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第120話

Author: 雲間探
十年以上前のことなのに、今でも彼女ははっきりと覚えている。

あの日、悲しくてトイレに行った彼女が戻ってきた時、大森おばあさんが手に持っていたのは、彼女と大森優里のために買った二本のアイスだった。

そのうちの一本は、汚れたトレイを持ったウェイターが通りかかった時にぶつかってしまい、一部が削れて油までついていた。

優里はすぐに無傷の方を取った。

大森おばあさんはただ彼女の頭を撫でて微笑んだだけで、汚れた方を捨てて新しいものに取り替えてくれることはなかった。

彼女が戻った時、おばあさんはそのままアイスを手渡し、「なぜ欠けているか」には一言も触れなかった。

あの当時の大森家の財力を考えれば、アイス一本どころか千本でも一万本でも、いくらでも買えたはずだった。

それでも、彼女は替えてくれなかった。

その瞬間から、彼女ははっきりと悟った。大森おばあさんの自分への愛情は、もうとうに変わってしまっていたのだと。

そして、自分が汚れたアイスを持っているのを見つめたあの時の、幼い優里の顔に浮かんだ悪意に満ちた視線も、彼女は決して忘れない。

正雄に関しては、こうした出来事は他にも山ほどあった。

そう考えると、智昭に対してはもうどうでもいいと思えてくる。

慈愛に満ちた顔をしている大森おばあさんと、道徳ぶってあたかも彼女のためのような顔をしている佳子を見て、彼女はふっと笑った。そして智昭や優里とのことを持ち出してこう返した。「みんなが本当に私を心配してくれているって、私もそう信じたい。でも、あなたたちの気遣いって、優里が私の結婚に割り込むのを揃って手伝うことなの?」

その言葉を聞いても、大森おばあさんと佳子の表情には、まったく動揺がなかった。

きっと、彼女がこう言うことは最初から予想していたのだろう。

大森おばあさんはため息をついて言った。「玲奈、あなたと智昭の関係がどうなってるか、あなたもわかってるでしょう。愛してもらえない相手と無理に一緒にいてどうするの?離婚して初めて、あなたはやり直せるのよ。おばあさんは——」

「私のためを思ってくれてる、って言いたいんでしょ?」玲奈は話をさえぎり、彼女と佳子を見ながら言った。「こんな言葉だけの心配、よくもまあ飽きもせず何度も繰り返せるわね。私をごまかすにしても、そんな調子でどうして私が信じると思うの?もう少し新しい言い回
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Mga Comments (5)
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良香
なるほど。おとなしく、目立たず空気のような佇まいは、この幼少期が原因なんか。 一度植え付けられたトラウマ克服するにはなかなかの根気が必要。お母さん側の親族は穏やかできっと玲奈さんの性格もこちら側なんだよね。
goodnovel comment avatar
ソメイヨシノ
そうか、この頃クズ男と出会ったのか
goodnovel comment avatar
yoshi horarara
この人達本当に🩸の通った人間ですか 本当に罰当たって どん底まで落ちて欲しい...
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