよね。終わった後、会える?」「大丈夫だけど。こっちに戻ってくるの夕方になっちゃうよ?」「俺が横浜の家の方まで行くから、そっちで待ち合わせよう」いつもなら教室終わりに実家に寄るので、実家近くで待ち合わせて、少々、だまし討ちのような形でようやく父