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第3話

Author: 緋色の追憶
その夜、承璽がやって来たのは、すでに子(ね)の刻(真夜中)近かった。

令儀は床に就こうとしていたが、知らせを聞いて上着を羽織り、起き上がった。

青黛が髪を結い上げようとしたが、彼女は手で制した。

「そのままでよいわ」

冷気をまとって入ってきた承璽は、彼女が薄絹の寝着一枚で髪を解き放っているのを見て、足を止めた。

「陛下」

令儀は礼をした。

「面を上げよ」

彼は卓のそばに座り、自分で茶を注いだ。

「皇后が姫に名をつけた。『安寧(あんねい)』とな。お前も生母なのだから、意見を聞いておこうと思ってな」

令儀は目を伏せたまま答えた。

「皇后様は姫君の母親でいらっしゃいます。皇后様が付けられた名なら、間違いなく良い名に違いありません」

承璽の茶杯を握る手に力が入った。

殿内で炭火がパチリと音を立てた。

「そう思ってくれるなら、それでよい」

彼は茶杯を置いた。

「今日来たのは、もう一つ用があるからだ。昱が三歳になり、学問を始める時期になった。皇后が自ら教師を選ぶことになった」

令儀は静かに聞いていた。

承璽は言葉を切った。

「朕の考えだが……今後は、昱に会うのを控えた方がよかろう。子供はまだ幼い。生母が別にいると知れば、いらぬ騒ぎが起こりかねん。母親は皇后一人だけだと思わせるのが、誰にとっても一番良いのだ」

彼女は顔を上げ、彼をじっと見つめた。

蝋燭の光に照らされた彼女の瞳は、晩秋のように静かで、波一つ立っていなかった。

「仰せのままに」

承璽は不意に苛立ちを覚えた。

泣き叫び、騒ぎ立て、昔のように涙を浮かべて「なぜですか」と問い詰めて欲しかった。今のように、魂のない人形のように恭順に従うのではなく。

「恨みに思っておるのか?」

彼の声が冷ややかになった。

「滅相もございません」

承璽は胸の奥が詰まるのを感じた。この逆らうこともなく、暖簾に腕押しのような態度は、かつての涙ながらの懇願よりも彼を息苦しくさせた。

「令儀、その態度は朕への当てつけか? もし不満があるのなら、どうして皇室のために安心して子を成すことができるというのだ!」

令儀の口元が、ほんのわずかに歪んだ。嘲笑うようでもあり、ただ単に感情が麻痺しているようにも見えた。

「陛下が後継ぎをご案じでしたら、後宮に広く賢淑な女子をお召しになればよろしいかと存じます。わたくしめのような無能な者では、聖意に背く恐れがございますゆえ」

「お前という奴は!」

承璽は勢いよく立ち上がった。

「朕は皇后と誓約を交わしているのだ! お前一人を後宮に入れただけでも、『生涯の相手はただひとり』という誓いを破ったことになる。これ以上、彼女を裏切ることなどできるものか!」

言葉が口をついて出た瞬間、殿内は静まり返った。

承璽自身もはっとした。

彼は、令儀の顔がさらに青ざめ、下唇を強く噛み締めて血の気が失せていくのを見た。微かに震える長いまつ毛の下で、一瞬だけ光った涙の雫。それは錯覚かと思うほど早く消えた。

自分がどれほど残酷な言葉を吐いたか、彼は思い知らされた。

彼のために二人の子を産み、今まさに寝台で弱り果てている女に向かって、別の女への揺るぎない愛を強調してしまったのだ。

いたたまれない沈黙が広がった。

令儀は身体を支えながら、ゆっくりと寝台を降り、うつ伏せになって額を床にこすりつけた。

「わたくしめが……失言をいたしました。陛下と皇后様の深い御情愛は、千古に語り継がれる美談にございます……陛下、どうかお気をつけてお帰りくださいませ」

彼女は平伏したまま、薄暗い光の中で華奢な肩を微かに震わせていたが、それ以上は何も言わなかった。

承璽は床に伏す青い影を見つめながら、苛立ちと名状しがたい痛みが胸の中で入り混じるのを感じた。

ふと、三年前の彼女が後宮に入ったばかりの頃を思い出した。

あの頃の彼女はまだよく笑い、御花園で梅の枝を折って瓶に生けたり、彼が奏上文を読んでいる傍らで黙々と墨をすったりしていた。

彼が顔を上げると、盗み見していた彼女と視線がぶつかり、慌ててうつむく彼女の耳たぶが赤く染まっていた。

いつから、彼女は朕を見なくなったのだろうか?

手を差し伸べ、何か取り繕う言葉をかけたい衝動に駆られた。しかし、皇帝としての威厳と、姝への罪悪感が彼をその場に縛り付けた。

結局、彼はただ袖を強く振り払い、大股で振り返ることなく去っていった。消えやらぬ怒りと、自分でも認めたくない微かな惨めさを引きずりながら。

扉が開いて閉まり、冷気が流れ込んだ。

青黛が慌てて駆け込み、泣きながら令儀を抱き起こした。

「お妃様、どうしてここまでご自分を苦しめるのですか……」

令儀は彼女に支えられるまま寝台に横たわり、目を開けたまま、ぼんやりと天蓋を見つめていた。

しばらくして、涙が何の予兆もなく、目尻から滑り落ち、後れ毛に吸い込まれた。

初めはただ声を殺して涙を流し、肩を小さく震わせていただけだったが、やがて抑えきれない、引き裂かれるような嗚咽が喉の奥から漏れ出した。それはまるで傷ついた小動物の悲鳴のようだった。

彼女は激しく布団を引き寄せ、その角を強く噛み締めて、すべての泣き声をその中に閉じ込めた。ただ激しく震える身体だけが残された。

「お妃様、お妃様、泣いてください。どうか我慢なさらないで……」

青黛は胸が張り裂けそうだった。

どれほど時間が経っただろうか。その震えは次第に収まっていった。

令儀は布団を退け、涙に濡れていながらも、異様なほど静まり返った顔を見せた。

彼女は涙で顔をくしゃくしゃにした青黛を見つめ、声は嗄れていたが、一字一句はっきりと口にした。

「青黛、これできっぱり最後よ」

「え?」

「泣くのは、これできっぱり最後」

彼女は手を伸ばし、顔に残る涙の痕を力強く拭き取った。指先は氷のように冷たかった。

「これからは、二度と泣いてはならないわ」

彼女の視線は青黛を通り越し、虚空を見つめながら繰り返した。青黛に言い聞かせているのか、自分自身に言い聞かせているのかわからなかった。

「価値などないわ。あの男のために涙を流す価値など、少しもない」

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