FAZER LOGIN優里が電話を切ると、佳子が尋ねた。「誰からだったの?何かあったの?」優里が事の経緯を簡単に説明すると、それを聞いた大森家と遠山家の人々は歓喜に包まれた。結菜は飛び上がって喜び、感極まって目頭を熱くさせながら言った。「やっぱりね!智昭義兄さんはお姉ちゃんのことしか愛してないんだよ!あの女なんて、ただの引き立て役に過ぎないんだから!」美智子も我慢できずに頷いた。「本当によ。いくらあの女が優れていようと、智昭がこれまで愛さなかったんだから、今さら好きになるわけなんてないものね!」佳子もふっと笑みをこぼした。正直なところ、玲奈が長墨ソフトの大株主であり、さらには真田教授の弟子だったという事実は、佳子にとっても大きな衝撃だった。玲奈が……まさかそこまでの地位に上り詰めるとは、佳子は思いもしなかったのだ。今の玲奈は、まさに誰もが注目する時の人だ。そんな玲奈の目覚ましい活躍と成功を目の当たりにして、佳子は智昭が玲奈に特別な感情を抱き始めるのではないかと、生きた心地がしなかった。なにしろこの1年、玲奈の才能が開花するにつれて、智昭の玲奈に対する態度は以前とは明らかに変わっていたからだ。だからこそ、この1ヶ月余り、佳子は玲奈側の動きを四六時中監視していた。そのおかげで、生田博士のパーティー以来、智昭と優里の連絡が途絶えている一方で、智昭と玲奈との間にも裏で目立った行き来がないことを把握していた。だからこそ、優里が智昭に会えない状況が続いていても、佳子は完全にパニックに陥らずに済んでいたのだ。正雄も胸をなでおろした。「藤田総研さえ持ちこたえてくれれば、大森テックがダメになったとしても、破産することだけは免れるな」事態が一変して明るい兆しが見えたことで、結菜は嬉しさのあまりじっとしていられず声を弾ませた。「そうだよ!それに、藤田総研に良いニュースが来たってことは、もうしばらくしたら、智昭義兄さんが大森テックの問題も解決してくれるかもしれないじゃない!」瑞樹も声を上げて笑った。「その通り!」優里もスマホを握りしめ、うっすらと笑みを浮かべた。その時、再び優里のスマホに着信が入った。彼女は何気なく電話に出た。先ほどの何本かの電話と同じく、藤田総研との業務提携を打診する電話だった。その後も優里のもとには次々と
その日の夜、パーティーが終わるまで、玲奈と智昭の間で言葉が交わされることは一度もなかった。会場にいた誰もが、その冷え切った関係を目にしていた。パーティーが幕を閉じると、玲奈と礼二が先に会場を後にし、智昭、辰也、清司の3人がその少し後ろをついて出た。去っていく玲奈と礼二の背中を遠くに見送りながら、辰也は智昭に振り向いた。「智昭、お前と優里のことなんだが……」智昭は短く言い放った。「俺のことは、自分で処理する」清司はピンときた。自分たちが何を言おうとしているか、智昭にはお見通しなのだと。しかし、智昭のこの態度は、明らかに忠告に耳を傾けるつもりがないことを示していた。清司は眉をひそめた。「智昭、もう少し考え直した方が――」「もう遅いから、2人とも早く帰って休め」ここまで頑なにシャットアウトされては、いくら言っても無駄だと清司も悟った。「……わかったよ」辰也もそれ以上は何も言わなかった。一方、その頃。家に帰り着いたばかりの優里のもとに、相次いで何本もの電話がかかってきていた。しかも驚いたことに、かかってくる電話のどれもが、藤田総研に投資したいという話だった。最初、優里は聞き間違いかと思った。しかし2本、3本と連続で電話を受けるうちに、ようやく事態を呑み込んできた。優里は通話相手に尋ねた。「桜井社長、どうして突然うちに出資なんて話になったんですか?」桜井社長はしばらく遠回しな言い訳をこねくり回していたが、やがてこう切り出した。「大森社長と藤田社長は本当にお仲がよろしいですなぁ。もし近いうちにお時間があればですが、お2人をお食事にお招きしたいと思っておりまして」他の電話での会話も合わせ、優里は理解した。急にこれほど多くの人間が連絡してきた理由は、すべて智昭にあるのだと。それを悟った優里の瞳に暗い色が宿ったが、声のトーンは冷ややかなまま問い返した。「私と藤田社長の仲が良い、ですか?桜井社長は一体どこを見てそう思われたんですか?」桜井社長は、優里がなぜそんな質問をしてくるのかよく分からなかった。ただ、生田博士のパーティーの一件以来、ここ最近業界中の人間が大森家を避けていた。優里もここしばらく、相当肩身の狭い思いをしてきたのだろうと桜井社長は勝手に推測した。そう思い至った桜井社長は、あわててお世辞を並べ立てた。「いやぁ、今夜のパーティーに
淳一と宗介も、ちょうど会場に到着したところだった。2人はちょうど、先ほどの智昭と玲奈が冷ややかにすれ違ったのを目撃してしまったのだった。宗介が思わず声をひそめて言った。「青木さんはあんなに優秀なのに、藤田社長の奴、痛い目見ても一向に諦める気配がないな。前はただ大森さんを大事にしてるだけだと思ってたけど、まさか恋愛に対してここまで一途だったとはね……人は見かけによらないよ」淳一は特に何も言わなかった。玲奈がどれほど優れていようと、智昭に玲奈への恋愛感情がないこと自体には何の不思議も感じない。しかし……優里やその家族の人徳やモラルに重大な問題があると発覚した状況でさえ、智昭が未だに優里への感情を変えないことには疑問があった。淳一にとって、価値観と道徳は人間としての最低限のラインだ。淳一自身が本当の恋を経験したことがないからかもしれないが、智昭が優里に対して抱くその感情は、正直理解に苦しむものだった。宗介が再び口を開く。「ところでさ、藤田社長と青木さんってまだ離婚届出してないのかな?瑛二が前に言ってた感じだと、離婚の話を始めてからもう1年以上経ってるんだろ?一体いつになったら正式に離婚できるんだ?こんな風にずるずる引き延ばされたら、瑛二はいつまで待たなきゃいけないんだよ」それを聞いて、淳一は少し間を置いた。「この前会った感じだと、青木さんには瑛二に対してそういう気はないと思う。たとえ青木さんが離婚したとしても、瑛二に……チャンスがあるとは限らないよ」淳一が言う「この前会った」というのは当然、あの生田博士のパーティーのあと、真田教授たちと一緒に田淵家に集まった時のことだ。あの時、瑛二の気持ちは傍目にも明らかだったが、玲奈の方はといえば、瑛二をあからさまに避けていた。玲奈が自分に気がないことくらい、瑛二本人も口にしていた。それでも淳一から改めてそう言われると、宗介はまだ信じられない様子だった。「マジで?青木さんって本当に瑛二に1ミリも気がないのか?でも、瑛二のあの惚れ込みようからしたら、簡単に諦めそうにないぞ。一体どうするんだよ?」淳一は少し離れた場所にいる玲奈に視線を向けた。「それは……瑛二自身のことだ。思い続けるのか諦めるのかを決めるのは彼自身だし、俺たちが気を揉んでもどうにもならない」「まあ、そうだけどさ……」宗介も玲奈の方を見つめ
周囲のひそひそ話が飛び交う中、智昭は生田博士の方へ歩み寄っていった。「生田博士」辰也と清司もそれに続き、生田博士に挨拶をした。生田博士は生返事をすると、ちらりと智昭を睨みつけ、それから玲奈の方に目をやって鼻を鳴らした。「本物の真珠を差し置いて、偽物のガラス玉にしがみつくとはな。まったく、もったいないとは思わんのか?」智昭は玲奈の方を見ようともせず、すっと話題を変えた。「前回、私の方からお話ししたプロジェクトの件ですが、あちらでしたら、生田博士もきっとご興味を持たれるかと」生田博士は一瞬黙り込んだ。確かに興味はある。それに、智昭が自分と玲奈さんの件について話したくなさそうにしている以上、わざわざ突っ込んでやる気もなかった。そもそも、若い連中の恋愛事情など、自分には関係のないことだ。ただ、玲奈さんがあれほど優秀なのに、智昭の目には留まらなかったことが、悔しくてもったいなく思えただけである。生田博士はこれ以上玲奈と智昭の話題を蒸し返すのをやめ、彼は智昭とプロジェクトの件について話し始めた。その会話に辰也と清司は加われなかったため、2人は生田博士に軽く会釈をしてその場を離れた。清司は玲奈の方に目をやりながら、さっきの智昭の話を反らそうとする反応を思い出して少し考え込み、ぽつりとこぼした。「玲奈は本当にどこをとっても完璧だよな。もしあの薬を盛った件が本当に玲奈の仕業じゃないなら、文句なしのいい女だし、智昭とお似合いだろ……」優里なんかよりずっといい。遠山家の連中の人間性には、どうにも我慢がならなかった。それに、優里の生い立ちを知れば知るほど、そもそも智昭に近づいたのは最初から何か下心があったんじゃないかとさえ思えてくる。それでも智昭は優里が好きだった。優里と玲奈の間のドロドロした因縁を知りながらも、自分や辰也には一切話をせず、藤田家の長老たちからの反対も、ここ数年ずっと無視し続けている。智昭の優里に対する執着はそこまで徹底していた。だからこそ、今の清司が優里に幻滅していようが嫌っていようが、生田博士のパーティーの後ですら、智昭の前で自分が優里の悪口を一度たりとも口にしたことはなかった。ただ、自分が智昭の前で言わないからといって、心配していないわけではない。それを聞いた辰也は足を止め、何も言わなかった。辰也だって、智昭と玲奈が本来は一番
連休最終日の夜、玲奈と礼二はあるパーティーに招かれていた。車の中で、礼二が切り出した。「今日のパーティー、智昭も来るみたいだよ」「うん、知ってる」「生田博士のパーティー以来、こういう場所で智昭と顔を合わせるのは初めてだろ。今夜はちょっとした騒ぎになりそうだな」「そうね」所詮、玲奈と智昭の関係に興味津々な人たちが、ジロジロ見てくる程度のことだ。玲奈にとってはどうでもいいことだった。玲奈と礼二は会場に着いて、主催者と挨拶を交わしていると、生田博士が姿を見せた。まさか生田博士まで来ているとは思わず、2人は少し驚いた。パーティーの日の件以来、生田博士にきちんと謝る機会を作れないままになっていた。生田博士だとわかると、玲奈と礼二は周りの人たちとの会話を切り上げ、生田博士の方へと歩み寄った。「生田博士」生田博士は2人に気づくと、うなずいた。「おや、君たちも来ていたのか」「はい」玲奈が先に口を開いた。「あの節は、本当に申し訳ありませんでした。改めてお詫びのお食事でもとお誘いしたかったのですが、秘書の方から出張中だと伺って、なかなかタイミングが合わず……」「いいんだ」生田博士は手を振った。「もう済んだことだ」そこまで言うと、生田博士は少し口元を歪めた。「それに、あの件ならもう別の人からすでに正式に謝罪を受けたから、君たちが気に病む必要はない」そう言いながら、生田博士は不機嫌そうに会場の入り口付近へ視線を向けた。「別の人から正式に謝罪を受けた」という言葉で、玲奈も礼二もそれが智昭のことだとピンと来ていた。生田博士の視線を追って入り口の方を見ると、案の定、智昭の姿があった。彼は、辰也と清司と一緒に来ていた。3人の登場に、周囲の視線が一斉に集まる。「前まで藤田社長がこういう場所に来るときって、だいたい例の大森さんって女性を連れてたのに、今日は男3人だけなんだ。まだほとぼりが冷めるのを待ってるのかな?」「大森テックと藤田総研があんなことになったのに、藤田社長は未だに助け船を出してないし、もう別れたんじゃないの?」「単に大森家が招待状をもらえなかっただけでしょ。藤田社長のコネがなきゃ、あの家柄じゃこのパーティーに来られるわけないし。でもさ、藤田社長は相変わらず島村社長たちと一緒で、青木社長は湊社長と一緒ってこ
智昭が自分たちを助けに表へ出られない理由に思い当たると、徹の脳裏には玲奈の顔が浮かんでいた。徹は今でも玲奈のことを覚えている。ただ、彼は玲奈と智昭がまさか夫婦だとは思いもしなかったし、玲奈と大森家との間に、これほどの因縁があったとは思いもよらなかった……大森家と遠山家はそれぞれ複雑な思惑を抱いていたが、優里には彼らに構っている余裕などなかった。智昭の方から相変わらず返信がないのを確認すると、優里はしばらく沈黙した後、スマホを取り出し、清司と辰也の2人へ挨拶のメッセージを送った。メッセージが届くと、辰也はすぐに気づいた。ここ最近で、優里から連絡が来たのはこれが初めてだった。玲奈と優里の間にある恩怨を考えれば、2人が今生で和解することなど万に一つもない。だからこそ、たとえ将来的に智昭と優里が結婚したとしても、自分が優里と友人になることなどあり得ないのだ……そう思い至った辰也は、メッセージを目にしながらも返信をしなかった。一方、退屈を持て余していた清司は、優里から届いたメッセージを見て、少し呆気にとられた。清司は届いた文面を見ても、心から嬉しいと思えたわけではない。しかし……智昭の顔が頭をよぎると、彼は少し眉をひそめつつも礼儀として挨拶を返した。清司からの返信が届いたのを確認するやいなや、優里は間髪を入れずに彼へ電話をかけた。着信画面を見た清司は応答ボタンを押したが、彼が口を開くより早く、優里の方が先に声をかけてきた。「せっかくの祝日なのに、出かけてないの?」「うん」清司はそう言って溜め息をついた。「お前たちも出かけないのに、俺ひとりでどこへ遊びに行けってんだ?」その言葉を聞いた優里は目を細め、微笑を浮かべた。「明日や明後日も出かけないの?」「まだ決めてないな」そう尋ねられて清司は興味を示し、聞き返した。「どうした?お前と智昭で何か予定でも立ててんのか?」「特にないよ」清司はあまり信じられない様子だ。「2人ともないの?本当かよ?」「本当よ、嘘ついてどうするの」清司はまた溜め息をついた。「そっか……」優里はふっと笑った。「電話したのはね、あなたが退屈してないか心配で、少し喋ろうと思っただけ。私、これからまだ用事があるから、切るね。また今度連絡するわ」「おう、じゃあな」電話を切ると、優里の







