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転校生ライフと幼馴染の秘密

転校生ライフと幼馴染の秘密

Par:  さざ波Complété
Langue: Japanese
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私はいじめられている幼馴染・清水克哉(しみず かつや)に付き合って転校する約束をした。なのに、彼は転学願を提出する前日になって、やっぱり行かないと言い出した。 克哉の友達がからかうように言った。「茜さんを騙して転校させるために、あんなに長いこといじめられてるフリをするなんて、たいしたもんだな。 でも、彼女はお前の大事な幼馴染じゃないか。知らない学校に一人ぼっちで行かせるなんて、本当にそれでいいのか?」 克哉は素っ気なく答えた。「同じ市内にある別の学校だろ。たいして遠くもないさ。 いつもベタベタくっついてこられて、正直うんざりしてたんだ。だから、ちょうどいいよ」 その日、私はドアの外でずっと立ち尽くしていた。そして、黙ってその場を立ち去ることにした。 ただ、転学願の行き先は、K市第三高校から、両親がすすめる海外の高校に書き換えた。 私と克哉が、そもそも住む世界が違う人間だということを、みんな忘れているのかもしれない。

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Chapitre 1

第1話

私はいじめられている幼馴染・清水克哉(しみず かつや)に付き合って転校する約束をした。なのに、彼は転学願を提出する前日になって、やっぱり行かないと言い出した。

克哉の友達がからかうように言った。「茜さんを騙して転校させるために、あんなに長いこといじめられてるフリをするなんて、たいしたもんだな。

でも、彼女はお前の大事な幼馴染じゃないか。知らない学校に一人ぼっちで行かせるなんて、本当にそれでいいのか?」

克哉は素っ気なく答えた。「同じ市内にある別の学校だろ。たいして遠くもないさ。

いつもベタベタくっついてこられて、正直うんざりしてたんだ。だから、ちょうどいいよ」

真実を聞いた瞬間、心臓が激しく揺さぶられた。

この1か月、克哉は他の生徒に暴行を受けたり、濡れ衣を着せられたりと、数えきれないほど嫌な目に遭っていた。

彼が傷つかないように、私も必死で守ってきたけど、いつも上手くいくわけじゃなかった。

もう我慢の限界で、転校を勧めた。

その時、克哉は冷たい水をかけられたばかりだった。綺麗な顔は真っ青で、彼は助けを求めるように私の手を握りしめた。

「茜、知らない場所には一人で行く勇気がないよ」

私と克哉は幼馴染だ。幼稚園の頃からずっと一緒に学校へ通っていて、それは十数年間変わらなかった。

それに、私はひそかに彼のことが好きだったから。

だから私はつい、その場の勢いで、「怖がらないで。あなたが行くところなら、どこへでも一緒に行くから」と約束してしまった。

でも、すべてが、私を転校させるために克哉がわざわざ仕組んだ芝居だったなんて、今になってやっと分かった。

克哉は、そんなに私のことが嫌いだったんだろうか?どうしても、そう考えずにはいられなかった。

個室からの会話はまだ続いていた。「茜さんって、お前にベタ惚れだよな。

このタイミングで他の学校に行かせて、彼女が他の奴を好きになったらどうするんだ?」

「あいつが?」

克哉は、とんでもない冗談でも聞いたかのように鼻で笑った。

「俺のためなら、集団いじめの現場にだって割って入る女だぞ。自分が顔を腫らすほど殴られても一歩も引かなかった。そんな彼女が心変わりすると思うか?」

誰かが小声でつぶやいた。「でも、万が一ってこともあるだろ?茜さんって、一筋縄じゃいかない感じだし」

克哉はだるそうに答えた。「万が一なんてないね。K市第一高校には金持ちのボンボンがたくさんいるけど、あいつが他の男に目を向けたことがあったか?」

その口調には、どうしても軽蔑の色がにじんでいた。

「いつも俺の後ろをついてきてさ。まったく、うっとうしいにもほどがある」

個室から響いてきた耳障りな笑い声は、まるで私の頬を打ちつける平手打ちのようだった。

その場を去りたいのに、足が地面に縫い付けられたように動かない。聞きたくもない言葉が、私の心をえぐっていく。

誰かが、ある意味感心したように言った。

「自分に惚れてる女を、わざわざ自分から突き放す人なんて初めて見たぜ。たいしたもんだよ、ほんと。

でも、茜さんにベタベタされるのが嫌なら、直接言えばよかったんじゃないか?茜さんだって、しつこく食い下がるタイプには見えないけど」

克哉はイラついたように舌打ちした。「茜は事を荒立てそうだからな。はっきり言ったところで、すんなり引き下がるわけないだろ」

彼は話題を変えた。「それに、美羽があいつを見ると、すぐに自信をなくして落ち込んじまうんだ。俺がそばにいてやらないと、元気が出ないんだよ。

美羽のためには、こうするしかなかった。茜にはしばらく、我慢してもらうことになるけどな」

その言葉を聞いて、その場にいた誰もがすべてを察した。

考えてみれば、克哉がいじめの被害者を演じ始めたのは、ちょうど横山美羽(よこやま みう)が転校してきた1週間後のことだった。

誰かが笑いながら言った。「お前も抜け目ないな。あの可愛い転校生が来た途端、もう目をつけてたのかよ。

それもそうさ。美羽さんは本当に可憐で守ってあげたくなるもんな。性格もか弱そうだし、男が彼女に惹かれるのは仕方ないよ。

それに比べて茜さんは、性格がキツい上に、毎日仏頂面で人を寄せ付けないだろ。いくら美人でも、あれはちょっと……」

個室の中では、私に対する好き勝手な評価が、波のように次から次へと繰り広げられた。

私が長年ひそかに想いを寄せていた克哉は、彼らを止めるでもなく、反論するでもない。それどころか、時々うなずいて同意さえしていた。

ドアの外に立ったまま、私の心は深い奈落の底へと沈んでいくようだった。虚しくて、息が詰まるほど苦しい。

一瞬、ドアを蹴破って、中にいる克哉を大声で問い詰めてやりたい衝動に駆られた。

どうして私を騙したのか、と。

彼を守るために私が殴られているのを見て、少しでも罪悪感を感じなかったのか、と。

こんなことをしながら、私たちの十数年にわたる友情について、何も考えなかったのか、と。

でも、最後の最後で母の言葉が頭をよぎった。「どうでもいい人に、大事な時間を取らせちゃダメ」と。

きっと、これこそ彼の本性なんだろう。

私は踵を返し、その場を離れた。

胸がじわじわと、痛んだ。
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ノンスケ
ノンスケ
虐められてるように装って、彼女だけを転向させ、新しい女と楽しくやろうとか、考え方がずるい男だったなぁ。はっきりウザいって言えばいいのに。自分が悪者になりたくないんだろうなぁ。ツインテール女は腹黒丸出し。本物のお嬢様に敵うわけないし。
2025-12-25 15:42:53
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松坂 美枝
松坂 美枝
いい歳こいてツインテールの女はアイドル以外は地雷だな(笑) ソイツのために主人公を転校させといてギャーギャーうるさい男だった 結婚式の日も嫌がらせプレゼント贈ってくるしいいところのないクズだったわ
2025-12-23 10:28:56
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第1話
私はいじめられている幼馴染・清水克哉(しみず かつや)に付き合って転校する約束をした。なのに、彼は転学願を提出する前日になって、やっぱり行かないと言い出した。克哉の友達がからかうように言った。「茜さんを騙して転校させるために、あんなに長いこといじめられてるフリをするなんて、たいしたもんだな。でも、彼女はお前の大事な幼馴染じゃないか。知らない学校に一人ぼっちで行かせるなんて、本当にそれでいいのか?」克哉は素っ気なく答えた。「同じ市内にある別の学校だろ。たいして遠くもないさ。いつもベタベタくっついてこられて、正直うんざりしてたんだ。だから、ちょうどいいよ」真実を聞いた瞬間、心臓が激しく揺さぶられた。この1か月、克哉は他の生徒に暴行を受けたり、濡れ衣を着せられたりと、数えきれないほど嫌な目に遭っていた。彼が傷つかないように、私も必死で守ってきたけど、いつも上手くいくわけじゃなかった。もう我慢の限界で、転校を勧めた。その時、克哉は冷たい水をかけられたばかりだった。綺麗な顔は真っ青で、彼は助けを求めるように私の手を握りしめた。「茜、知らない場所には一人で行く勇気がないよ」私と克哉は幼馴染だ。幼稚園の頃からずっと一緒に学校へ通っていて、それは十数年間変わらなかった。それに、私はひそかに彼のことが好きだったから。だから私はつい、その場の勢いで、「怖がらないで。あなたが行くところなら、どこへでも一緒に行くから」と約束してしまった。でも、すべてが、私を転校させるために克哉がわざわざ仕組んだ芝居だったなんて、今になってやっと分かった。克哉は、そんなに私のことが嫌いだったんだろうか?どうしても、そう考えずにはいられなかった。個室からの会話はまだ続いていた。「茜さんって、お前にベタ惚れだよな。このタイミングで他の学校に行かせて、彼女が他の奴を好きになったらどうするんだ?」「あいつが?」克哉は、とんでもない冗談でも聞いたかのように鼻で笑った。「俺のためなら、集団いじめの現場にだって割って入る女だぞ。自分が顔を腫らすほど殴られても一歩も引かなかった。そんな彼女が心変わりすると思うか?」誰かが小声でつぶやいた。「でも、万が一ってこともあるだろ?茜さんって、一筋縄じゃいかない感じだし」克哉はだるそうに答えた。「
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第5話
私が口を開くより先に、潤が声をかけてきた。「茜、まずは新しい学校を案内させてくれる?」彼はただ親切で言っているだけで、何の他意もないといった顔をしていた。克哉の声のトーンが、とたんに高くなった。「茜、原田って男と一緒にいるのか?一体どこにいるんだよ?」私はスマホを少し耳から遠ざけた。克哉の声がこんなにうるさいと感じたのは、初めてだった。「私がどこにいようと、あなたに関係ないでしょ?」克哉は私の言葉なんて聞こえていないようだった。信じられないといった声で言った。「俺への当てつけで、わざわざあいつに会いに行ったのかよ?!俺を怒らせるためなら、あんなクズみたいなやつとでも……」彼の言葉がどんどん汚くなっていくのが聞こえて、私は我慢できずに叫んだ。「黙って!」息を深く吸い込んで、私はきっぱりと言い放った。「克哉、最低なのはあなたのほうよ」あの言葉、やっと克哉に返すことができた。「もう二度と電話してこないで。私たち、これで本当におしまいだから」そう言ってすぐに電話を切り、彼の友達の電話番号を着信拒否にして削除した。やっと静かになった。私は申し訳ない気持ちで言った。「ごめんね、こんな話聞かせちゃって」でも、潤はにこっと笑うだけだった。「じゃあ、晩ごはんおごってよ」彼はいたずらっぽくウィンクした。「お詫びのしるし、ってことでさ」私はほっとして、にこやかに返した。「もちろんいいよ」清水家の二人の息子は、本当に正反対だ。昔、彼らの父親・清水大地(しみず だいち)が浮気をして、愛人が克哉を産んで家に入り込んできた。その時の妻だった清水夏美(しみず なつみ)の対応は、見事なものだった。彼女は清水家の財産の半分以上を手にすぐ離婚した。それだけじゃなく、若くして才能を発揮し始めていた息子の潤も、ちゃんと連れて行ったのだ。それから、潤は母親の苗字に改め、海外に定住した。母は、潤と彼の母親の話をするたびに感心していた。清水家は、一家を仕切っていた夏美がいなくなってから、坂を転がるように落ちぶれていったって。克哉が自慢げにしている清水家の御曹司っていう肩書なんて、今はもう、ただの飾りみたいなものだ。その話になると、母はいつもため息をついて言った。「うちの茜は人が良すぎるから。よりにもよって、克哉みたいな子を
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第9話
警察署で事情聴取を終えたら、もうすっかり夜遅くになっていた。だから、私は潤をそのまま自分の家に連れて帰ることにした。次の日、目を覚ますと、目の前にはもう朝食が用意されていた。私はドアに寄りかかって、真剣に食器を洗う潤の姿を見ながら言った。「意外とマメなのね?」「まだ彼氏じゃないから。今のうちに、君に家庭的なところをアピールして、良い印象を持ってもらわないと。君が機嫌を損ねて、俺のこと捨てちゃったらどうするんだ?」潤は私の鼻先をちょんとつつきながら、冗談めかして言った。私は呆れつつ、昨日の夜、友人たちが好奇心丸出しで潤を見ていたのを思い出した。なんとなくスマホを眺めていた私は、あるニュース記事に目が留まって、思わず笑ってしまった。「彼氏になりたいって言ったでしょ?チャンスが来たみたいよ」トレンドのトップに上がっていたニュースの見出しは、太字で大きく表示されていた。#藤堂グループ跡継ぎ、既婚者を誘惑か。#藤堂グループ跡継ぎの乱れた私生活、見知らぬ男をお泊りさせる。二つの見出しが、並んでいた。私を社会的に抹殺しようという、強い悪意を感じる。美羽は知らないんだろうけど、別荘には防犯カメラぐらい設置してある。ネットで騒ぎが大きくなる前に、ある動画が瞬く間に拡散された。動画には、私が断って立ち去ろうとしたのに、清水グループの跡継ぎがしつこく迫ってきて襲いかかろうとする姿がはっきりと映っていた。これで藤堂グループへの風当たりは一気に変わった。でも、まだ疑いの声は消えない。【じゃあ、私生活が乱れてるってのはどうなのよ】【若くして藤堂グループの重役だなんて、どこの大物に売ったんだ?】潤は、まるで緊急事態かのように、慌ててツイッタのアカウントを登録し始めた。私はその慌てぶりに思わず笑った。「そんなに急がなくてもいいのに」彼は忙しなく動かしていた手を止め、真剣な顔で私の額にキスをした。「君は、誰にも悪く言われるべきじゃない」ピコン。【原田潤があなたをフォローしました】という通知が届いた。スマホに目をやると、なんと公式マークのついた本人のアカウントだった。そしてすぐに、潤のアカウントから新しい投稿があった。【原田グループを代表し、未来の社長夫人が昨晩泊めてくださったことに感謝します】同時
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第10話
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