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第3話

Penulis: 匿名
父は忘れている。あのとき私は、脚を骨折して手術を受けたばかりだった。医師からは、甘いものも冷たいものも口にしないようにと言われていた。

ホームビデオの映像が切り替わる。

雪乃が小学校に入学したときの映像だ。真新しい制服を着て、玄関ではしゃいでいる。

母はしゃがみ込み、雪乃の胸元のリボンを整えながら、優しい眼差しで彼女を見つめている。

「雪乃は昔から手のかからない子ね。それに比べて詩乃ときたら、わがままばかり言って。脚はもう治っていたのに、いつまでも車椅子に乗りたがって。私たちにもっと構ってほしかっただけなのよ」

本当は医師から、3ヶ月は経過を見ながら、歩かないようにと言われていたからだ。

父がふいに口を開く。

「そういえば覚えているか?雪乃が熱を出したとき、詩乃も具合が悪いと言い張ったことがあったろ。結局病院に連れて行ったら、雪乃は39.5度もあったのに、あいつは熱も何もなかった」

母は露骨に嫌そうな顔をする。

「もうやめて。あの子の話をするとイライラするわ。昔から本当に性根の悪い子なんだから」

そのとき、電話が鳴った。

母がローテーブルの上からスマホを取り、画面を確認する。

「知らない番号ね。セールスかも」

それでも一応、電話に出る。受話口から、かすかな声が聞こえてくる。

「もしもし、須藤詩乃さんの……」

次の瞬間、スマホの画面が暗くなる。バッテリーが切れたのだ。

時計の針は、夜9時を指している。

雪乃が大きなあくびをする。

「お母さん、明日、お姉ちゃんに新しいワンピースを買いに行こうよ。お詫びのしるしってことで」

母はためらうことなく首を横に振った。

「放っておきなさい。2、3日もすれば、あの子も頭が冷えるわ。さあ、もう遅いからそろそろ寝なさい」

父も立ち上がり、雪乃の頭を優しく撫でる。

「お前も早く寝ろ。詩乃みたいに、何かあるたび家出するんじゃないぞ」

私はリビングの中央に立ち、両親が寝室のドアを閉めるのを見つめる。続いて、雪乃の部屋のドアも静かに閉じられた。

明かりが一つ、また一つと消えていく。

私が今夜どこで寝るのか、誰一人として気に留めない。

私がまだ、あの冷たい川の中にいることなど、誰も覚えていない。

……

翌朝。母は私の部屋の前で少しためらってから、声をかける。

「詩乃、お母さんよ」

2分ほど待っても返事がないと、次第に苛立ち始める。

「詩乃!もう何時だと思ってるの!いつまで寝るつもり?」

部屋の中からは何の音も聞こえない。

母はさらに強く、ドアを2回叩く。バンバンと大きな音が響く。

「聞こえてるんでしょ!返事をしなさい!」

やはり物音一つしない。

「本当に、忌々しい子ね」

母はドアノブを回し、勢いよくドアを開けた。

私は彼女の背後からふわりと部屋の中へ入る。

部屋はきれいに片づいている。布団はきちんと畳まれ、机の上には開いたままの問題集が置かれている。

しかし、昨夜、誰かが寝た形跡はない。

「どこ行ったの?」

母はクローゼットの前まで歩き、勢いよく扉を開ける。

服が何着か、なくなっている。

母は身をかがめてベッドの下をのぞき込み、布団までめくる。やがて、険しい顔で立ち上がる。

「また家出したのね」

母は部屋を出ていく。スリッパの音がパタパタと廊下に響く。

ダイニングでは、父がコーヒーを飲みながら、スマホでニュースを見ている。

母は椅子を引いて座り、苛立った声を上げる。

「詩乃がまた家出したわ!服を何着か持ち出してるし、カバンもないの!」

父はスマホを置き、母をなだめる。

「放っておけ。いつものことだろ。腹が減れば、そのうち帰ってくるさ」

母は苛立った口調で言い返す。

「今回は違うわ!もう10時間も経ってるのよ!電話にも出ないし」

父は気にも留めない様子で言う。

「前だってそうだろ。俺たちが必死に探し回ったのに、あいつは呑気にショッピングモールでタピオカを飲んでたぞ」

母の声が少し低くなる。

「あのときは雪乃がコンクールで金賞を取って、私たちが褒めたから、あの子はそれが気に入らなくて、あんな騒ぎを起こしたんだから」

私はダイニングテーブルのそばに浮かんだまま、黙って二人の会話を聞いた。

本当は、あの日、私は月例テストを受けていた。両親は、そのあと学校の三者面談に来てくれると約束していたのだ。

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