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第6話

Author: オレンジ
氷のように冷たい水が肺に流れ込み、ドレスは水を含んで愛子を下へと引っ張った。

愛子は水を蹴ろうとしたが、体に絡みついたドレスに動きを制限された。

水面に浮かぶこともできず、底にも届かない。

心臓が激しく鼓動し、愛子は窒息を感じた。

必死に足に絡みついたドレスを引き剥がそうとする中、ようやく足先がプールの底に触れた。

全身の力を振り絞って踏ん張り、その力を借りて何とか水面に浮かび上がった。

プールサイドには大勢の人が押し寄せ、様々な声が蜂の巣のように響いていた。

咳き込む合間に、愛子は深山が群衆を掻き分け、靴も脱がずにプールに飛び込み、懸命に咲良の方へ泳いでいくのを見た。

跳ね上がった水しぶきが愛子の顔に掛かり、一瞬視界が曇った。

深山はすぐに咲良を抱えて岸に上がった。

咲良の顔色は青ざめ、そして深山の顔も彼女に劣らないほど蒼白だった。

彼は誰かが差し出したバスタオルで咲良を包み込み、失って取り戻した宝物のように強く抱きしめた。

咲良は目を開け、大粒の涙を流した。「拓也さん、怖かった......」

愛子は顔の水を拭い、浮き輪につかまりながらゆっくりと岸に向かった。

安全用の梯子に手が届き、愛子が一歩を踏み出した時、上から深山の氷のように冷たい顔が見下ろしていた。

「謝れ」彼は高みから言い放った。

愛子は彼と目を合わせた。「私じゃありません......」

「お前じゃないなら彼女が自分から?彼女は水が怖くて、泳げないんだぞ!」

咲良は小さく啜り泣き、周りの人々は囁き合いながらこちらを見つめていた。

上から巨大なスポットライトが灯り、その白い光が愛子を照らした。まるで尋問を受ける容疑者のようだった。

「愛子、謝れ!」深山は必死に怒りを抑えているようだった。

「おいおい、何してるんだ?」誕生日の主役の中村が駆けつけ、深山を引き離そうとした。「愛子さんがそんなことするわけない......ほら、自分もこんな状態になってるじゃないか」

中村は深山の友人の中で、珍しく陰で愛子を陥れることのない数少ない一人だった。

深山は冷笑し、刃物のような目で愛子の顔を切り裂いた。「自分をこんな状態に追い込むのが、彼女の一番得意なことだ」

中村がまだ諭そうとした時、愛子は突然笑顔を見せた。

「謝ります。ごめんなさい、咲良さん」彼女は顔を上げ、明るく笑った。

深山は一瞬固まった。

中村も驚いて言葉を失った。

このような状況で笑える人などいないはずだった。

次の瞬間、愛子は深山のズボンの裾を軽く引っ張り、小さな声で言った。「もう怒らないで、いい?」

そうだ、これこそが愛子だった。深山の機嫌を取るためなら何でもする女。

謝罪なんて、誰が正しくて誰が間違っているかなど、どうでもいいことだった。

中村は安堵の息を吐き、愛子を引き上げるよう人々に指示した。

深山は顔を曇らせたまま立っていた。愛子の笑みを見た時に頂点に達した怒りは、彼女の柔らかな謝罪の声で不思議と消え、今は説明のつかない焦燥感と重苦しさに変わっていた。何かが制御を失いかけているような感覚が潜在意識にあった。

愛子がドレスの裾を持ち上げ、素足で彼の傍を通り過ぎようとした時、深山は彼女の手首を掴んだ。

「拓也さん、お腹が痛くて......」咲良が怯えた声を出し、腹を押さえて苦しそうにした。

一瞬の後、深山は愛子の手を放し、素早く咲良の側に駆け寄って屈んだ。「病院に行こう。全身検査をした方がいい」

愛子はその場に取り残され、乱れたドレス姿で四方八方からの視線に晒された。

その目には軽蔑、嘲り、興奮が混ざっていた。

「これで愛子さん、深山さんに振られるでしょうね。目の前で新しい彼女を連れて行くなんて。私なら二度と人前に出られない......」

「あなたならね。でも愛子さんは違うわ。彼女の『心』は広いもの。明日にはまた厚かましく付きまとうはずよ......」

中村は気まずそうにバスタオルを差し出した。「更衣室まで案内させるよ」

「ありがとう」愛子は透けたドレスをタオルで包み、給仕の後について立ち去った。

足の甲の火傷は、先ほどの揉み合いでプールのタイルに擦れ、皮膚が剥け落ち、血で汚れていた。

しかし愛子は痛みを感じないかのように、静かに一歩一歩進んでいった。

別荘に戻ったのは夜の十一時過ぎだった。

愛子は二階に上がり、着替えを済ませ、クローゼットから昼間に用意しておいたスーツケースを取り出した。

ホールに出ると、物音を聞きつけた紅子さんが出てきて、この様子を見て不安そうに尋ねた。「お嬢さん、こんな遅くにどちらへ?」

愛子は微笑んだ。「紅子さん、この三年間お世話になりました。さようなら」

壁の時計が十二時を指し、低い音を鳴らした。

終わった。

全てが終わったのだ。

愛子はスーツケースを引いて玄関を出た。重荷から解放されたような気持ちだった。

その時、スマートフォンが鳴り、画面には深山の名前が点滅し続けていた。
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