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第2話

Auteur: 橙々
電話を切ると、母が私の部屋のドアを開けた。

「お父さんが亡くなる前に、あなたに残したサファイアのネックレス、どこにあるの?」

私は黙ったまま答えなかった。

母は不機嫌そうに眉をひそめた。「その態度は何なの?麻衣は綺麗だと思って少し付けてみたいだけじゃない。早く出しなさい。そんなケチケチしないの!」

麻衣は母の腕に寄り添い、落胆したように言った。「いいのよ、ママ。お姉さんは私のことを本当の妹だと思ってくれてないから。無理強いはしないわ」

「そんなこと許さないわよ!このネックレスは私の夫、つまりあなたのお父さんのものなの。今日は私が決めるわ。これをあなたにあげる」

母は麻衣を抱きしめながら、私を厳しい目で見つめた。「出さないなら、部屋を探させるわよ」

私は母をじっと見つめ、口角を上げて笑った。泣くより辛い笑顔だった。

かつての優しく慈愛に満ちた母は。

私の記憶の中で、結局このような厳しい顔つきに変わってしまった。

でも、もうすぐここを永遠に去るのだから。

もう意味のない口論をする気にもなれない。

私は黙ったまま、宝石箱からネックレスを取り出し、母に渡した。

母は満足そうに笑った。「そう、それでいいのよ。麻衣はあなたの妹なんだから、お姉さんは良いものを妹に譲るべきでしょう」

母が出て行った後、麻衣は私の目の前でネックレスを付けた。

「お姉さん、ママが私びいきするって責めないでね。正直に言うと、このネックレス、私の方が似合うわ」

「蒼介お兄さんが私の彼氏に相応しいように」

「私のものは、誰にも渡さないわ」

得意げな麻衣の様子を見ていた。

私は何も言わなかった。

彼女のような人間は、相手にすればするほど、際限なくつけあがる。

私はバッグを手に取り、彼女を空気のように無視して、階段を下りて行った。

「あっ!お姉さんどうして押すの......」

突然、麻衣が私の前に飛び出し、私に押されたふりをして、よろめきながら階段に倒れかけた。

私は彼女のことが嫌いでも、反射的に手を伸ばして彼女を掴もうとした。

この階段は二十段以上もあるのだ。落ちたら冗談では済まない。

「優子、この毒婦!」

深津蒼介は私の麻衣の腕を掴んでいた手を激しく払いのけた。

手の甲が手すりに強く打ち付けられ、大きな「バン」という音が響いた。

私は痛みで冷や汗が噴き出た。

「蒼介お兄さん、来てくれて良かった。もし来てなかったら、私......」

麻衣は深津の胸に身を寄せ、涙を流しながら怯えた表情を浮かべた。

「大丈夫だよ。怖くないよ。俺がここにいるから」深津は麻衣の頭を撫でながら優しく慰めた。「誰にも君を傷つけさせない」

私は骨折しそうなほど青く腫れ上がった自分の手を見た。

そして、ただ驚いただけなのに、深津に優しく抱きしめられ、労わられている麻衣を見た。

急に皮肉な気分になった。

かつて私を愛し、一生大切にすると約束してくれた少年。

あと三ヶ月で私と結婚するはずだった男は。

どうしてこんなに急に心変わりしてしまったのだろう。
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