幼馴染みでもあり、従兄妹という繋がりもある 大好きな人との結婚を夢見ていた花。 その願いが一人の悪女によって 打ち砕かれてゆき、 花の心に大きな傷跡を残す。もがきながらも新しい 人生に船出をし、さまざまな人たちの狭間で揺れながら 幸せへの道に辿り着く、そんなstoryになっています。 登場人物 ◉掛居 花 27才 主人公 向阪 匠吾 27才 花の婚約者 島本玲子 29才 悪女 島本蘭子 32才 玲子の姉 金城信也 32才 蘭子の恋人 井出耕造 41才 宅麻士稀 29才 若き医師 内野歌子 25才 看護師 相馬綺世 30才 現場監督 相原清 史郎 32才 槇村笙子 29才 ◉魚谷理生 31才 遠野理子 24才 小暮ゆき 26才 雨宮洋平 33才 星野倫子 29才 宮内隆 33才 柳井寛 33才
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「牧野さん、私、向阪 匠吾《こうさかしょうご》さん狙っていきまぁ~す」
一緒に社食に向かうこの春準社員で入社して来た島本玲子 が 開けっ広げに私に宣言してきた。 『いや、ちょっとそれは…まずいかも。しかし最近入ってきた人には 分かンないよね~』と心の声。 「水を差すようだけど向阪くんに彼女いる可能性は考えないの?」「彼、独身ですよね?」
「ええ、まあ、独身だと思うわ」
「じゃあ、もし彼女がいても無問題ですよ。
結婚がゴールだとしたらそこに辿り着くまではマラソンみたいなものだから
一番にゴールした者の勝利ってことで。私の前に1人2人走ってたって平気ですよ。
ゴールのラインはまだ誰も踏んでませんからね」 「島本さんって積極的なのね~」 「私もう29才、いわゆる崖っぷちっていうやつなので、 大人しくしていたら永遠に独身まっしぐらですもん」『島本さん綺麗だから今までチャンスは幾らもあったと思うんだけど、
高望みし過ぎたとか?20代で綺麗で積極性があって、なのにどうして今だに独身なのかしら、
と訊いてみたいところだけど、きっとここは踏み込んではいけないところよね』
向阪くんが掛居 花 《かけいはな》ちゃんと仲いいことは周知の事実に
なっている。中には知らない者もいるだろうけれど、ほとんどの者が知っている。
ほぼほぼ公認の仲っていうヤツよ。
29才独身はやはりパートナー狙いで入社してきたようだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 実は彼女の採用時の最終面接にはうちの課の仕事の補佐をお願いするものだから課長、係長そして私と3人が人事課以外からも面接の場に立ち会っていた。
今回の応募者は20代前半の人が大半で20代後半は島本さんひとりだった。 経理経験者は彼女ともうひとり40代既婚の人がひとりだけ。課長と係長は仕事ができることと見た目で、島本さん即決だった。
私は正直40代の女性とどちらにするか迷った。
結局私も島本さん推しということで彼女に決まったわけだけど、
私ひとりがあの時40代の女性を推していても数の論理でいくと 結局島本さんだったのよね。 仕事ができる人は恋愛もそりゃあ積極的だわよね~、そうじゃない人も いると思うけど。121 週明け出勤後、何となく私は遠野さんのことが気になってしようがなかった。 芦田さんに直談判に行ったという遠野さんだったが、その後ニ度ほど一緒に昼食を摂った時も小暮さんがいたせいかもしれないけど相原さんや芦田さんの名前が出ることはなかった。 彼女は唯一のとっかかりを失くしてアプローチを諦めたのだろうか。 そんなふうな思いを抱いて1週間……。 また金曜の夜間保育の日がやってきた。 別段相原さんから緊急連絡は入ってないので今日も彼は20時頃凛ちゃんを迎えに来るだろうと予想し、私は19:40頃になるとなるべく早く帰れるように凛ちゃんの様子を見ながら周囲を見回して片付けを始めた。「掛居さん!」 声のする方を振り向くと作り笑いを顔に貼り付けた遠野さんの姿があった。『えっ!』 私は言葉が出なかった。「私、夜間保育は仕事としては入れなかったの。 それで一度は諦めたんだけど、よく考えてみたら相原さんにアピールするのが目的なんだから保育要員じゃなくてもいいんじゃないかって気付いたんです。 掛居さんとは同じ職場で働く者同士、知り合いなのだし……。 だから掛居さんの様子伺いに来ました」 だから? 私は彼女の意図するところがよく分からなかった。 私の様子伺い? だけど、もう少しで残業も終わるっていう今頃になって? 『ハッ!』そういうことか。 相原さんのお迎えの時間に合わせて来たっていうことなのね。 すごいぃ~、遠野さんって真正の肉食系女子だったんだ。「様子伺い……って、あともう少しで業務も終わりよ」「相原さん、20時には来ますよね?」「たぶん……ね」「私も掛居さんと一緒に見送りしたいなぁ~」「いいけど、大抵私はほとんど話すことはなくて、芦田さんの横に立って『お疲れさまでした』って言うだけなの」 私がそう言うと遠野さんは部屋の中をぐるりと見渡して探った。「でも、今日は芦田さん、いないみたいだけど」 遠野さんが私にそう言うやいなや、いつの間にか芦田さんが起きていたようでタイミングよく、私の代わりに遠野さんへの返事をしてくれた。
120 「いえ、別に私はそういうのは……」「ええ、ええ。分かってます。 私の勝手な言い草だと思ってスルーしてね。 あぁ、面白がったりしているわけではないことだけは分かってね。 ただの私の勝手な想いなの。 もう恋愛なんてっていう難しいお年頃になっちゃったので、自分を可愛らしい掛居さんに置き換えて妄想して楽しんでるだけ。 私じゃあ相原さんのお相手には絶対なれないから、ふふっ」「可愛らしいだなんて……ありがとうございます、ふふっ。 じゃあこれからかわゆい凛ちゃんの子守、代わりますね」 芦田さんが奥でゆっくりしている間、私は凛ちゃんに読み聞かせをしたり、積み木をしたりして凛ちゃんパパを待っていた。 凛ちゃんが待ちくたびれて私の膝にチントンシャンと座り指吸いを始めた頃、待ち人《相原さん》からメールが入った。『帰りに送るので駐車場まで来て。 車種はトヨタのプリウスで色はホワイト。 一緒は掛居さんのほうがまずいだろ? 俺と凛は先に乗って待ってるから。 え~と車は2列目の左から5番目だから』 すごいモテてる相原さんから送ってあげるよとのオファーがあり、芦田さんや遠野さんの顔がチラチラ浮かんでちょっとビビった。 先に乗って待ってるってすごいなぁ~。 こういうふうに気遣いのできる人なんだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 保育所までお迎えに来た相原さんに、少し前に奥のスペースから起きてきていた芦田さんが声掛けをして凛ちゃんを手渡し、芦田さんと私から『お疲れ様でした』の声を掛けられ、相原さんはいつものように部屋をあとにした。 すぐあとを追うことになっている私は気持ち、ギクシャク感半端なかったけれど、その辺を片付けるとすぐに自分も芦田さんに挨拶をして部屋を出た。……ということで、凛ちゃんが寝ている側で他愛のない話をして私たちは一緒に帰った。 車で帰れるなんて、それも人様に運転してもらって、タクシーでいうならお客様状態。 楽チン過ぎて電車通勤が嫌になりそ。『あーっ、やっぱり遠野さんの話、聞きたくなかったなー。 遠野さんお願いだから私を恋愛事に巻き込まないでよねー』 私はその夜寝る前にお祈りをした。 でもあれよね、遠野さんに狙われてもしも相原さんが陥落するようなことにでもなれば、もう今日のように車で送
119 「こんばんは」「あぁ、掛居さん、ちゃんと来てくれて良かったわ」「……」 「いやぁあのね、週初めに遠野さんから掛居さんに代わって夜間保育を やらせてほしいってお願いされてたのね。 それで何気にまたなんでそういう気持ちになったのか訊いてみたの。 そしたら夜間保育には必ず相原さんのお子さんがいるっていうことを 掛居さんから聞いたのでって彼女が言ったの。 その時は私も全然遠野さんの意図が読めなくて何も考えず 『凛ちゃんのファンなの?』って訊いたの。 後々考えてみたらピンとこない私もアレなんだけど 『いえ、いや、そうなんです。凛ちゃんも可愛いし、でも私は 凛ちゃんのお父さんとも親しくなれたらと思っています』 って遠野さんに言われちゃって。 気が回らないというか、私としたことか迂闊だったわぁ~。 掛居さんは一連の遠野さんの言動っていうか、ふるまいというか、気持ち知ってたのかしら?」 「はい、一応。夜間保育したくて立候補するけどいいか、ということは 話してもらってました。 でもその後の結果というか報告は聞いてなかったので 今日いつものようにこちらへ来ました。 あの……遠野さんの要望はどうなったのでしょうか?」 「私ね、遠野さんから話を聞いて、ここは彼女のために応援するべきかどうか 悩んだのだけど、なんかねぇ、彼女のことをよく知らないっていうのも あって応援する気になれなかったの。 それでお断りしたわ。 私は掛居さんのガツガツしていないところが好き。 相原くんのお相手が掛居さんだったなら応援する」 きゃあ~、芦田さんったら何を言い出すんですかぁ~、私は反応に困った。
118 遠野さんだったら私のように匠吾や島本玲子から逃げ出したりせず、各々と向き合い対決して怒りをぶつけたり、折り合いをつけたりと、自分でちゃんと決着つけられるのかもしれない、とふとそんなことを思った。 当時の私は無防備で、相手に依存し安心しきっていた上に完璧を求め過ぎ、そして何より弱すぎた。 ある日突然終わってしまった私の悲しい恋と恋心。 あの日から私の時間は止まってしまった。 私はちゃんと生きているのかな? 時々戸惑いを覚える。 あんなに好きだった人《匠吾》にあの日から会いたいと思ったことは一度もない。 遠野からの意外な告白を聞いた日からちょうど1週間が過ぎ、夜間保育の金曜になったけれど芦田から遠野の話は出ていないし、また遠野本人から夜間保育の担当になれたという報告も受けていない。 わざわざ自分から遠野に訊くのも違うような気がして、花はいつものように自分の担当部署の仕事を片付けると夜間保育の仕事場へと向かった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 遠野はというと、花に夜間保育の件を話した後週明けすぐに芦田に直談判していた。 芦田からは、派遣社員は雇用形態がこちらの社員とは違うので副業で夜間だけ働いてもらうことは難しいとバッサリ断られていたのだった。 それは確かに芦田が断る1つの理由でもあったのだが、実はもうひとつの理由があった。 遠野の言動から夜間保育を志望する理由というのが、凛をはじめ、子どもたちのことを可愛く思ってのことではなく凛の父親狙いというのが透けて見えたためだった。
117 遠野さんの分かってます発言はほんとに分かっていての発言なのか、 非常に怪しい。 最後の含み笑いは私を困惑させるのに十分な威力を備えていた。 周囲には隠して付き合っている、というストーリーが彼女の頭の中で 展開されている節がある。 何故なら相原さんと付き合っているのか、という問いかけはなかったからだ。 まぁあれだ、彼女は小説を書く人だから、一般人よりは妄想たくましい 可能性はあるよね。 相原さんとデートしたことなんて絶対知られないようにしなきゃ、だわ。 何気にこういうの疲れるぅ~。「掛居さん、私、夜間保育をして少しずつ相原さんとお近づきに なりたいんです。 それで芦田さんに夜間保育をやりたいってお願いしてみようかと 思ってるんですけど、立候補したら迷惑でしょうか……迷惑になります? ご迷惑ならこの方法は止めなきゃ駄目ですよね」 私は先ほどから遠野さんの言動に驚かされてばかりなんだけど、 今の話を聞いて更に『目玉ドコー』な感覚に陥った。 なんて言うんだろう、彼女のお伺いって控えめさを装った強引な お願いにしか聞こえなくて、少し嫌な感じがする。 元々こういうキャラの女性《ひと》だったのか、はたまた片思いが 高じた所以のものなのか。 よく考えてみたら私が持っていた遠野さんのイメージなんてたまに 社食で昼食を一緒に摂るだけの間柄で何を知っているというのだ。 恋する乙女は貪欲で猪突猛進で私は恋する乙女? の力強さにある意味 感服するところもあるけれど、自分に置き換えてみるに、とてもそんなふう な形での力強さは一生掛かっても持てそうにないや。
116「皆《みんな》モチモチしていて可愛かったぁ~、大満足ぅ~。 掛居さんが抱っこしてた子って凛ちゃんですよね」「あぁ、うん。でもどうして……」 遠野さん、どうして凛ちゃんのこと知ってるのだろう。 「実は2回ほどひとりで昼休みに子供たち、見に行ったことがあって 芦田さんから聞いてたんです。 夜間保育のことか休日のサポート保育のこととか。 私、ちょっと後悔してるんですよー」「えっ?」「その理由が姑息過ぎて余り大きな声では言えないんですけど……」「なになに?」 「小説書くのに忙しいのは本当で、昼休憩の時間も惜しいくらい小説に時間 を割きたいというのも本当ですけど、あのカッコいい相原さんの娘さんが あの保育所にいるということなら話は別です。 こんな大事を知らなかったとは、迂闊でしたぁ~。 今までの時間が悔やまれます。 私なんて掛居さんより先に入社していたというのに。 掛居さん、私の言わんとするところ、分かります?」 「ええ、まぁなんとなくは。 相原さん本人に興味があるってことかな?」「え~いっ、掛居さんだから思い切って話しちゃいますね」 いやっ、話さなくてもいいかな。 だって話を聞いてしまうとなんとなぁ~くだけど後々ややこしいことに 巻き込まれそうな気がするのは取り越し苦労というものかしらん。 「相馬さんも素敵だけど今までの経緯を見ていると、とても並みの人間には 太刀打ちできない感じがして、遠い星っていう感じだから恋のターゲットに ならないでしょ? それに今や掛居さんといい感じみたいだし。 私略奪系は駄目なんですよね」 はぁ~、遠野さんの話を聞いていて私は頭が痛くなってきた。大体、今まで誰それに好意があるなんていう話を出してきたことなんて なかったというのに、いきなりの想い人発言。 しかも相原さんてぇ~、どんな反応すればいいのか困る。「あの、相原さんのことは何も反応できないけども、相馬さんとのことに 関しては、私たち付き合ってないから……」 「分かってますってぇ。むふふ」
115 「じゃあここで。 すみません、送っていただいて。 今日はいろいろとありがとうございました」「いや、これしきのこと。 しかし……ひゃあ~、まじまじとこんな間近で見るのは初めてだけどすごいね、35階建てのマンション。 今度さ、凛も連れて行くからお部屋見学してみたいなぁ~」「いいですよ。片付けないといけないので少し先になりますけどご招待しますね」「ありがたや。一生住めない物件だから楽しみにしてるよ。じゃあ」「はい、また明日」 いやぁ~、なんか相原さんのペースに乗せられて自宅の公開まで……。 私たちの距離が一遍に縮まりそ。 自分でも吃驚。 こういうのもありなの? ありでいいの? 答えはいくら考えても出ないけど、いたずらに拒絶するのもどうなのとも思うし。 それにちゃんと相原さん私の思ったこと分かってくれてるみたいだったし 取り敢えずこの夜、私は自分の胸に訊いてみた。 私は相原さんに恋してる? 恋に落ちた? NOだと思……う。 私は匠吾に向けていた……向かっていた強い恋心を元に考え、答えを導き出した。 素敵な男性《ひと》だな、とは思うけど、知らないことが多すぎる。 恋に落ちてないと昨夜、自分に向けて確認したけれど昨夜に引き続き、翌日になっても自分の気持ちが何気にルンルンしていることに気付いて、やっぱり異性とのデートは知らず知らず心が弾むものなのだなと悟った。 ただこれ以上深く考えようとするのは止めておくことにした。 そして今の自分の気持ちを大事にしようと思うのだった。 それから仕事終わりの金曜日……遠野さん、小暮さんと一緒にランチをしたあとのこと。 小暮さんはいつものようにいそいそと浮かんだアイディアを図にするべくデスクへと戻って行った。 いつもなら2人してデスクに戻るはずの遠野さんから『久しぶりにチビっ子たちを見に行きませんか』と誘われ、私たちは社内保育所へと足を運んだ。 遠野さんはいろいろな子たちと触れ合い、子供たちとの時間を楽しんでいるようだった。 私はというと、私を見付けた凛ちゃんが真っ先に飛んで来たので私はずっと凛ちゃんを抱いたまま他の子たちと触れ合い、昼休み終了の時間まで保育所で過ごした。 そんな私たちの様子をにこやかに見守っている芦田さんの姿が見えた。 子供たちと
114「えーと、私と一緒に食事して怒ってくる恋人的存在の女性がいたりってことはないですね? あとでトラブルに巻き込まれるのは困るのでここは厳しくチェックさせていただきます」「掛居さん、子持ちなんて俺がどんだけ素敵オーラを纏《まと》っていても誰も本気で相手になんてしないから。そういう心配はないよ」「えーっ、そういうものなのかなぁ~。 私は凛ちゃんみたいな可愛い子、いても気にしませんけど……。 あっ、私ったら余計な一言でした。 恋人になりたいとかっていう意味じゃなくてですねその……」 私はやってしまったかも。 微妙にこの辺のことは発言を控えた方がいいレベルだったと気付いたが時すでに遅し。 本心から別に今、相原さんLoveで恋人になれたらいいのに、なんていう恋心から言ったのではなく、常々凛ちゃん好き好き病でつい、口から零れ落ちてしまったというか、零れ落としてしまったのだけれど、なんか変な誤解を招く一言だったよね。 嫌な冷や汗が流れそうになった。 きゃあ~、絶対勘違いさせちゃったよね。『お願い~相原さん、変に受け取らないでぇ~』「いやぁ~、恋愛抜きでも凛のことそんなふうに思ってもらえるなんてうれしいよ。じゃあ子持ち30代、希望あるかな」 「はい、相原さんならばっちり」「そんなふうに言ってもらってうれしいけど……」「けど?」「なかなか出会いの場がないからねー」「ほんとに。仕事ばかりで出会いないですよねー。 世の男女はどうやって結婚するのかしら? そうだ、一度結婚したことのある先輩、どうやって出会ったんですか?」「あー、うー、その話はまた今度ってことで」「楽しみぃー!」 なんだかんだ2人で話しているうちに私たちはいつの間にかマンションの前に着いていた。
113 相原さんとの初デートは音楽と美味しい食事、そして語らえる相手もいて思っていた以上に楽しい時間を過ごすことができた。 こんなに近距離で長時間、洒落た時間を共有したことがなかったので、朗らかに活き活きと話をする相原さんを見ていて不思議な感覚にとらわれた。 私はこれまで交際していない男性と一緒に食事をするという経験がなく、世の中には恋人ではない異性の同僚と一緒に食事をするという経験のある人ってどのくらいいるのだろう? なんて考えたりした。 もちろん相手のことが好きでデートするっていうのは分かるんだけどね。 まだまだ相原さんのことは知らないことだらけだけど、彼と話すのは楽しい。 彼を恋愛対象として見た場合、凛ちゃんのことはさして気にならない……かな。 だけど凛ちゃんママの関係はかなり気にしちゃうかなぁ~などと、少し後からオーダーしたワインをチビチビ飲みながらほろ酔い気分でそんなことを考えたりして、一生懸命話しかけてくれている相原さんの話を途中からスルーしていた。笑って相槌打ってごまかした。『ごめんなさぁ~い』「明日も仕事だから名残惜しいけどお開きとしますか!」「そうですね。今日は心地よい音楽に触れながら美味しいものをいただいて、ふふっ……相原さんのお話も聞けて楽しかったです」「そりゃあ良かった」 支払いを終え、私たちは店の外へ出た。「今日はご馳走さまでした。 でも休日のサポートは仕事なので次があるかは分かりませんけど、もう今日みたいな気遣いはなしでお願いします」「分かった。 休日サポートのお礼は今回だけにするよ。 さてと、家まで送って行くよ」「えっ、でもすぐなので」「一応、夜道で心配だから送らせてよ」「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」「俺たちってさ、お互いの家が近いみたいだし、月に1~2回、週末に食事しようよ。 俺、子持ちで普段飲みに行ったりできないからさ、可愛そうな奴だと思って誘われてやってくれない?」
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