私・須藤詩乃(すどう しの)は必死に首を横に振り、指を岩の隙間に食い込ませながら、どうにか這い上がろうとする。鼻にまで川の水が入り込み、声を出すことさえできない。母・須藤冴子(すどう さえこ)が金切り声を上げる。「雪乃の薬をすり替えたのはあんたよね?雪乃がはっきりと見たって言ってるのよ!」必死に身振りで伝えようとするが、凍るような寒さで、思うように動けない。――私じゃない。雪乃の薬に触れたことなんて、一度もない。口を開けても、傷ついた声帯を空気がすり抜け、ヒューヒューというかすれた音しか出てこない。父・須藤宗一郎(すどう そういちろう)は、後ろに控えるボディガードたちを振り返る。「何も言わないってことは、認めたも同然だ。そのまま水に浸からせておけ。自分のしたことを認めるまで、絶対に引き上げるな」妹・須藤雪乃(すどう ゆきの)はそっと母の腕に手を添え、弱々しく言う。「お母さん、川の水はすごく冷たいから、お姉ちゃんが風邪を引いちゃうよ……」「風邪?雪乃と違って、詩乃は心臓病もないし、無駄に丈夫なのよ!雪乃は優しすぎるの。水に浸かっていれば、自分が何をしたか思い出すかもしれないわね!」水が耳元まで迫り、周囲の音が次第に遠ざかっていく。父が母の肩を抱いて背を向けるのが見える。雪乃が私に向かって、ゆっくり首を横に振る。声は聞こえない。それでも、その唇の動きが、はっきりと読める。「ざ・ま・み・ろ」3人が車で去ったあと、私は必死に岸まで這い上がった。しかし、茂みから飛び出してきた男に阻まれ、再び川へ突き落とされる。須藤家のボディガードだ。「恨まないでくれよ。雪乃様からの指示で、お前が謝るまで岸に上げるなってことになってるんだ」口をパクパクと動かしても、やはり声は出ない。助けを求めて手を伸ばすと、ボディガードはスマホを取り出し、笑いながら私を撮影し始めた。ようやくもう一度岸へ上がった瞬間、今度は首を掴まれ、そのまま水の中へ押さえつけられた。「この喋れない女を殺せば、2000万か。雪乃様もなかなか気前がいいな」「それにしても、こいつ、ずいぶんきれいじゃないか。早く片づけろって言われてなきゃ、もう少し楽しんでみたかったぜ」「チッ、2時間も浸かってるのに、まだ死なねぇのか。しぶといな」私が
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