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第2話

Author: 甜菜一個
その夜、紅那はほとんど眠れなかった。

翌日は病院での再診日だった。

北都はすべての仕事をキャンセルし、自ら運転して彼女を病院へ連れて行った。

病院の前に着いたとき、顔に火傷の痕が残る女性が地面に座り込んで号泣しているのが見えた。

「あなたを助けるために火傷して、顔まで壊れたのよ。それなのにたった二年で、私を裏切って他の女を抱いて......最低!」

男は冷たく顔をしかめて言い放った。

「馬鹿馬鹿しい。お前みたいな化け物を毎日見てるせいで、毎晩悪夢を見るんだ!」

「正妻の座に留まらせてやってるだけでもありがたく思え。追い出さなかっただけマシだ」

紅那は無意識に拳を握りしめ、目の前の光景を見つめた。

あまりにも自分と似た状況だった。

思わず口をついて出た。

「北都も......同じことを考えてるの?」

だからこそ、浮気を隠し通しながらも、妻の肩書きを保ってやってるだけで恩義だと思っているのだろうか。

北都は彼女の頬の傷を優しく撫でながら言った。

「紅那、俺の心を疑ってるのか?」

彼女が沈黙すると、北都は真剣な口調で言った。

「俺が愛しているのは君という人間であって、見た目なんか関係ない。君が美しくても醜くても、変わらずにな」

紅那は寂しげに笑った。

「本当に?」

北都は誓うように答えた。

「もちろん。結婚するとき、誓っただろ?この命尽きるまで、君だけを愛すると」

その誓いの言葉はまだ耳に残っている。

けれど、誓ったその人間はもう別人のようだった。

病院に入ると、思いがけず葉月の姿を見かけた。

北都は不快げに声を荒らげた。

「家で仕事をしろって言っただろ、何しに来た」

葉月はお腹を押さえながら痛そうな顔で紅那を見たが、瞳の奥には明らかな勝ち誇りの色があった。

「サボったつもりはないんです。全部彼氏が悪いんです、昨日あんまり激しくて......女同士ですし、分かってもらえますよね?」

紅那は無表情で答えた。

「彼氏さん、あなたのこととても愛してるみたいね」

葉月はわざと甘えたように言った。

「彼ったらひどいんですよ。私をこんなにしておいて、一人で病院に行かせるなんて......旦那様の十分の一も及ばないんです」

「あ、呼び出されちゃった。先に行きますね」

葉月が去った後、北都は明らかにそわそわし始め、しばらく我慢した末に口を開いた。

「紅那、そういえばこの病院に入院してる友人がいたのを思い出した。ちょっと顔を見に行ってくる。すぐ戻るよ」

紅那は淡々とうなずいた。

だが「すぐ戻る」は二度と戻らないという意味だった。

彼女は気にも留めず、再診を終えるとタクシーで直接ビザセンターへ向かい、出国手続きを済ませた。

その間、葉月がSNSを更新していた。

【体調悪いけど、彼氏がずっと看病してくれて、プレゼントまでくれた。嬉しい】

写真の中、葉月の首にかかっていた月型のダイヤのネックレスは、昨日北都が紅那に贈ったものとまったく同じデザインだった。

紅那は胸が締めつけられるように痛み、スマホを閉じた。

二時間後、北都から電話がかかってきた。

「紅那、どこにいるんだ?ずっと探してたよ!」

紅那は深く息を吸い込んで答えた。

「診察が終わったから帰ったわ」

北都は申し訳なさそうに言った。

「ごめん、紅那。久しぶりに会った友達で、話が弾んで時間を忘れちゃった。もうこんなことしないから」

「母さんが晩ごはんに戻れって。すぐ迎えに行くから」

毎週、実家で食事をするのは長浜母が決めた厳格なルールだった。

紅那にとって、それは最も気の重い時間だった。

以前はそうでもなかったが、顔が崩れてからというもの、長浜母は彼女を明らかに嫌っていた。

彼女が北都を助けるために顔を失ったとしても、長浜母にとっては「醜い女は優秀な息子に相応しくない」という理屈の方が勝っていた。

重傷で昏睡していた頃から、長浜母は何度も「お金で解決して、婚約を破棄させなさい」と北都に進言していた。

車が長浜家の邸宅に入ると、紅那が降りた瞬間、ひとりの小さな男の子が大型の水鉄砲を持って駆け寄ってきて、彼女に水を浴びせかけた。

「悪い魔女をやっつけろー!ブスなんか死んじゃえー!」

紅那はとっさに腕で防ごうとしたが、服はすでに濡れてしまっていた。

次の瞬間、北都がその男の子を抱き上げて、お尻を叩いた。

「悪いおじさん!ブスを守るなんて最低だ!悪い奴だー!」

子どもの泣き声に長浜母が現れ、すぐに孫を庇うように後ろに隠した。

「子どもの戯れよ。何本気にしてるの?綺麗は綺麗、醜いは醜い。それすら口にしちゃいけないの?」

北都は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「母さん、紅那は俺のせいで顔を失ったんだ。あの時、彼女がいなかったら、俺はもうこの世にいないんだぞ!」

「今日からはっきり言っておく。今後、この家で紅那を貶めるような言葉を一言でも聞いたら、俺たちは二度とここに戻らない!」

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