LOGIN一年前の「百鬼夜行」の日、冥界の門が破られ、溢れ出した妖怪たちが人間界を蹂躙し、大虐殺を行った。 幸運にも生き残った者たちは皆、妖怪を退治する「異能」を覚醒した。 私に宿ったのは、命中すれば百発百中の必殺スキル。だが、その発動対象は「豚」限定だった。 そのため私は「最弱の役立たず」と蔑まれ、食堂の裏方で家畜の解体係としてあてがわれた。 そして一年後、妖気が最も強まる「百鬼夜行」の日が再び巡ってきた。基地は瞬く間に妖怪の群れに包囲される。逃げ道を作るため、恋人はあろうことか私の手足を拘束し、囮として妖怪の群れの中に放り込んだのだ。 「竜美、俺たちを恨むなよ。お前の異能何の役にも立たないから、この大災害の世の中じゃ、無能は死ぬのがお似合いなんだよ!」 彼は未亡人である義姉を大事そうに抱えて脱出用のバスに乗り込み、妖怪に喰らわれる私を見下ろした。 「お前の命で、俺たちのようなS級異能者が助かるんだ。光栄に思え。これぞまさに名誉の戦死ってやつだ」 彼は知らなかったのだ。私の「妄想症」が悪化していたことを。 そして、目に映るすべての禍々しい化け物たちが、私にはただの「豚」に見えていたことを。
View More「古賀怜治?」血と泥にまみれ、ボロ雑巾のようになった男が、あの光り輝く基地のスター、古賀怜治だと認識するのに時間がかかった。「どうしてそんな姿に……」言い終わる前に、彼の手が私を掴んだ。彼は私を抱き寄せ、体中をしっかりと確認し、手足が揃っていることを分かると、安堵の息を漏らした。そして彼は言った。「竜美、俺を責めないでくれ。最初からこうするつもりだったんだ。バスが安全圏に着いたら、すぐに車を奪ってでもお前を助けに戻るつもりだった。俺はお前を見捨てたりしていない」彼の必死な形相を見て、ようやく彼が言わんとすることを理解した。「……まだ、よりを戻せるとでも思ってるの?」彼はきょとんとした。「いつ俺たちが別れたんだ?あの突き落とした時のことか?違う、違うんだ竜美。あれは方便だ。俺はお前の服に、妖怪が嫌う『魔除けの香木』を忍ばせておいたんだ。奴らはお前を無視するはずだった。突き落としたのは、一時的な避難措置で……」私は彼の言葉を遮った。「魔除けの香木って、これのこと?」私は地面に落ちていた薄汚れた匂い袋を指差した。「そう、それだ!俺が大量のポイントを使って手に入れた……」怜治が得意げに近づこうとした瞬間、私は彼を蹴り飛ばした。「ふざけないでよ!妖怪どもは発狂したように私に群がってきたわよ!中に何が入ってたと思う?『誘引剤』よ。妖怪を興奮させる血の粉末。特殊な袋で人間には分からないようになってたけど、奴らにとっては最高のご馳走だった!」怜治は絶句した。「馬鹿な……中身は香木のはずだ。紗枝に頼んで入れてもらったんだぞ……」彼は目を見開き、声が震え始めた。「紗枝が……すり替えたのか!あいつだ!兄貴を死なせた時も、そうやってあいつは……!あいつは俺のためを思ってやったと言い訳するんだ。俺は感謝しつつも、あいつが秘密をバラすのが怖くて、言いなりになってたんだ!竜美、信じてくれ!俺は本当に魔除けだと思ってたんだ!」彼は必死に取り繕い、視線を周囲に向けた。そして、テントに描かれた大陸最大最強の組織「皇都(こうと)要塞」の紋章と、周囲の妖怪の死体を見て、胸を撫で下ろした。「運良く皇都の援軍に拾われたんだな!命が助かって本当によかった。でなきゃ俺は一生後悔するところだった!今すぐ彼らに
この異様な視線に耐えられなくなったのは、紗枝の方だった。彼女は前に進み出た。「皆さん、誤解です!怜治がこうしたのには、深い考えがあってのことなんです……」彼女は以前、怜治が私に言った言い訳を思い出し、目を輝かせてそれを流用した。「そう、そうです!怜治は最強の異能者ですよ。彼が竜美ちゃんを突き落としたのは、それがその時点で最も正しい選択だったからです。あの時はそうするしかなかったのですよ!」だがこの擁護は、怜治の英雄的イメージにとどめを刺した。「俺も攻撃系だが、重量オーバーの時に荷物じゃなくて人を捨てるなんて戦術、聞いたことないぞ」「ガキでも、危険な時に人と物のどっちを捨てるか聞かれたら、迷わず物を選ぶよ!」「人間こそが未来の戦力だ。荷物なんてただの死物だろ!」誰かがトランクをこじ開け、中身を見て鼻で笑った。「貴重な薬品や物資かと思えば、なんだこれ。ただのガラクタ工芸品じゃないか。こんなもののために恋人を犠牲にしたのか?古賀、正気か?頭イカれてんのか?」非難の声は高まる一方だ。紗枝一人では太刀打ちできず、彼女は再び怜治に助けを求めた。「怜治、早く説明してよ!みんな誤解してるわ……」予想に反して、怜治は反論しなかった。彼は衆人の視線を正面から受け止め、こう言った。「言い訳はしない。俺が償う」誰かが嘲笑う。「もう数十キロも走ったんだぞ。彼女はとっくに妖怪の胃袋の中だ。どうやって償うんだ?冥福でも祈るのか?」怜治は答えず、紗枝に向き直った。その表情は、かつてないほど真剣で、冷酷だった。「お前への借りは、これでチャラだ。今後、お前を特別扱いすることは二度とない。お前がどう生きようと、野垂れ死のうと、俺にはもう関係ない」紗枝は目を見開き、事態の深刻さを悟った。涙が一気に溢れ出す。「さっきの発言で怒らせちゃったの?謝るわ、ごめんなさい!ね?」怜治はすがりつく彼女の手を振り払い、冷たく言い放つ。「安全な場所に着いたら、お前とは縁を切るつもりだったんだ」彼の本気を悟った紗枝は恐怖で震え出した。「怜治、そんなの駄目よ!私を見捨てないで!あなたがいなきゃ、私生きていけないわ!」「知ったことか。俺は、俺の世界に戻る」そう言い残すと、怜治は皆が呆然とする中、窓を全開にし、走行中のバスから飛び降りた!「俺は
車内は瞬時に静まり返り、呼吸音さえ聞こえるほどだった。怜治が突然爆発するとは誰も予想しておらず、司令官さえも怪訝な視線を向けた。ひそひそ話が漏れ聞こえる。「古賀はどうしたんだ?さっきまであんなに内海紗枝を大事にしてただろ?有名なカップルじゃなかったのか?なんで今さらキレてるんだ?」その答えを、誰よりも紗枝が知りたがっていた。彼女は猫のことなど忘れ、怜治の腕を掴もうとした。「怜治、どうして急に怒鳴ったりするの……」だが、肌が触れた瞬間、怜治の怒りは頂点に達した。パシッ、彼女の手を振り払い、怜治は立ち上がった。そして彼女を見下ろして言い放った。「内海紗枝、お前はただの兄嫁だ!自分の立場をわきまえろ!他の男を探して再婚するのは自由だが、俺に触るな!」この発言に、野次馬を決め込んでいた乗客たちは呆然とした。「えっ、内海紗枝は古賀の彼女じゃなかったのか?」「じゃあなんで同棲してたんだ?しかも、彼女の荷物を守るために、無関係な人間を一人見殺しにしたんだぞ」「あの突き落とされた子、川越竜美って言ったか?知ってるぞ!能力は大したことないけど、真面目に働いてた。保有ポイントだって、ここにいる連中と大差ないはずだ。リストラ候補になるわけがない」竜美の名前を聞き、怜治は痛いところを突かれたように、唐突に弁明を始めた。「お前らに何が分かる!俺が竜美を殺そうとするわけがないだろう!」それを聞いた乗客たちの目は軽蔑に変わった。「俺たちはこの目で見たぞ。あんたが彼女を車から蹴り落とし、妖怪の群れの中に置き去りにしたのを」「彼女が神様か、翼でも生えてない限り、助かるわけがない。死ぬだけじゃ済まない、骨まで噛み砕かれてるさ!」誰かが嫌悪感を露わにして言った。「私情で一人殺したことを追求しなかったのは、今が非常時で、あんたが強力な戦力だからだ!それなのに、彼女の死を直視せず、罪悪感の微塵も見せないなんて、あんたそれでも人間か?」非難の嵐が彼を襲う。怜治の呼吸は荒くなった。彼は叫ぶように反論した。「何も知らないくせに!川越竜美は俺の彼女だぞ!俺がわざわざ恋人を殺すわけがないだろう!」彼が事情を説明する前に、車内には息を飲む音が響き渡った。「今なんて言った?あの突き落とされた川越竜美が、古賀の本命だって?」全員が信
基地を脱出した装甲バスの中に、九死に一生を得た喜びはなかった。あるのは死の静寂だけだ。ほぼ全員が、直接的あるいは間接的に、ドア付近に座る怜治に視線を注いでいたが、誰も口を開こうとはしなかった。無言の圧力に耐えきれなくなったのは、怜治の隣に座る紗枝だった。彼女の顔からは笑みが消え失せていた。気まずさを誤魔化すように咳払いをし、目的地の話題を振った。「司令官、次の避難所まではどれくらいかかりますか?」最前列の中央に座る司令官は、フロントガラスを凝視したまま、彼女を振り返りもしない。返事もなかった。沈黙はさらに深まる。無視された紗枝は、さらに居心地の悪さを募らせた。この状況を打開しようと、彼女は突然思いついたように腕の中のラグドールを放し、小声であやし始めた。「いい子ねみーちゃん、司令官おじさんのところへ行ってご挨拶してらっしゃい……」猫は彼女の指示を理解したかのように首を傾げ、尻尾を振りながら運転席の方へ優雅に歩き出した。これで空気が和むと、紗枝は期待した。だが突如、司令官の怒号が轟いた。「それをすぐに戻せ!さもなくば殺すぞ!」紗枝は恐怖に顔を引きつらせ、慌てて席を立つと、運転席の前から猫をひったくるように抱き戻した。殺されるのを防ぐため、指が白くなるほど強く抱きしめる。同時に、彼女の顔には「被害者」の表情が張り付いた。自分が悪いとは微塵も思っていない。謝罪ではなく、言い訳が口をついて出た。「私はただ、皆さんが張り詰めているから、空気を和ませようと……皆さんのためにしたことなのに、受け入れたくないなら断ればいいじゃないですか。あんな怖い声を出して、みーちゃんを殺すなんて脅す必要ありますか?見て、この子怯えちゃって……」潤んだ瞳、震える声。それは、か弱く無力な白百合そのものだった。「私には強者の愛と庇護が必要です」と、無言で訴えかけている。この世界が崩壊する前も、そして崩壊してからも、彼女はこの手を使って男たちから利益を得てきた。だから今も、彼女は本能的に最後の武器――「美貌」と「弱さ」を行使し、憐憫と寛容を引き出そうとしたのだ。だが、彼女は勘違いしていた。以前、男たちが彼女に足を止めたのは、生活にまだ余裕があったからだ。色香を愛でることはただの娯楽だった。しかし今は、一歩間違えれば奈落の底に落ち