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第679話

Author: 小春日和
家村の返答に対し、真奈はほんの少し眉をひそめて言った。「出雲蒼星が大旦那を殺した犯人だと知っていながら、それでも彼をかばうつもりなの?」

「かばうつもりはありません。ただ、出雲家は大旦那が一生をかけて築き上げたものです。それがこのまま崩れていくのを、黙って見ていることはできません」

家村はよくわかっていた。もし自分が真奈に手を貸せば、それは出雲家を崖っぷちに追いやることにほかならない。

それを聞いた真奈はふっと笑って、静かに言った。「大旦那の築いたものを台無しにするなんて言ってないのよ?」

家村は冷笑しながら言った。「これほどまでに周到に動かれたのは、出雲総裁を失脚させて、出雲家を潰すためではないのですか?」

「半分は当たり、半分は外れだ」

「……どういう意味でしょうか」

「私は出雲蒼星を倒したいだけ。別に、出雲家そのものを潰す気なんてないよ」

そのひと言に、家村は一瞬言葉を失った。

いまの真奈には、すでに勝ち筋が見えていた。実際のところ、家村がどれだけ筋道を立てて利害を説いたとしても――出雲がそれに耳を貸すとは思えなかった。

真奈がひと言言えば、出雲家の資金繰りはすべて断たれ、倒産なんて一瞬の出来事だった。

ここまでしておいて、本当に出雲家を潰すつもりはないのか――家村はそう思わずにはいられなかった。

真奈は言った。「私はね、恩も恨みもはっきりしてるタイプなの。私が恨んでるのは出雲蒼星だけ。今やってるのは、彼を引きずり下ろすためであって、出雲グループを潰すつもりなんてないよ」

「誰がそんな話、信じると思ってるんですか?ここまで仕掛けておいて、雲城みたいな美味しい場所を手放すわけないでしょう?」

家村が疑いの目を向けるのを見て、真奈はあっさりと言った。「手放すって言ってないのよ?」

家村は鼻で笑いながら言い放った。「やはり、最初から下心があったんですね」

「下心があるかどうかは――最後まで聞いてから判断してよ」

真奈はふわりと笑みを浮かべて言った。「あなたがそんなに出雲グループを心配してるのって、結局のところ、出雲蒼星が滅びたあと出雲家の財産を引き継ぐ人がいなくなって、現場が混乱して、出雲グループがバラバラになる。その隙を突いて私が買収に動くって思ってるからでしょ?」

「その通りです」

「じゃあ、はっきり言っとく。私は出雲蒼星が
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