Masuk「今、この5秒で……彼にキスしてもバレないよね?」 広告代理店の「ドジっ子」社員・ルナの正体は、時間を5秒だけ【 停止・逆転・加速 】させる宇宙人! だが能力が地球人にバレれば、即・母星へ強制送還。 無能を装い静かに暮らすはずが、ルナは「氷の暴君」と恐れられるエリート上司・九条蓮の絶体絶命な窮地を見てしまい……。 「あと5秒あれば、彼を救えるのに!」 禁断の力で密かに彼を救うルナ。だが完璧すぎる偶然に、九条の鋭い瞳が光る。 「君、ただのドジじゃないな? 正体を吐くまで離さない」 正体を隠したい宇宙人vs執着MAXの溺愛上司。5秒の静寂で繰り広げられる【 隠密無双 】コメディドラマ、開幕! 第5話以後は毎日19:00更新予定です。
Lihat lebih banyak「ああっ、またやった……!」
オフィスに私の情けない叫びが響いた。手元から滑り落ちたのは、淹れたてのコーヒー。 地球の重力というのは、どうしてこうも気まぐれなのだろう。銀河系の端っこから調査にやってきて三ヶ月。私は未だに、この星の物理法則と仲良くなれずにいた。 名前は星野ルナ。大手広告代理店で「万年ドジっ子」のレッテルを貼られた底辺社員。 ……というのは仮の姿だ。 本当の正体は、銀河の果てから地球の文化を調査しに来た【 観測者(エイリアン) 】。そして、指先ひとつで時間を「5秒」だけ操れる、銀河でも希少な能力の持ち主である。 でも、その力を使うことは厳禁だ。 もし地球人に正体がバレれば、即・母星へ強制送還。私の地球での「おにぎり探求生活」は終わってしまう。 「星野。……怪我はないか」 低く、落ち着いた声が頭上から降ってきた。 九条蓮(くじょう れん)。 我が社の誇る超エリート上司。常に背筋を伸ばし、一分の隙もないスーツ姿の彼は、社内一ストイックな男として知られている。 「す、すみません、九条部長……! すぐ片付けます!」 「謝罪はいらない。だが、君は自分の歩幅を理解していない。……これを使いなさい」 彼は甘い言葉をかけるわけでもなく、無造作に自分の白いハンカチを差し出した。 周囲の社員は「また部長に詰められてる」と遠巻きに見ているが、違う。彼は、私が火傷をしていないか、一番に確認してくれたのだ。 「他人の評価を気にする暇があったら、自分の足元を見なさい。私は、君の価値は他人の物差しで決まるものではないと考えている」 ぶっきらぼうな言い方。でも、周囲が「無能」と笑う中で、彼だけは私を「一人の社員」として正当に、ストイックに評価してくれている。 ――かっこいい。 私が、彼が絶体絶命の窮地に陥るたびに、こっそり時間を止めて救っているのは、私なりの恩返しでもあった。 その日の夕方。事件は起きた。 新プロジェクトのプレゼンのため、九条部長と共にビルを出て移動していた時のことだ。 歩道を歩く九条部長の背中を見ながら、私は心の中で 「歩く姿もトレンディドラマの主役みたいだなぁ」なんて場違いなことを考えていた。 その時だった。 ガガガッ、という不穏な金属音が上空から響いた。 見上げると、工事中のビルから巨大な鉄骨が、固定具から外れて落下してくるのが見えた。 落ちる先は――九条部長の真上。 「部長、危ない!」 叫んだが、遅い。彼は避けるよりも先に、咄嗟に私の肩を掴んで自分の方へ引き寄せ、庇おうとした。 死の淵にあってなお、彼は自分より部下を優先する。……そんなの、絶対に死なせられない。 私は周囲に誰も見ていないことを瞬時に確認し、指を鳴らした。 【 世界よ、止まれ。 】 その瞬間、色が消えた。 落下する鉄骨も、行き交う車も、道行く人々の驚愕の表情も、すべてがモノクロの静止画に変わる。 私だけに許された、自由な5秒間。 「……本当、お人好しなんだから」 私は静止した世界の中で、九条部長の体を抱えるようにして数メートル横へ引きずった。 至近距離で見る彼の顔は、ストイックな性格を象徴するように凛々しい。でも、その腕は私を必死に守ろうとしていた形で固まっていた。 残り、1秒。 私は何食わぬ顔で、自分も彼に巻き込まれて転んだような姿勢を取る。 【 時間は、動き出す。 】 ズドォォォォンッ!! 鼓膜を震わせる轟音と共に、鉄骨がアスファルトを砕いた。九条部長のいた場所は、無残に陥没している。 「……なっ?」 九条部長が呆然とした声を漏らした。 彼は歩道に倒れ込み、その腕の中には、私がいた。 「だ、大丈夫ですか、部長……! びっくりしましたね……!」 「星野……今、君が動いたのか?」 九条部長が私の肩を強く掴む。その瞳は驚きに揺れていたが、すぐに鋭い「観察者の目」に変わった。 彼は、他の誰よりも私のことを見ていた。だからこそ、今の「不自然な速さ」に気づいてしまったのだ。 「えへへ、私、焦ると足が速くなるんですぅ」 いつもの笑顔で誤魔化そうとした。けれど、九条部長は私を離さない。それどころか、顔をぐっと近づけてきた。 その瞬間、彼から余裕の仮面が剥がれ落ちる。 「……君は何者だ。この短時間で俺を救い、自分まで無傷でいるなど、計算が合わない」 心臓が跳ねた。至近距離すぎる。 剥き出しになった【 俺 】という言葉と、熱い吐息が頬にかかる。厳格な彼が、これほどまでに激しい執着心を見せるなんて。 (……今、この5秒で……彼にキスしてもバレないよね?) そんな考えが頭をよぎった瞬間、九条部長が私の耳元で低く囁いた。 「逃がさないぞ。君が隠しているもの、すべて俺に吐き出せ」 強制送還の危機と、ストイックな彼からの強引な独占欲。 私の地球調査は、どうやらとんでもない方向へ走り出してしまったみたいだ。一週間前の夜。リビングでくつろいでいた時、蓮さんが不意に新聞から目を上げて私に問いかけてきた。 「ルナ。この前、家族で行ったテーマパークだが。お前、あの高さから急降下するジェットコースター、随分と楽しそうに乗っていたな。……高い場所は、平気か?」 唐突な質問に、私は首を傾げながら笑って答えた。 「ええ、もちろんです。蓮さん。私、元々はもっと高い場所からこの星に降ってきたんですよ? 空に近い場所は、むしろ落ち着くくらいです」 「そうか。ならいいんだ」 蓮さんはそれだけ言うと、また視線を新聞に戻した。その横顔が、どこか満足げに綻んでいた理由を、私はその時深く考えもしなかった。 そして今日。夕立が上がった直後の、燃えるような夕暮れ。 私は、信じられない光景の中にいた。 「ルナ、時間を止めろ。……俺が解析したあの『理論』を、今ここで試す時だ」 蓮さんの言葉に導かれ、祈るように放った力。 いつもなら心臓の鼓動が5回打つ間に消えてしまう、儚い静寂。けれど、目を開けても世界は止まったままだった。秒針の音も、街の喧騒も、風のざわめきさえも、彼がこの10年をかけて引き延ばしてくれた「10分間」という贅沢な空白の中に溶けていく。 (……5秒じゃない。今、この広い空も、この静寂も、全部私たちのものなんだ) その奇跡の正体が、彼が私のために費やしてくれた膨大な知性と愛情の結果だと思うと、視界が熱くなった。 「……10分だ。誰にも邪魔されず、お前と空を歩くには十分な時間だろう?」 不敵に微笑む蓮さんにエスコートされ、私は実体化した【 七色のクリスタルの回廊 】へと足を踏み出した。 一歩踏み出すたびに、コン、コンと硬質な音が響く。それはまるで、私たちが共に歩んできた一歩一歩を刻み込んでいるかのようだった。 眼下に広がる、宝石のように静止した街の夜景。遮るもののない高度。ふと、一週間前のあの会話が脳裏をよぎった。 「……蓮さん。あの時、
「蓮さん、5秒止めて! 昴(すばる)が花瓶を倒しそう!」 「了解した。……その間に俺が碧(あおい)を抱き上げる。ルナ、お前はそのまま座っていろ!」 九条家の朝は、世界一贅沢で、世界一騒がしい。 長男の昴は、蓮さんに似て好奇心旺盛で、隙あらば知恵を絞って高いところへ登ろうとする。数年後に授かった長女の碧は、私の瞳を受け継ぎ、言葉を覚える前から5秒の予知を使ってお菓子を先回りして確保する。 「……全く。九条の血か、ステラリスの血か。どっちに似ても、この子たちの未来は前途多難だな」 そう言いながら、蓮さんは苦笑してコーヒーを啜る。かつて冷徹な部長として恐れられていた彼は、今や子供たちの遊び相手として、背中を「馬」にするのも厭わない、世界一過保護な父親になっていた。 「でも、蓮さん。この賑やかさが、私たちが守りたかった『地球の平和』なんですね」 「ああ。銀河を救うのも悪くないが、俺にとっては、このリビングに流れる穏やかな5秒の方が、何億光年の星空よりも価値がある」 蓮さんは私の隣に座り、そっと手を重ねた。 かつて孤独だった「赤ちゃんポスト」の少年は、今、自ら築き上げた愛の城の中で、誰よりも深い安らぎを得ている。 月日は流れ、私たちは少しずつ、けれど確かに「地球の時間」を刻んでいった。 ふとした時、沈む夕日を眺めながら、蓮さんが私の指先を絡めて呟く。 「ルナ。お前と出会ってからの俺の人生には、1秒の無駄も、1秒の後悔もなかった。……これから先、どんな未来が待っていようと、俺がお前を愛し、守り抜くという事実は、宇宙の理(ルール)さえも変えられない確定事項だ」 「蓮さん……」 「お前はただ、笑っていればいい。困難も、時間の壁も、すべてはこの俺がねじ伏せてみせる。……来世でも、その先でもな。俺は何度でも、東京湾でお前を見つけ出してやる。それが九条蓮の、唯一にして絶対の『傲慢』だ」 私は彼の肩に頭を預けた。 宇宙は果てしなく広いけれど、私たちの愛の座標は、ずっとこの場所にある。 青い星に咲いた二つの花は、次の世代へ、そして永遠へと、その香りを繋いでいくのだ。 【 エ
「……嘘」 洗面所で一人、私はその小さなプラスチックの棒を見つめて立ち尽くした。 検査薬に浮かび上がった鮮やかな「陽性」のライン。驚きと喜びで頭が真っ白になり、私は無意識に蓮さんの番号をタップしていた。 ……あ。 発信音が鳴ってから、彼がいま広告代理店の戦略会議の真っ最中であることを思い出す。 (切らなきゃ、仕事の邪魔に……) 『……ルナか。どうした、体調は?』 二秒と経たずに繋がった。背後からは部下たちのプレゼンする声が微かに聞こえる。 「あ、あの、蓮さん! ごめんなさい、会議中ですよね。あの……私、赤ちゃんが……できたみたいなんです」 申し訳なさで消え入りそうな私の報告。電話の向こうが、一瞬、真空になったかのように静まり返った。 そして――。 『やったあああああああ!!』 会議室全体を震わせるような、魂の底からの叫び。 「は、蓮さん……!?」 『……コホン。失礼、続けてくれ。……ルナ、よく聞いた。今すぐ帰りたいのは山々だが、この案件は俺が責任を持って詰め切る。あと一時間だ。一時間後、最速で帰宅する。いいか、それまで絶対に動くな。……いいな、絶対にだぞ』 電話の向こうでは、部下たちが「九条部長……!?」「今、パパって……」と動揺している気配が伝わってくる。けれど蓮さんは、浮き足立つ心を鉄の意志で抑え込み、努めて冷静な(けれど隠しきれないほど明るい)声で指示を出している。 『……今の提案、悪くない。だが、ターゲット層の絞り込みが甘い。……修正しろ。今日は定時で終わらせるぞ。俺には、世界で一番重要な予定が入った』 手を抜かず、むしろ驚異的な集中力で仕事を「完璧に、かつ最短で」完遂させようとする蓮さん。 「……あの人、もう」 私は顔が火を吹くほど赤くなるのを感じて、スマートフォンの画面を伏せた。 一時間後、一秒の狂いもなく蓮さんは帰宅した。 玄関を開けるなり、彼は私を壊れ物を扱うように抱きしめた。 「……待たせたな、ルナ。……指一本動かすな、重力に逆らうことも俺が禁じる!」 そこからの蓮さんの「過保護」は、まさ
ステラリスの「記憶の神殿」。そこは、この星の民が全宇宙で触れた感情を記録する聖域。 一柱のクリスタルに触れた瞬間、私の脳裏に強烈な既視感が走った。 記録映像に映っていたのは、数十年前の冬の夜。日本の片隅にある教会の「赤ちゃんポスト」。 そこに、小さな小さな赤ん坊が取り残されていた。(……あ。この、左の耳の後ろにある小さな痣……) それは、昨夜も愛おしく指先でなぞった、蓮さんのものと全く同じ痣だった。 震える私の視線の先で、当時の「私」が動く。 当時の私は、実体を持たない【 蛍のような光のフォーム 】で地球を偵察していた。 凍える寒さの中、赤ん坊の体温は刻一刻と奪われ、今にも消え入ろうとしていた。(……ダメ。死なせない!) 光の姿の私は、無意識に力を放った。 世界から色が消え、極寒の風が止まる。【 時間を止める能力 】で寒波を遮断し、自らの光を熱に変えて、赤ん坊の小さな体を包み込んで温め続けた。『……生きて。いつか、私が見つけに行くから』 その温もりに守られ、赤ん坊は九条家に拾われるまでの時間を生き延びたのだ。 「……ルナ? どうした、そんなに震えて」 現実に戻った私を、蓮さんが心配そうに抱き寄せた。私は涙を流しながら、今見た真実を彼に告げた。「蓮さん……私、あの日、あなたを暖めていたの。赤ちゃんポストで凍えそうだったあなたを……」 蓮さんが絶句する。だが、彼はすぐに優しく微笑み、私の目元を拭った。「……そうか。合点がいったよ。……実はお前が地球に来たあの日、俺が東京湾でお前を見つけたのは、偶然じゃない気がしていたんだ」 記憶が、今度は地球での出会いへと繋がる。 ルナとして実体を持って地球に降り立った私は、能力の使用を禁じられ、右も左も分からず、夜の東京湾で一人泣いていた。『……おい。こんなところで何を泣いている。身分証も持たずに』 声をかけてくれたのが、若き社長となっていた蓮さんだった。 彼は私が「身寄りのない外国人」だと名乗るのを静かに聞き入れ、路頭に迷わないよう、自らの息がかかった広告代理店への入社を斡旋してくれた。
その夜、私は大手クライアントとの会食、いわゆる「接待」の場に駆り出されていた。 場所は、予約が半年待ちという超高級料亭。 本来、私のような平社員が出る幕ではない。けれど、蓮さんのさらに上役である常務から「あのドジっ子くんを連れてこい。場の和みになるだろう」という、実質的な見せ物扱いの命令が下ったのだ。 「星野。……無理に出る必要はない。私は、常務には体調不良だと報告しておく」 出発前、蓮さんは部長室でそう言ってくれた。けれど、彼が自分の立場を危うくしてまで私を庇おうとする
サオリさんが仕掛けた盗聴器を破壊し、蓮さんと「共犯者」のような夜を過ごした翌日。 オフィスに戻った私の心臓は、いつも以上に激しく鼓動していた。 「ルナさん、ちょっといいかしら?」 給湯室で背後から声をかけてきたのは、サオリさんだった。昨夜の失態など微塵も感じさせない、完璧な笑顔。 だが、彼女の手元にあるものを見て、私の血の気が引いた。 「これ……昨日、オフィスの床で拾ったの。ルナさんのポーチから落ちたのかしら?」 彼女の
その夜、九条部長──蓮さんの自宅マンションで、私は地球の料理の奥深さに圧倒されていた。 食卓には、素材の旨味を凝縮させた『オマール海老のビスク』をはじめ、低温調理された『和牛のローストビーフ』など、プロ顔負けの数品が並んでいる。「星野。俺の料理に、文句は言わせない」 エプロン姿の蓮さんは、いつもの「氷の暴君」らしい口調のままそう告げた。 そんな至福の時間の直前、不意にインターホンが鳴った。現れたのは、私を敵視している同僚のサオリさんだった。「あら、蓮さん。……あら、ルナさんもいたの?」
深夜のオフィス。フロアの明かりは落とされ、九条のデスク周辺だけが、都会の夜景をバックに青白く浮かび上がっていた。サオリの嫌がらせを退け、プロジェクトのデータを無事復旧させたルナと九条は、二人きりで最終確認を終えた。「星野。……まだ、帰さないと言ったら、どうする?」九条が椅子から立ち上がり、ゆっくりとルナとの距離を詰める。ルナの背中が壁に当たり、逃げ場がなくなる。九条の長い腕がルナの顔の横で壁を叩いた。いわゆる「壁ドン」の形に、ルナの心臓は爆発寸前だ。「ぶ、部長……。あの、私……」「お前はさっき、自分のしたことは自分に返ると言ったな。ならば