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第8話

Author: しんしん
真白は黙っていた。

佳純を好きではない。それでも、その子を殺そうなどと思ったことは一度もなかった。起きてしまった結果は、予想をはるかに超えて重かった。

「申し訳ないと思っているわ」

真白は乾いた声で言った。

「償うつもりよ」

「償うだと?何を根拠に?」

縛られていても、麻衣は負けじと顔を上げて怒鳴った。

「迅!真白はあんたのために、7年前にはもう母親になる道を失っていたのよ。それなのに、どうして一度も彼女に償おうとしなかったの!

今さら、無関係な女のために真白を責めるつもり?」

迅は眉をひそめ、口を開きかけた。

そのとき、車椅子の佳純が突然激しく身を震わせ、真白を憎しみのこもった目でにらんだ。

「血には血を!

葉山さん、あなたが私の子を奪った。あなたも同じ苦しみを味わえばいい!」

真白は唇を結んだまま黙っていた。麻衣が鼻で笑う。

「この子には無理よ。誰かさんのせいで、真白はもう子どもを産めない体なんだから!」

佳純の視線が瞬時に麻衣へ向いた。

「葉山さんと姉妹同然なら、あなたが代わりに苦しめばいい!」

「やめて!」

真白は鋭く制した。

だが、迅は冷たく言った。

「いいだろう」

その軽いひと言が、真白の耳元で雷が落ちたように轟いた。

真白は信じられないものを見るように迅を見た。永遠に自分と、自分のそばにいる者たちを守ると言っていた男を。

迅が命じると、数人の男が麻衣を取り囲み、拳と蹴りを彼女の体へ叩き込んだ。特に腹部へ、容赦なく。

「やめて!お願い、やめて!」

真白は目をむき、駆け寄ろうとした。だが、さらに多くの男たちに固く阻まれた。

一人で大勢を相手にはできない。真白は、麻衣が地面にうずくまり、白い服が瞬く間に赤く染まっていくのをなす術もなく見ているしかなかった。

迅が手を上げて止めたとき、麻衣はもうほとんど息をしていなかった。

「真白、間違いを犯したなら、代償を払うのが当然だ」

迅はそう言い残し、佳純の車椅子を押して埠頭を去った。

真白はようやく麻衣のそばへ駆け寄った。どこに触れればいいのかも分からず、流れ出る血をただ両手で押さえた。

迅が16年の歳月をともにした相手だとすれば、麻衣はそれより長い時間をともにしてきた存在だった。

迷子になった真白が最初に出会った人であり、人生で数少ない、本当の温もりをくれた人。

その温もりが、今は残酷に踏みにじられている。

血の味が喉へ込み上げ、真白はとうとう耐えきれず、血を吐いた。赤い飛沫が地面に散り、目の前の世界を染める。

意識は完全に深い闇へと沈んでいった。

再び意識を取り戻したとき、体が宙に浮く感覚が真白を一瞬で目覚めさせた。

粗い縄で崖際から吊り下げられ、足元には荒れ狂う海が広がっている。

少し離れた場所には、佳純も同じように吊られていた。

「剛……」

真白は、すぐに状況を理解した。

迅に膝を撃ち抜かれた剛が、復讐に来たのだ。

崖上の空き地では、剛が残った手下を率い、迅と向かい合っていた。意外なことに、水瀬夫妻までそこにいる。

「獅堂!」

剛は醜く笑った。

「この間の恨みは、後になって考えれば考えるほど腹の虫が治まらねえ。だから今日は、お前たちに二択の遊びを用意した。

お前と水瀬教授が同時に、助けたい女の名前を言う。答えが同じなら、そいつを助けてやる。

違っていても構わねえ。もう一度だけ機会をやる」

そのルールを聞いたとき、真白の心に、哀れなほど小さな波紋が生まれた。

迅には、もう何も期待していない。だが、病に伏した自分にひとときの温もりを与えてくれた水瀬夫妻には、わずかな期待が芽生えてしまった。

剛は醜く笑いながら数えた。

「3、2、1!」

ほとんど同時に、崖の上へ同じ名前が響いた。

「佳純」

迅の声と、誠一郎と恵の声が重なっていた。迷いなど、少しもなかった。

真白は目を閉じた。

よかった。

彼らはみんな、私を捨てた。

16年の生死をともにした時間は、3か月の純真に勝てなかった。

たった今得た血のつながった親子の情は、24年、朝も夜も寄り添ってきた相手への執着に及ばなかった。

胸の奥の、とうに傷だらけだった場所が、今度こそ完全に踏み砕かれ、灰になった。

真白は、もう大きな苦痛さえ感じなかった。ただ、すべてが決着したという解放感だけがあった。

迅。これが、あなたの言う「何もかも持っている」ということなの?

「答えは見事に一致したな」

剛は薄笑いを浮かべ、手を振った。

真白は、自分を吊っていた縄が切れる音を聞いた。

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