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第289話

Author: 雲間探
今や彼女は藤田総研の株主であり、さっき姿が見えなかったのは、智昭たちと一緒に会議に出ていたからだった。

「姉ちゃん」結菜は笑いながら近づき、玲奈を一瞥して、二人にしか聞こえない声であざけるように言った。「花をもらって調子に乗ってた人がいたけど、あなたにたくさんの人が花を贈って、しかも義兄さんが株まで渡したって知ったら、一言もしゃべれなくなっちゃったわ」

優里はその言葉を聞き、玲奈にちらりと目をやったが、何も言わなかった。

結菜はさらに言った。「姉ちゃん、前に湊って人が彼女にすごく優しいって言ってたじゃない?でもバレンタインにあの湊が贈ったのって花一束だけよ、他には何もなかったの」

優里は眉をひそめた。

バレンタインに礼二が玲奈に贈ったのは本当に花束一つだけ?

それは確かに、あまりにも雑な扱いだった。

以前は、礼二は玲奈に対して本当に優しいと思っていた。

なにしろ、玲奈は長墨ソフトでかなりの発言権を持っているのだから。

でも、比較して初めてわかった。本当に礼二が玲奈を大切に思っているなら、どうして発言権だけ与えて、ポジションも株式も与えないんだろう?

そのとき、増山も歩み寄り、優里を見て笑った。「今は株も持ってるんですし、藤田総研の経営に本格的に関わるつもりです?」

優里は首を振った。「いいえ、専門のことはプロに任せます。私は権力を握るのが好きじゃないので」

その言葉を口にしながら、彼女は玲奈に視線を送った。

玲奈は本来そこまで能力があるわけでもないのに、長墨ソフトでの立場を誇示したくて、あれこれ口を出していた。

それなのに、彼女には役職も株も何一つない。

思えば、それって結構笑える話だ。

玲奈は黙々と仕事に取り組んでおり、さっきのやりとりにもまったく動じていなかった。

そのとき、彼女の携帯が鳴った。

画面をちらりと見ると、真田教授からのメッセージだった。

【明日の夜、迎えに来て】

先週、真田教授は玲奈に会いたがっている人がいると言っていた。

明日会うのは、その人のことだろう。

玲奈はそう思いながら返信した。【はい、先生】

返信を送ると、玲奈は携帯をしまい、再び仕事に集中した。

翌日、玲奈と礼二は真田教授を迎えに行き、予約してあったレストランへと向かった。

目的地に到着して車を降りた途端、玲奈は晴見と義久の姿を見かけた
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Comments (2)
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せんのはる
う...️ん。藤田総研で凄い貶められてのギャップ(笑)
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岸本史子
またモブ淳一かー、自分は父親にも相手にされてないのに、どこにでも現れるな
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