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第6話

Auteur: ホカ
圭太は何も知らぬまま、結婚記念日の当日、胸を高鳴らせながら、別荘の玄関先で蛍を待っていた。

氷河島から国際電話をかけるのは不便だろうと、このところ連絡を控えていた。

彼女の帰国予定は何も知らされていない。だからこそ、この日になれば帰ってきてくれると信じ、ひたすら待ち続けていた。

「圭太さん、ネットがもう大騒ぎですよ。ファンが配信をやれって押し寄せてます。もうやらないと収拾がつきません」

マネージャーが必死に説得する。以前から約束していた配信なのだ。

圭太は、これまで配信をすれば、必ず蛍が見てくれていたことを思い出す。

そして、赤く充血した目でうなずき、配信ボタンを押した。

【圭太くん、どうしたの?なんで泣いてるの?】

【何があったんだよ、ヤバいって】

震える唇で圭太はつぶやいた。「蛍、配信、見てるか?早く帰ってきてくれ。お前が言うことなら、何でもやる。お願いだから、戻ってきてくれ」

【え、どういうこと?蛍って奥さん?】

【奥さん行方不明?】

【マジかよ!警察に通報しろって。あんなに愛されてるのに、自分から離れるわけない。絶対何かあったんだ!】

圭太は、蛍がこの数日間の自分の裏切りを知ったと思う方が、事故に遭ったと信じるよりもまだ救いがあると感じていた。

「蛍、本当に悪かった。頼む、俺を捨てないでくれ……」

【なにそれ】

【これ、もしかしてスキャンダル?】

圭太が再び跪いて懇願する間もなく、ドアがノックされた。

転がるように駆け寄り、彼は叫ぶ。「蛍、やっと帰ってきたんだな!お前が俺を置いて行くはずないって、信じてた」

だが、ドアの向こうに立っていたのは二人の警察だった。

「加瀬圭太さんですね。奥様の蛍さんが、氷河島での観光中に不幸にも事故で亡くなられました。遺体は氷河に沈み、現在行方不明ですが、全力で捜索します。ご愁傷様です」

その一言は、脳内で爆弾が破裂したように響き、以降の声は何も耳に入らなかった。

蛍は死んだ。もう、彼のもとには戻らない。

配信を見ていたファンも、その言葉をはっきり聞き取っていた。

【嘘、奥さん亡くなったの?】

【やばい、圭太くん大丈夫?】

【あんなに仲良かったのに、なんでこんな残酷なことに】

圭太の頭は真っ白になり、自分がどうやって書類にサインをしたのかも、どうやって蛍のスマホを受け取ったの
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