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第154話

Author: 雲間探
智昭は玲奈のほうを見ず、茜の小さな鼻を軽く撫でて言った。「パパは用事があるから、ママの言うことをちゃんと聞くんだよ。いい子でな」

「わかった」茜はしぶしぶ言いながら玲奈を横目で見て、玲奈のそばに来たとき、手を差し出してきた。手をつないでほしかったのだ。

それはつまり、彼女に自分から歩み寄ったということだった。

玲奈は彼女の手を取って、執事に軽く挨拶をしてから家を出た。

青木家に着いたとき、藤田おばあさんはすでにしばらく前に到着していた。

母娘だけが現れて智昭の姿が見えなかったことで、藤田おばあさんの表情がすぐに曇った。「智昭は?また仕事かい?」

玲奈は「うん」と言った。

藤田おばあさんは怒ったように携帯を手に取り智昭に電話をかけようとしたが、青木おばあさんはすでに玲奈と智昭が離婚間近であることを知っており、智昭が来る必要はないと思っていた。

彼女は藤田おばあさんを止めて言った。「仕事が忙しいだけだ。無理に来させなくていいよ」

家に入ると、茜は二階へ上がり、真紀とゲームを始めた。

玲奈は二人のおばあさんと一緒におしゃべりして過ごした。

藤田おばあさんは青木おばあさんが最近描いた二枚の絵を見てたいそう気に入り、それが玲奈が誕生日に贈った文房四宝で描かれたものだと知ると、その文房四宝にも興味を示した。

実物を見てさらに気に入った様子で、それからこう言った。「智昭は?まさか何も用意してないなんてことはないだろうね?」

「用意してあったよ」智昭の話が出たことで、青木おばあさんは少し機嫌を損ねたが、それでもこう言った。「あの子が贈ってくれたエメラルドのジュエリーはすごく綺麗だったし、あなたと一緒に贈ってくれた刺繍の絵も良かったわ」

藤田おばあさんは笑って言った。「それならまあまあだね。私の言ったこと、ちゃんと覚えてたみたいだ」

玲奈はそれを聞いても、何も言わなかった。

書斎でしばらく過ごしたあと、二人のおばあさんは再び外へ出て、庭でお茶を飲んだ。

青木おばあさんは向かいの家を見ながら話した。「そういえば不思議なのよね。あの家、前は昼も夜も工事してたから、すぐにでも誰か入居するのかと思ったけど、急に工事が止まっちゃって」

藤田おばあさんは笑って言った。「何かあって、入居できなくなったのかもしれないわね」

「そうかもね」

玲奈としてはその家を
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源谷小百合
智昭は何がしたいのか 自分の立場をハッキリさせてから次に進めば良いのに …読んでて切なすぎて涙が出た 玲奈ちゃん幸せになって欲しい
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