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第5話

Author: ひとつの甜菜
当時、彼は彼女にこう言ったことがある。「浩司は薬学の狂人です。自分の子どもさえ植物状態にしてしまった。そんな男の研究所で実験台になるなんて、ご自分の命を差し出すようなものですよ」と。

それでも晴香は、命を懸けてでも真也を救いたいと強く願っていた。

もし真也があの頃のことを問いただせば、真実は隠し通せない。

晴香は先手を打ち、口を開いた。「あのときね、私と藤原様が夜更けまで遊んでいて、うっかり病院に入っちゃったの。急患として受け入れてくれたのが康太先生だったの」

その言葉に、真也の表情は一気に険しくなり、怒りが爆発した。「晴香、お前、ほんとにふざけてるな!」

「この病室も中の人間も、徹底的に消毒しろ!」

そう命じると、美玲を連れて部屋を出て行った。

晴香は康太の白衣の裾をつかみ、必死に懇願した。「康太先生、お願いです。真也にはあのときの真実を言わないでください」

康太は、ぼろぼろになった晴香を見つめて言った。「あなたは彼を救うために、三年間も実験室で苦しみ続けたんです。今も命は長くない。それなのに誤解されたままで……それでも本当に意味があるんですか?」

晴香はかすかに笑みを浮かべ、昔と変わらぬ強い眼差しで答えた。「あります」

ほどなく、防護服姿の看護師たちが消毒液を背負って現れ、部屋中と晴香の体に大量の消毒液を吹きかけた。

刺激臭にむせ、涙が止まらない。

康太は深くため息をつき、ティッシュを差し出し、額の傷を消毒して包帯を巻いてくれた。

その後数日間、真也は晴香に手を出すことはなかった。ただ召使いのように扱い、虐げるだけだった。

洗面器を持たせ、足を洗わせ、蹴り飛ばして地面に跪かせて水を拭かせる。

晴香が心を込めて作った食事は、目の前で犬に与えられた。

「お前みたいな汚れたやつの作ったもんは、人間の食い物じゃない。犬にでも食わせとけ」

真也は美玲を連れて高級ブランド店に行き、何億円も使ってバッグをすべて買い取り、それを徒歩で別荘まで運ばせた。

晴香は一昼夜、走り回った末に道端で倒れ込むほど消耗した。

再び病院で目を覚ますと、数日間の無理が祟り、体はもはや限界に達していた。余命はせいぜい一週間ほどだと、康太から告げられる。

その言葉に、晴香はなぜか安堵を覚えた。

ようやくこの死にかけの体を引きずり、真也への抑えきれない想いから解き放たれる――そう思えたのだ。

ただ、死ぬ前に果たさなければならないことが、ひとつだけ残っていた。

そのとき、真也から電話が入った。

「晴香、ただの貧血で倒れただけだろ。いつまで病院で怠けてる気だ?」

真也は命令口調で続けた。「さっさとロマンティック・ウェディングドレス店に来い。美玲にドレスを着せ替えろ!」

晴香はベッドを降り、急いで店へ向かった。あまりに顔色が悪く人を驚かせるほどだったので、看護師から化粧品を借りて薄化粧でごまかした。

店に着くと、美玲はすでにドレスを着て試着室から姿を現した。

淡い紫を基調としたドレスは、美玲の完璧なプロポーションをいっそう際立たせていた。

店員たちは羨望の眼差しで口々に言った。「本当に素敵ですね!真也社長自らデザインされたんですって」

「このラベンダー色は、プロヴァンスの花を忠実に再現したものなんですよ」

「美玲さん、本当に幸せ者ですね。真也社長はお金持ちで、ハンサムで、しかも愛情深い。こんな男性と結婚できるなんて、前世でよほどいいことをなさったんでしょうね」

晴香はその場で立ち尽くし、思わず目に涙がにじんだ。

このドレスは、かつて自分が夢見た姿そのもの。真也は、それを本当に形にしてくれたのだ。

けれどそれを着るのは、もう自分ではなかった。

真也は優しく美玲の髪を整え、振り返ったときの視線には晴香への温かさなど微塵もなかった。

「そんなに顔色がいいのに、貧血だと?やっぱり医者とグルになってついた嘘だな」

晴香は涙をぬぐい、泣き顔よりもなお惨めな笑みを浮かべた。

「見抜かれちゃったか。せっかく数日間ゆっくり休もうと思ったのに」

真也は冷たく笑った。「晴香、二百万円でお前を一か月雇ったのは、楽をさせるためじゃない。さっさと美玲の靴を持ってこい!」
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