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第3話

Auteur: バラバラ
私はあまり近づく勇気がなく、少し聞き覚えのある声が聞こえてきた。彼の友人、沢村健太だった。

「清水家の女ってチョロすぎだろ?もっと何かあるかと思ったけど、あっさり成功しちゃったな。まあ、お前の演技が上手かったおかげでもあるけどさ。清水美咲は今でもお前が会社員だって信じてるんだろ?この三枚の船のチケット、お前がコツコツ貯めた給料で買ったんだろ?笑うぜ」

沢村健太の言葉に、爪が掌に食い込んだ。凍えるような冷たさが骨まで染みた。続けて田中陽太の声が聞こえた。

「清水家の人間はいつだってああやって自分勝手なんだ。ここまで落ちぶれても、復讐の快感なんてちっとも感じない。本当につまらないよな。清水百合子もあの状態じゃ、もう長くは生きられないだろ。一番の打撃は、可愛い娘の清水美咲が俺の子を妊娠してるってことだろうな」

思わず、少し膨らんだお腹にそっと手を当てた。心から待ち望んでいたこの子は、ただの道具だったなんて......

「清水美咲って結構可愛い顔してるよな。飽きたら、俺にもちょっと遊ばせてくれないか?」

沢村健太の下劣な言葉に、思考が遮られた。田中陽太の声が冷たくなった。

「彼女は俺の妻だ。そんな冗談はよせ。気分が悪い」

少しだけホッとしたような気がしたけど、同時に自分の滑稽さを痛感した。こんな状況で、何を安心しているというのだろう。

私はコソコソと廊下を離れ、従業員を見つけてすぐに医務室の場所を尋ねた。

場所が分かると、急いでそちらへ向かった。船の医務室はそれほど広くなく、駆け込んだ時には医師が一人だけだった。

私は急いで母の氏名を告げ、医師が指さした閉まっている部屋へと飛び込んだ。

酸素マスクをつけた母がベッドに横たわっている。視界が涙で滲んだ。

母の傍らに跪き、全身の力が抜けていくようだった。

母は目を閉じ、ベッドの上に置かれた指先は冷たかった。

私は力強く母の手を握りしめ、背後に人が入ってきたことにも気づかなかった。

突然、私の脛に足がのしかかり、激痛が走った。「いったっ!」思わず声が漏れた。

頭上から田中陽太の声が聞こえた。

「お前の母の命は今、俺の掌の上にある。この船が港に着くまで、あと少なくとも三日だ。どうすればいいか、分かってるだろうな」

痛みをこらえ、私は彼の前にひざまずき、ズボンを掴んで泣きじゃくりながら言った。

「どうすればいいの?田中陽太、お願い、お母さんを助けて......心臓が本当に弱いの。もう二度も手術してるの......私を復讐の的にして!お母さんを放して......お願い」

田中陽太の表情が見えない。膝が木の床に当たって痛い。田中陽太は私の髪の毛を掴んだ。

私は思わず顔を上げた。彼はもう片方の手で私の頬を軽く叩いた。

「お前への復讐?何様のつもりだ。俺の言うことを聞いて大人しくしていれば、お前の母の命は繋いでおいてやる。あんな風に楽に死なせてやるのも面白くないからな」

どのようにして田中陽太の部屋に戻ったのか覚えていない。彼は私を部屋に連れて行くと、鍵をかけて出て行った。

私はベッドにボケーッと座り込んだ。下半身から鮮血が滲んでいるのに気が付いた。

その赤い染みに視線を固定し、力なく口角を歪めた。

先週、ちょっとした腹痛で慌てて病院に検査に行ったばかりなのに。今は、この鮮血のように、この子が静かに私の体から消えてくれればと願っていた。

この子への愛情は、全て消え去ってしまったようだった。それどころか、憎しみのような感情がムクムクと込み上げてきた。

私は血の痕跡を全て消し、小さな窓から外の海を眺めた。目の前には、迷いと不安だけが広がっていた。

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