落ちこぼれ女子社員は時を5秒操れる宇宙人、バレたら母星へ強制送還!  なのに溺愛上司が離してくれません

落ちこぼれ女子社員は時を5秒操れる宇宙人、バレたら母星へ強制送還! なのに溺愛上司が離してくれません

last updateLast Updated : 2026-05-03
By:  憮然野郎Completed
Language: Japanese
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「今、この5秒で……彼にキスしてもバレないよね?」 広告代理店の「ドジっ子」社員・ルナの正体は、時間を5秒だけ【 停止・逆転・加速 】させる宇宙人! だが能力が地球人にバレれば、即・母星へ強制送還。 無能を装い静かに暮らすはずが、ルナは「氷の暴君」と恐れられるエリート上司・九条蓮の絶体絶命な窮地を見てしまい……。 「あと5秒あれば、彼を救えるのに!」 禁断の力で密かに彼を救うルナ。だが完璧すぎる偶然に、九条の鋭い瞳が光る。 「君、ただのドジじゃないな? 正体を吐くまで離さない」 正体を隠したい宇宙人vs執着MAXの溺愛上司。5秒の静寂で繰り広げられる【 隠密無双 】コメディドラマ、開幕! 第5話以後は毎日19:00更新予定です。

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Chapter 1

第1話:今、この5秒で彼を救う

海市、ある冬の夜。

「陽咲なんて、俺には不釣り合いだ。彼女との結婚は単なる責任感からに過ぎない。

でも安心して、悠里。三年という契約期間が終われば、俺から離婚を切り出す。そうしたら君を妻に迎えるよ。いいだろう?

信じられないのか?」安部怜央(あべ れお)は小さく笑った。「俺が愛しているのは、一生君だけだ。疑うなら、俺の心臓を抉り出して見せてやってもいい」

書斎の中から漏れ聞こえる甘い睦言が、清水陽咲(しみず ひなた)の耳を刺した。

結婚して二年、怜央が自分に対してこれほどまでに情熱的で優しい言葉をかけたことは一度もない。

ドアの外に立つ陽咲は全身が凍りついたようになり、手に持っていたペアのカップを指が白くなるほど強く握りしめた。

夫である怜央が、陰で自分のことをそんな風に言っていたなんて信じられなかった。

五、六日もかけて丹精込めて焼き上げた陶器のカップに涙がこぼれ落ちる。その情熱が、今はひどく滑稽で皮肉に思えた。

陽咲は顔を上げて涙を拭い、自嘲気味に微笑んだ。

怜央が言ったことの中で、一つだけ正しいことがある。彼女は確かに田舎者だった。

生まれた際、看護師のミスで取り違えられ、男尊女卑の激しい女の元へ送られた。

その女は赤ん坊が女の子だと知るや否や、夫と相談して自分の義父に押し付けた。

神様の助けか、陽咲が清水正雄(しみず まさお)に引き取られた三日後、その夫婦は交通事故で亡くなり、それ以来、彼女は正雄と二人きり、肩を寄せ合うようにして生きてきた。

二十二歳の時、正雄が他界し、望月家の人々が彼女を見つけ出した。彼女こそが長年行方不明だった望月家の真の令嬢だという。

しかし、戻った陽咲を待っていたのは血のつながった両親の冷淡な態度だった。実の兄も彼女を歓迎せず、望月悠里(もちづき ゆうり)への愛情が奪われることを恐れていた。

だが、陽咲はそんなものを奪おうなどと考えたことはなかった。彼女はただ、温かい家が欲しかっただけなのだ。

家族への渇望を見透かした実の両親は、彼女に安部家との婚約を履行するよう命じた。それは数十年前、双方の祖父の間で交わされた約束だった。

当時の安部家は激しいお家騒動の最中にあった。二十年以上も手塩にかけて育てた悠里をそんな苦境に嫁がせたくない両親は、陽咲を身代わりに差し出した。

結婚前、怜央とは契約を交わした。結婚から三年が経過した後、性格の不一致を理由に離婚するという内容だった。

二人の結婚生活は、波風一つ立たない穏やかで節度あるものだった。

陽咲はその心地よいまやかしにいつしか絆され、怜央に対して底なしの愛を抱くようになっていた。

だが、二年間も睦み合ってきた夫が愛していたのは、名義上の妹であり、望月家の偽物の令嬢だったとは思いも寄らなかった。

部屋の中では、怜央の電話が続き、次第にその呼吸が荒くなっていった。

電話越しに女性の艶めかしい喘ぎ声が聞こえ、やがて卑猥な響きが書斎を満たす。

陽咲は涙に濡れた顔で口を抑え、絶望に突き動かされるように一歩後退した。

「悠里、いつになったら俺たちは一緒になれるんだ……」

部屋の中から、欲望を隠しきれない怜央の熱を帯びた、荒い吐息が漏れてくる。

彼はそれほどまでに悠里を深く愛していたのか。自らを慰めるその最中でさえ、うわ言のように彼女の名を呼び続けていたなんて。

受け入れがたい現実に陽咲の頭が真っ白になり、手から滑り落ちた陶器が床に激突して砕け散った。静まり返った深夜に、耳を刺すような音が響き渡る。

数分後、情欲の残滓を瞳に宿したまま、怜央がドアを開けた。そこにいたのは、慌てふためいて床に這いつくばり、破片を拾い集める陽咲の姿だった。

「どうしたんだ、陽咲?」

彼女の姿を視界に捉えた刹那、怜央の顔から蕩けたような熱が引き、その眼底には射貫くような冷徹さが走った。

怜央はしゃがみ込むと溜息をつき、破片で傷ついた陽咲の手を握った。「痛むか?海田先生を呼んで手当てをさせよう」

陽咲は顔を上げ、彼の漆黒の瞳を見つめた。

心配そうな眼差し。けれど、その奥に潜む疎外感が、陽咲の心を深く突き刺した。

胸を掻きむしるような苦痛を抑え込み、彼女はそっと手を引き抜いた。「大したことないわ。海田陽斗 (かいだ はると)先生を呼ぶほどじゃない。自分で絆創膏を貼るから大丈夫」

彼女は立ち上がり、どこか惨めな背中を見せながら、逃げるようにその場を去った。

遠ざかる彼女の後ろ姿を見つめ、怜央の表情に複雑な色が浮かんだ。

陽咲が悠里との会話を聞いていたのかどうか、確信が持てなかった。

聞いていないのならそれでいい。もし聞いていたのだとしても、どう説明すべきか分からなかった。なにしろ、結婚して二年の間、彼女は完璧な伴侶だったからだ。

もし彼女がこのまま分をわきまえて過ごすなら、情けをかけて契約をあと三年更新してやってもいいと、怜央は考えていた。

陽咲は彼の胸中を知る由もなく、身の回りを整えてベッドに横たわり、重い溜息を吐き出した。

そこへ怜央が部屋に入ってきて、彼女を抱きしめた。甘く低い声が耳元で響く。「どうして急に、陶器のカップなんて作ろうと思ったんだ?」

触れるような熱い吐息を受け流すべく、陽咲はわずかに身を乗り出した。そして、穏やかな声で言葉を返した。「……今日は、あなたの誕生日でしょう。ペアのカップを贈りたくて焼いたの。でも、手が滑って割ってしまったわ」

怜央は安堵し、喉元までせり上がってきた蔑みを必死に抑え込んだ。「構わないよ。陶器が割れることより、君が怪我をする方が問題だ」

その上辺だけの優しい言葉を前にして、陽咲は初めて心が凪いでいくのを感じた。

彼の声に含まれた微かな蔑みを、今の彼女ははっきりと聞き取っていた。

「本当は、わざわざ陶器なんて作る必要はないんだよ。欲しいものがあれば使用人に命じればいい。そんな大層な真似はしなくていいんだ」

怜央の口元に皮肉な笑みが浮かぶ。

安部家の人々は、陽咲の田舎育ちという出自を常に見下しており、彼女に陶芸の技術があるなどとは微塵も信じていなかった。

彼らの目には、陽咲が持ってきた陶器など、どこかで高値で買い付けてきた品を「自分で作った」と嘘をついているようにしか映っていないのだ。

「……あなたが、ペアのカップが欲しいって言ったから」陽咲は背を向けたまま、静かに呟いた。

その言葉に、怜央の顔に驚愕の色が走った。

それは少し前に彼がこぼした寝言だった。あの時、悠里が「ペアのカップを使いたい」とねだったのだが、怜央は仕事が忙しく、また陽咲に怪しまれるのを恐れて断った。

悠里がへそを曲げ、機嫌を取るのにひどく苦労した。

まさか、陽咲がそれを本気にし、俺が彼女と使いたがっていると誤解していたとは。

月光が陽咲の細い背中を照らし、その姿はひどく寂しげに見えた。

怜央の喉仏が、何事かを堪えるように上下に揺れた。

彼が何かを言いかける前に、陽咲はベッドに横たわったまま「おやすみなさい」とだけ告げ、目を閉じた。

眠りにつけるはずもなかった。脳裏には先ほどの怜央と悠里が睦み合う声がこびりつき、心臓が鉛のように重く、鈍く疼いている。

わずかに首を振り、忌々しい情景を無理やり意識の外へ追い出した。ようやく微睡みの淵に沈みかけた、その時だった。

背後から強靭な腕が伸び、抗いようのない力で彼女の腰を抱き寄せた。すぐ耳元で、怜央の熱を帯びた、荒い鼻息が響く。

「陽咲……」

掠れた、艶めかしい声。

彼が何を求めているのか、陽咲には痛いほど分かった。

胸の内に、猛烈な嫌悪感がこみ上げる。

陶芸をする際、彼女は土にわずかな不純物が混じることさえ許さなかった。

人に対しても、物に対しても、それは同じだ。

彼女は自分を這い回るその手を、力強く振り払った。

「触らないで」

――反吐が出る。その言葉を、彼女は必死で飲み込んだ。

突き放すような、あまりに余裕のない響き。その鋭さに虚を突かれたのか、怜央は一瞬動きを止めた。だが次の瞬間、彼は弾かれたようにベッドの上に身を起こし、陽咲の背中を射抜くように見つめ、問いかけた。

「……君、今のを聞いていたのか?」

その声は、確信に満ちていた。

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第1話:今、この5秒で彼を救う
「ああっ、またやった……!」 オフィスに私の情けない叫びが響いた。手元から滑り落ちたのは、淹れたてのコーヒー。 地球の重力というのは、どうしてこうも気まぐれなのだろう。銀河系の端っこから調査にやってきて三ヶ月。私は未だに、この星の物理法則と仲良くなれずにいた。 名前は星野ルナ。大手広告代理店で「万年ドジっ子」のレッテルを貼られた底辺社員。 ……というのは仮の姿だ。 本当の正体は、銀河の果てから地球の文化を調査しに来た【 観測者(エイリアン) 】。そして、指先ひとつで時間を「5秒」だけ操れる、銀河でも希少な能力の持ち主である。 でも、その力を使うことは厳禁だ。 もし地球人に正体がバレれば、即・母星へ強制送還。私の地球での「おにぎり探求生活」は終わってしまう。 「星野。……怪我はないか」 低く、落ち着いた声が頭上から降ってきた。 九条蓮(くじょう れん)。 我が社の誇る超エリート上司。常に背筋を伸ばし、一分の隙もないスーツ姿の彼は、社内一ストイックな男として知られている。 「す、すみません、九条部長……! すぐ片付けます!」 「謝罪はいらない。だが、君は自分の歩幅を理解していない。……これを使いなさい」 彼は甘い言葉をかけるわけでもなく、無造作に自分の白いハンカチを差し出した。 周囲の社員は「また部長に詰められてる」と遠巻きに見ているが、違う。彼は、私が火傷をしていないか、一番に確認してくれたのだ。 「他人の評価を気にする暇があったら、自分の足元を見なさい。私は、君の価値は他人の物差しで決まるものではないと考えている」 ぶっきらぼうな言い方。でも、周囲が「無能」と笑う中で、彼だけは私を「一人の社員」として正当に、ストイックに評価してくれている。 ――かっこいい。 私が、彼が絶体絶命の窮地に陥るたびに、こっそり時間を止めて救っているのは、私なりの恩返しでもあった。 その日の夕方。事件は起きた。 新プロジェクトのプレゼンのため、九条部長と共にビルを出て移動していた時のことだ。 歩道を歩く九条部長の背中を見ながら、私は心の中で 「歩く姿もトレンディドラマの主役みたいだなぁ」なんて場違いなことを考えていた。 その時だった。 ガガガッ、という不穏な金属音が上空から響いた。 見
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第2話:氷の暴君が、ドジな私を抱き寄せた
大手広告代理店、東央エージェンシーの底辺社員・星野ルナ。 彼女の直属の上司となった九条 蓮(くじょう れん)部長は、社内で「氷の暴君」と囁かれていた。 しかし、それは彼が感情に流されず、常にプロとしての仕事を完遂させるがゆえの異名だった。 「星野、この企画書だが。……論理の飛躍がある。ここを埋めれば、もっと説得力が増すはずだ」 九条の声は常に低く、落ち着いている。厳しい指摘ではあるが、そこにはルナを萎縮させるような棘はない。 むしろ、ルナが自力で答えに辿り着けるよう、絶妙なヒントが散りばめられていた。 ルナが残業でデスクに突っ伏していれば、いつの間にかブランケットが掛けられ、傍らには「糖分は脳のガソリンだ」と書かれた高級なチョコレートが置かれている。 (部長は、本当は誰よりも優しい……) ルナは、そんな彼の不器用な思いやりに、いつしか救われていた。 だが、そんな穏やかな緊張感は、視察先のホテルの大階段で一変する。 「部長、本日の議事録ですが――」 一歩先を行く九条の背中を、ルナは重い資料を抱えて追っていた。その時、大階段の陰から子供が勢いよく飛び出してくる。 「危ない……っ!」 ルナは反射的に子供を避けようとして、体勢を崩した。 (あ、時間……!) ルナはポケットの中の【小型時間操作デバイス】に手を伸ばそうとする。だが、指先が触れたのは虚空だった。 急ぐあまり、ポーチごとデスクに置き忘れてきたのだ。 「……っ!」 回避不能。大理石の角が、ルナの後頭部に迫る――。 その瞬間だった。 「……星野!」 鋭い声と共に、強い力がルナの体を横からさらう。 激しい衝撃が走る。しかし、それは冷たい石の感触ではなかった。九条がルナを抱きしめたまま自らが下敷きになり、彼女を守り抜いたのだ。 「……目を開けろ。怪我はないか」 至近距離で見つめ合う二人。九条の瞳には、いつもの沈着冷静さはなく、今にもルナを飲み込みそうなほど激しい【焦燥】が渦巻いていた。 「ぶ……部長……」 「黙っていろ。お前が負傷すれば、俺のチームの損失だ」 九条はそう言いながら、ルナの腰を抱き寄せる腕に、さらなる力を込める。その手は、かすかに震えていた。 「お前は、俺が選んだ『戦力』だ。……俺の許可なく勝手に
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第3話:5秒止めた世界で、甘い逆襲
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第4話:宇宙人、コンビニおにぎりの神業に震える
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第5話:毒入りスープと、氷の微笑
 その夜、九条部長──蓮さんの自宅マンションで、私は地球の料理の奥深さに圧倒されていた。 食卓には、素材の旨味を凝縮させた『オマール海老のビスク』をはじめ、低温調理された『和牛のローストビーフ』など、プロ顔負けの数品が並んでいる。「星野。俺の料理に、文句は言わせない」 エプロン姿の蓮さんは、いつもの「氷の暴君」らしい口調のままそう告げた。 そんな至福の時間の直前、不意にインターホンが鳴った。現れたのは、私を敵視している同僚のサオリさんだった。「あら、蓮さん。……あら、ルナさんもいたの?」 彼女は私を認めると、一瞬だけ口角を歪めたが、すぐに「ルナさん」と呼びかけ、お決まりの猫なで声で蓮さんに擦り寄る。「あら、このお料理! 蓮さん、流石ですね……本当に豪華で素敵。……あ、でも私、この後すぐ用事があるんです。明日はお休みをいただいているので、明日までに提出の資料を、どうしても直接蓮さんにお届けしたくて。……ふふ。それじゃあ、お邪魔しました。ごゆっくり」 嵐のように現れた彼女は、蓮さんの料理を一通り褒めちぎると、満足げな笑みを残して足早に去っていった。 招かれざる客が去り、ようやく訪れた二人きりの試食会。蓮さんが、丹精込めて作ったビスクを一口、口に運んだ。 その直後だった。「っ……、う、ぐ……!」 蓮さんがスプーンを落とし、喉を掻きむしるようにして食卓に突っ伏した。 顔色は一瞬で土気色に変わり、全身が激しく震え始める。「部長!? 蓮さん!!」 痺れ薬だ。サオリさんが、あの短い滞在中に料理に何かを仕込んだのだ。 彼がテーブルに置いたスマートフォンには、追い打ちをかけるようにサオリさんからの着信が光る。 苦しむ彼の姿に、私の理性が弾けた。母星への強制送還なんて恐れてはいられない。 私は、蓮さんがスープを口にする「直前」の時間へ、指を鳴らした。【 世界よ、巻き戻れ。 】 色が消え、すべてがモノクロの静止画に変わる。 蓮さんがスプーンを口元へ
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第6話:九条の疑念「君、本当に人間か?」
サオリさんが仕掛けた盗聴器を破壊し、蓮さんと「共犯者」のような夜を過ごした翌日。 オフィスに戻った私の心臓は、いつも以上に激しく鼓動していた。 「ルナさん、ちょっといいかしら?」 給湯室で背後から声をかけてきたのは、サオリさんだった。昨夜の失態など微塵も感じさせない、完璧な笑顔。 だが、彼女の手元にあるものを見て、私の血の気が引いた。 「これ……昨日、オフィスの床で拾ったの。ルナさんのポーチから落ちたのかしら?」 彼女の指先に光っていたのは、私の【 観測デバイス(時空操作機) 】の予備パーツ。地球の技術では絶対に作れない、複雑な幾何学模様が刻まれた極小のクリスタルだ。 これが解析されれば、私が地球人ではないことが一発でバレる。 「……返してください」 「ふふ、そんなに怖い顔しないで。返してあげてもいいけど……条件があるわ。今すぐ、蓮さんの前から消えて。彼にふさわしいのは、あなたみたいな『正体不明のドジ』じゃないの」 サオリさんの冷ややかな脅しに、私は拳を握りしめた。 デバイスを取り返さなければ強制送還。けれど、蓮さんのそばを離れるなんて──。 「星野。何をしている」 背後から、氷柱のような声が響いた。九条部長だ。 サオリさんは瞬時にパーツを隠し、「お喋りしていただけです」と余裕の笑みで立ち去った。 残されたのは、私と、射抜くような視線を向ける蓮さんだけ。 彼は無言で私に近づくと、逃げ場を塞ぐように壁に手をついた。 「……星野。私は、最近ずっと疑問に思っていることがある」距離は近すぎて私の心臓が持たない。 「君が現れてから、このオフィスでは常識的に考えてあり得ないほどの『幸運な偶然』が重なりすぎている。鉄骨の落下、昨夜の痺れ薬の予見……。まるで、君だけが数秒
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第7話:エリートたちの罠、5秒で粉砕
その夜、私は大手クライアントとの会食、いわゆる「接待」の場に駆り出されていた。 場所は、予約が半年待ちという超高級料亭。 本来、私のような平社員が出る幕ではない。けれど、蓮さんのさらに上役である常務から「あのドジっ子くんを連れてこい。場の和みになるだろう」という、実質的な見せ物扱いの命令が下ったのだ。 「星野。……無理に出る必要はない。私は、常務には体調不良だと報告しておく」 出発前、蓮さんは部長室でそう言ってくれた。けれど、彼が自分の立場を危うくしてまで私を庇おうとする姿を見て、私は決意した。 「大丈夫です、部長。私、これでも盛り上げ役には自信があるんですぅ」 そうして始まった会食。並み居るエリート男性陣に囲まれ、私はお酒を注ぎ、空気を読む……という、地球の「接待文化」に耐えていた。 「おや、九条部長の部下は、ずいぶん……『素朴』な方だねぇ」 嫌味な笑いを浮かべたのは、クライアントの重役だ。隣には、常務のお気に入りとして同席を許されたサオリさんが、勝ち誇ったように座っている。 「ええ。ルナさんは、弊社でも有名な『天然キャラ』ですから。……ねえ、ルナさん? 常務も期待していらっしゃるわ。何か気の利いた余興でも見せてくださる?」 サオリさんの無茶ぶりに、座の空気が凍りつく。 これは「接待」という名の、公開処刑だ。 チラリと蓮さんを見ると、彼はグラスを握る指が白くなるほど力を込め、怒りを押し殺していた。彼は、私をこの場に連れてこざるを得なかった自分自身に、猛烈に腹を立てているのだ。 その時。 サオリさんが、わざとらしく自分の袖を私のグラスに引っ掛けた。 なみなみと注がれた赤ワインが、放物線を描いてクライアントの真っ白な高級スーツへと飛び散る――。 (……やったわね、サオリさん) 地球の時間軸では、
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第8話:雨の日の密着、バレそうな鼓動
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第9話:5秒間の盗み見、寝顔は天使
 昨夜の雨の日の相合い傘。 蓮さんに「何者だ」と詰め寄られたあの熱い夜から一夜明け、オフィスにはいつもの、けれど少しだけ気まずい空気が流れていた。 その日の昼下がり。 外回りから戻った蓮さんは、珍しくひどく疲れているようだった。 新プロジェクトの追い込みで、連日徹夜が続いていたらしい。(……あ、蓮さん。デスクで……) ふと部長席を見ると、書類を握ったまま、蓮さんが静かに目を閉じていた。 あの一分の隙もない、鉄壁の九条部長が、オフィスの自席で居眠りをしている。 前髪が少しだけ額にかかり、いつもは鋭く私を射抜く瞳が、長い睫毛(まつげ)に覆われている。(……今なら、バレないよね?) 私は周囲に誰もいないことを確認し、そっと指を鳴らした。【 世界よ、止まれ。 】 色が消え、すべてがモノクロの静止画に変わる。 カタカタと鳴り響いていたキーボードの音も、コピー機の作動音も消えた、私だけの5秒間。  私は、忍び足で部長席へ近づいた。 至近距離、わずか10センチ。 (……うわぁ。……本当に、綺麗) 止まった時間の中で見る蓮さんの寝顔は、まるでギリシャ彫刻のように整っていた。 眉間の険しさが取れ、少しだけ開いた唇からは、規則正しい呼吸の音が漏れてきそうだ。 いつもは「氷の暴君」なんて呼ばれているけれど、こうしていると、まるでいたずらっ子のような、あるいは守ってあげたくなるような――。(……まさに、天使) 私は、自分の頬が地球の沸点(100℃)くらいまで熱くなるのを感じた。 昨夜、この唇から「俺の前で嘘はつくな」なんて言われたんだと思うと、もう心臓のバックアップ電源までショートしそうだ。 残り、1秒。 私は名残惜しさを振り切るように、元の位置へ戻ろうとした。 けれどその時、蓮さんのデスクの端にあった予備の眼鏡が、私の袖に引っかかって床に落ちそうになった。(あっ、まずい!)
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第10話:強制送還のシグナル
深夜。一人、自宅アパートでおにぎりを頬張っていた私の脳内に、突如として爆音が響き渡った。 『――ピンポンパンポーン! 観測者・星野ルナ。至急、現在地で静止せよ!』 (……えっ、何!? 食べかけのサケおにぎりが喉に詰まる!) 目の前の空間がぐにゃりと歪み、母星の「監視AI・ポチ(仮)」のホログラムが浮かび上がる。 『ルナ。お前の「5秒操作」ログ、見たぞ。一週間の使用回数が、母星の全観測者の平均を3000%上回っている! お前、時空を何だと思ってるんだ? おにぎりの賞味期限を伸ばすための道具じゃないんだぞ!』 「だ、だって、部長が毒を盛られそうになったり、サオリさんが意地悪したり……!」 『言い訳無用! 次に無駄打ちしたら、即座にトラクタービームで強制送還だ。お前の部屋にある、地球限定フレーバーのポテチも全部没収だからな! 任務を忘れるなよ!』 ブツリ、と一方的に通信が切れた。 ……ポテチ没収。それは死を意味する。私は翌朝、真っ青な顔で出社した。 部長席では、蓮さんがサオリさんの持ってきた「予備パーツ」を、恐ろしいまでの集中力で凝視している。その傍らには、なぜか分厚い『ロボット工学』と『特殊素材の構造』、そして……『現代における愛の形』という、何やら不穏なタイトルの本が積まれていた。 「……星野。こちらへ来い」 低く、地を這うような蓮さんの声。 私は、処刑台に向かう気分で彼のデスクの前へ立った。サオリさんが、勝ち誇ったように腕を組んで隣に立っている。 「蓮さん、結論は出たのかしら? この異常なパーツの正体が」 「……ああ。すべてが繋がった」 蓮さんがゆっくりと立ち上がり、私との距離を詰める。 逃げ場を塞ぐ壁ドン。……けれど、今日の彼の目は、いつもの「氷」ではなく、何か……未知の深淵を覗き込むような、異様な「熱」を帯びていた。 「体温の低さ、異常なまでの可動域。そして、この未知のデバイスから放出される特殊なフェロモン(※ただの宇宙エネルギーです)。……星野。君は、某国の闇組織が極秘開発した、『超高性能アンドロイド型・愛玩用ドール』だな!?」 「……は、はい?」 「な、なんですって!?」 サオリさんが腰を抜かしそうになる中、蓮さんは震える手で私の肩をがっしりと掴んだ。その瞳には、製作者に対する激
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