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第316話

Author: 雲間探
智希は一瞬言葉に詰まった。「財産分与なしでの離婚?本気ですか?」

智昭は非常に寛大で、彼女に渡す予定の財産は、一生贅沢に生きても使い切れないほどの額だった。

それを捨てるなんて、正直彼には理解できなかった。

玲奈は言った。「本気です。ただし、条件が一つあります」

元々、彼の財産なんて欲しいと思ったことはなかった。彼がくれたものだって、いらないならいらないで、惜しいとは思わない。

ただ……

以前、藤田おばあさんが転倒して入院した時、智昭はお見舞いに来てくれた彼女への感謝として、400億円と、彼女の祖母が住むマンション区画内の別荘を三棟、プレゼントしていた。

その三棟の別荘は、たとえ後から智昭に贈られたものだとしても、離婚時の財産分与リストに含まれていた。

だから、登記名義が自分になっていても、離婚が成立するまでは法的には自分のものにならない。

財産放棄を選べば、それらは手に入らない。

そしてそれらを自分が手にしなければ、離婚後、智昭がそのまま大森家か遠山家に譲ってしまう可能性は高い。

遠山家の性格からして、それを手にしたらすぐに引っ越してきて、彼女の祖母に嫌がらせをすることも目に見えていた……

そう思いながら、彼女は智希に言った。「その三棟の別荘だけは欲しいんです。贈与じゃなくていい、お金を払って買い取ります」

ここ二ヶ月でかなりの収入を得ていた今なら、その代金も十分に払える。

玲奈の意図は、智希にも理解できた。

不利な選択だと思いながらも、玲奈の意志があまりに強かったため、それ以上は何も言わなかった。

状況が変わったため、智希はすぐに智昭の弁護士に連絡を取り、玲奈の意思を伝えた。

およそ三十分後、玲奈が夕食に出かけようとしていた時、智昭から電話がかかってきた。

離婚の話だろうと考え、玲奈は電話に出た。「はい」

電話の向こうで智昭が言った。「夕飯、もう食べた?」

「……まだ」

彼女は彼と長く話すつもりはなかった。「私の意向は、弁護士から伝わっていると思う」

「伝わってる」智昭は言った。「お前の意志なら俺は構わない。でもな……おばあさんが離婚のことを知って、協議書を見たんだ。変更するなら、お前からおばあさんに話してほしい。おばあさんが納得してくれれば、すぐに手続きする」

藤田おばあさんは自分を心配してくれていた。彼たちが離婚
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Comments (7)
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山本山
うちの玲奈、、、小賢しく、、、いい傾向?? 何がしたいんや??? おまっ今楽しんでないか? ドSとおもいきやドMだな?
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美紀子
早く終わってくれって切に願う
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千恵
うちの玲奈??? は?? お前狂ってる!!
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