「分かった」真白の声は平静だった。だが、「見に行ってくる」と告げたその声だけが、わずかに頼りなく揺れていた。裏通りには血の臭いが満ちていた。砕けたネオン管が路上に散らばり、その光が、折り重なるように倒れて呻く男たちを照らしている。人垣の中央に、黒ずくめの迅が立っていた。彼の意識は、正面で男にきつく押さえつけられている白いワンピース姿の女――水瀬佳純(みなせ かすみ)ただ一人に注がれていた。真白の足が止まった。迅が佳純をどれほど案じているのか。その目を見れば、嫌でも分かった。「獅堂!」鬼頭剛(きとう つよし)が、血走った目で怒鳴った。「てめえが嫁にするのは葉山じゃなかったのか!それが今度は、この女のために俺のシマを潰しやがって!何だ?葉山みたいな使い古しの女には、もう飽きたって――」その侮辱が、迅の逆鱗に触れた。乾いた銃声が響き、剛の膝から血が弾ける。絶叫とともに、巨体がその場へ崩れ落ちた。真白は暗がりに立ったまま、迅が引き金を引く姿を黙って見つめていた。激昂した剛はナイフを抜き、すぐさま佳純の首筋へ突きつけた。刃を押し当てられた皮膚から、赤い雫が滲む。「助けてえなら、助けさせてやる。獅堂――俺の前に跪け!」紛れもない侮辱だった。銃を握る迅の手の甲に、太い血管が浮き上がる。だが、怯えた佳純の目から涙が一粒こぼれた瞬間、真白ははっきりと見た。迅がほんの一瞬、膝を折ろうとしたのを。真白は目を閉じた。7年前の羅生街の入り口へ引き戻されたようだった。敵方の男は真白を地面に踏みつけ、迅に向かって獰猛な笑みを浮かべていた。――女を返してほしけりゃ、俺の股の下をくぐれ!あのとき真白は、自分が死んだほうがいいとさえ思った。自分のために迅が辱められる姿だけは、どうしても見たくなかった。十数年、二人は肩を並べて血の雨をくぐり抜けてきた。その迅が、これまで一度だって誰かに頭を下げたことがあっただろうか。そんな男が今、別の女のために、ここまで尊厳を踏みにじられようとしている。結局、真白は動いた。片腕で剛を払いのけると、佳純の体を軽々と迅のほうへ押しやった。迅は反射的に佳純を抱き留めた。真白に何か言おうと口を開いたものの、腕の中で佳純が気を失う。彼が言い残したのは、たったひと言だ
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