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第5話

Author: 涼木
ノートには、高度な翻訳技法や間違えやすい言葉が、余白もないほどびっしりと書き込まれていた。

怜司がジュネーブ勤務の採用通知を受け取った日、彼はこのノートを私へ差し出した。

「美月、これが今の俺の全財産だ」

あの日の怜司は、目を輝かせていた。

「俺の大切なものを預けられるのは、一番大切な人だけだ。帰ってきたら、ちゃんと迎えに行く」

私はその言葉ごと、ノートを宝物のように大切にしてきた。自分でカバーをかけ、防湿ケースに入れ、ほこりひとつつかないよう気を配っていた。

けれど今、そこに残っている言葉を見ても、胸に浮かぶのは皮肉な思いだけだった。

大切なもの。

かつて私に向けてくれた純粋な気持ちは、いつの間にか、別の女の日記を丁寧に仕上げるための熱意に変わっていた。

私はノートを取り出し、自分の手でつけたカバーを外した。配送用の防水袋へ入れ、宛名には瑠奈の名前と住所を書く。

急ぎの集荷を頼むと、30分ほどして荷物は持っていかれた。

スーツケースを引き、玄関に立つ。最後に部屋を見渡すと、テーブルには昨夜怜司が飲み残した水があり、ソファには脱いだままの上着が残っていた。

私は
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