LOGIN麻雀のプロにはいくつかの種類がある。 リーグ戦などで切磋琢磨する競技麻雀のプロ。 大きな賭場で稼ぐバクチ打ち。 よくある麻雀店で働くスタッフ。 健康麻雀の講師など。 他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。 そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。 『接待麻雀』それを自分の仕事とした麻雀家政婦の物語がいま始まる――
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麻雀のプロにはいくつかの種類がある。
リーグ戦などで切磋琢磨する『競技麻雀』のプロ。大きな賭場で稼ぐ『バクチ打ち』。よくある麻雀店で働く『スタッフ』。健康麻雀の『講師』など。
他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。
――そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。
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(好形イーシャンテンですね……)
二四六七④⑤3456778 三ツモ
(ドラは4索……この手からは後に危険になりそうな3索を今のうちに捨ててテンパイ時に安全性が高そうな8索を捨てるのが手順です。でも、だからこそ私の仕事的には……)
打8
「よーし、リーチだ!」
「(来ましたね。待ってましたよ)ここは私も降りられませんね」
打6
「ロン! 一発だから満貫!」
「チュンさーん。どんな手から勝負しちゃったのー?」
「いい手でしたよー。テンパイですし」
チュン手牌
二三四赤伍六七④⑤34577
「ああ、三色変化を待ちつつのタンピン系ダマ満貫か。これは6索放銃も仕方ないねー。ていうかもうリーチしちゃっても良かったんじゃないの?」
「チュンさんっていい手作りしてるけどチョイチョイ大物手に放銃しちゃってるよね」
「アハハ、あまり守備が上手くないんで」
「不思議だなー。いつもけっこういいポジションにいるのにね」
(私は気持ちよく麻雀をしてもらえれば、それが仕事ですからね。上手に点数を分配するためには最初はある程度集める必要がありますし)
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──
「ああ、今日の麻雀も楽しかった! チュンさん、また明日ね!」
「ええ、また明日。リベンジさせて下さい(ふう、今日もなんとか任務完了ですね)」
これは、『接待麻雀』という打ち方を生業に選んだ特殊な麻雀打ちの物語――
麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜
「では、行ってまいります」
「任せたよ。気を付けてね、チュン」
「はい。お任せ下さい」
そう言うと大きな荷物を背負い事務所の扉を開けて彼女はお勤めに出た。
ここは特殊な専門知識を持つ家政婦のみが採用される特別な家政婦の集まる場所。
『特化家政婦専門事務所 アズマ』
家政婦派遣いたします。料金は応相談。サービスに対して高いということは決してございません。顧客満足度97% 初回はお試し価格。東京都と東京隣接地域ならほぼ全箇所出向きます。
表向きはここまでの情報しかない。いったい何について特化した家政婦がいるのかその謎は実際に雇った者だけが知ることが出来る。
◆◇◆◇
その1『井之上家』編
第一話 その名は紅中
(『井之上』……ここだ。早すぎたかもしれないけど、時間調整するような喫茶店も何も無いわね、仕方ない)
ピンポーン
『はい』
「ごめんください、わたくし『アズマ』の紅中(ホンチュン)と申します。お時間少し早くなりましたが、よろしいでしょうか」
『あ、大丈夫です。今開けますね』
ガチャ
「今日はありがとうございます。どうぞお上がり下さい」
「いえ、こちらこそご依頼ありがとうございます」
それなりに片付けてはある玄関口だが、わずかに異臭がある。そして、所々に散らばるゴミ。なるほど、家政婦を頼るのは賢明な判断だ。おそらくこれはこれでも頑張って片付けた状態なのだろう。しかし異臭は自分の鼻が悪くなっていると完全に消すことは出来ないものだ。
「よくアズマにご連絡を下さいました。今なら私1人でも全て美しい状態にする事が可能です。私にお任せ頂けますか」
「ええ、それはもちろん」
すると紅中と名乗る女性は背負っていた大きな荷物を降ろしてその中から様々な掃除道具を取り出した。
「全ての部屋を掃除することも可能ですが。どうしましょうか? 全部屋やってしまいますか?」
「はい、お願いしま「いやいやいや! 父さん勝手に決めんなよ。おれの部屋はいいから。おれは自分でやるからほっといて!」
「そうですか。わかりました。どの部屋でしょう」
「2階の手前の部屋! そこ、おれの部屋だからやらないでいいよ。よろしくね」
長男の宏(コウ)は高校1年生だ。さすがに自分の部屋に他人を上げたりはしない。まして見ず知らずの女性なんて思春期真っ盛りな宏が散らかした部屋に上げるわけがなかった。
「僕はやってもらおうかなぁ。部屋を綺麗にする才能が僕には無いみたいだしー。2階の奥が僕の部屋だからお願いしていい?」
「承知いたしました。坊ちゃまのお部屋は掃除してよい、と」
「うん。お手伝いできることがあればやるよ」
「いえ、私にお任せ下さってけっこうですよ。お仕事ですので」
「そう? ありがとう。でも坊ちゃまは恥ずかしいからやめてね」
「なんとお呼びすれば……」
「士郎でいいよ。シロー。名前気に入ってるからさ。そう呼ばれたいんだ」
「なるほど、良いお名前ですね、士郎様」
「えへへ。そうだろ? あと『様』も要らないからね?」
次男の士郎は中1だ。コミュニケーション能力は高くて、明るいが基本的におとなしめで柔和な子である。
「旦那様の部屋は……?」
「ああ、私の部屋とかそういうのは無いから。強いて言うなら本の部屋がそれだけど、本当に本があるだけだからね。ちなみにそこだけは整頓してるからやるっていっても少し拭き掃除するくらいしかやる事はないと思うよ」
「書斎……ということでしょうか」
「そんな格好いいもんじゃないさ。半分以上漫画だし、本当にただの本棚だよ。……私は漫画が好きなんだ。漫画家になりたいと思って若い頃はチャレンジしたくらいでね。担当さんもついたんだけど、それが全然売れなくてねぇ。諦めて別の道を選んだわけですが、漫画が好きな気持ちは今でも人一倍だというわけです」
「担当さんがついたなんてすごいです! プロじゃないですか」
「鳴かず飛ばずじゃダメさ。そんなのプロって言っていいのか……なんにせよ、昔の話ですよ。今は陶芸一本。それが私の進むべき道だったようです」
「それも素晴らしいことですね。アートの世界に生きる方を私は尊敬します」
「嬉しいこと言ってくれるね〜。ええと、ごめん、お名前は何さんだっけ」
「『紅中(ホンチュン)』です。と言っても『チュン』で構いません」
「チュンさんね。……チュンさん、どうもありがとう」
「いえ、そんな……」
少しリビングを見て回ると麻雀大会準優勝の盾が飾られていることに気付いた。
「! この盾はどなたが?」
「ああ、これは生前に妻が獲ったものです。下手の横好きでしたが作家枠で呼ばれた麻雀大会で決勝戦まで残り、優勝にあと一歩というところまで行った。その準優勝の盾ですね」
「奥さまはお亡くなりでしたか……それで私どもに……」
「そうなんです。私なりに必死になってやってきたつもりですが、恥ずかしながら家事は任せきりだったということを妻を失ってから認識しました。彼女には家事と育児と任せていて、それで仕事もさせていたなんて、どうして私はそんな事をさせてしまったんだって……今は後悔しかないです。ストレスも軽減させていたら彼女の運命は違っていたのかもと考えると本当に……もう」
(奥さまはストレス性の原因がある病でお無くなりになったのかしら……いや、詮索は今はやめよう。余計な事は聞かない方が賢明)
「チュンさん。私はね、恥ずかしながら洗濯機もまともに使えなかったんです。その事にも妻を失ってから気付きました。……全くもって情けない」
「でも今は頑張ってここまでやってらっしゃるではないですか」
「これは人を呼ぶからなんとか出来る限り、失礼の無いように必死に掃除してこれなんです。頑張ったつもりですが、妻がいた頃とは比較にならない。稼ぎだって妻の方があったのに。私はダメな夫だったんです」
「旦那様、そんな事はございませんよ。私たち家政婦のご依頼主には2つのパターンがあります」
「パターン……ですか」
「はい、1つはどうせ家政婦に片付けてもらうんだからと全くそのままにしているパターン」
「そんなひどい人いるんですか」
「全然いますよ。お金払うんだからいいでしょという考えです。それももちろん間違いではありませんし」
「そういうものですか」
「はい、もう1つは旦那様のようになるべく片付けてからやってもらおうと思うパターン。どちらもお客様ですから、私は働くのみですが、やはり片付けてからやってもらおうと思う旦那様のようなパターンですとこちらも気持ちよくお仕事に取り掛かれます」
そういったリスペクトのある関係で仕事をするのが素晴らしいな。と思う紅中ではあったが、そこは言わなかった。自分をリスペクトするべきだといった意味に取られる可能性のある発言はしないあたり、さすがのサービス精神である。
「こんなのでもそう褒めてもらえると片付けた甲斐があったよ。ありがとう」
「いえ…… 感謝をしてるのは私の方でございます」
「ハハ、そうだった。でも、言わせて欲しいんだ。ありがとうと。多分、妻にはこういう時に感謝を言えなかったから……そういうのも良くなかったなって、反省しているんだよ」
「チッ……死んでから反省したって何もかも遅せーんだよ!」
「宏……」
「喉渇いた。なんか飲み物あったっけ」
「あー、切らしてるかもな」
「来客があるのに飲み物を切らしてるなんてお母さんならありえなかった」
「ゴメンな……宏」
(やれやれ、これはまず長男の宏さんのやり切れない怒りをなんとか鎮める所からですか。少し骨が折れそうです)
こうして、紅中による井之上家での仕事が始まった。
50.その6第二話 諦められるのも才能「なんですかその、ネット対戦というのは」「紅中は電子機器に疎いの半端じゃないよね。漫画作りの時しかメカ触らないんじゃない?」「失礼な、私だって携帯電話を持っていますよ」「それ、何に使ってる?」「通話とメール。あとたまにカメラ機能を使いますね」「ほら。それ最低限の使い方じゃん。カンタンケータイとかいうやつで大丈夫なんじゃない?」 そう、紅中は味音痴の他にも実は機械音痴という欠点があるのだ。まあそれは他のスタッフがカバーできたり、紙などを使うことで問題が解決するから大丈夫っちゃあ大丈夫なのだけど、しかし今どきの26歳にしてはあまりにも時代遅れではある。「漫画描く時はiPad使ってるんでしょ? 少しずつでも機械化に慣れてかないと時代に取り残されるんじゃない?」「むむむ……! 来年の今頃もまだ機械を使えてなかったらマウント取って下さい」「なんで?」「シロ子は私と1歳差でしょう。私も27歳になるまでには電子機器に慣れておきますから」「チュンは変わらない気がするけどなぁ」「人は成長します……!」 すると、紅中とシロ子のやり取りを聞いていた錦野流石がケラケラと笑い出した。「面白い。クク……チュンさんだっけ? 面白いなアンタ。おっとりした見た目してる割には気は強いんだね。それに何? 漫画描いてるの? 今度見せてよ」「今度と言わず今すぐにでも。今日持ってきてますので」「ぜひ読んでみて。チュンが描いて私がアシスタントをしてるの」とシロ子も漫画をオススメしてきた。 すると「私読みたい」と別室でテレビを観ていた今日子が漫画の話に反応してきた。「と、言っ
49.ここまでのあらすじ『特化家政婦専門事務所 アズマ』には接待麻雀の専門家が揃っている。その中でも成績優秀なエース家政婦が『紅中』。 紅中はいつもその接待麻雀の腕で依頼主の心を掴み契約を取ってきた。はたして次はどんな依頼が紅中を待ち受けるのか――【登場人物紹介】紅中ほんちゅん 本名は真中紅子。チュンの愛称で親しまれる成績優秀な『アズマ』のスーパーエース。趣味は同人誌作りでプロ顔負けの漫画を描く実力者。ビジュアル的にもイイ女だが味音痴なのが玉にキズ。いつか同人誌フリマで壁サークルになるのが夢。東あずま 本名は東正美。アズマの所長。口では厳しいことを言うがその実は面倒見が良くて母性に溢れた優しい女性である。緑發りゅうは 本名は阿智山緑。アズマの給料泥棒。基本的に事務仕事専門。頭脳明晰で高学歴。身長144センチで高い所に届かない。しかも人見知り。家政婦をやるには少し向いてない女。麻雀は得意でどんなルールの麻雀も器用にこなす。ミナミみなみ 本名は片岡南。アズマに所属している家政婦。成績はそこそこ優秀で紅中の次くらいに稼いでくる。紅中の成績にあやかって最近は長い髪をお団子にした。シロ子しろこ 本名は白田雪子。アズマ所属の家政婦。出勤日数は少なめで実家暮らしの27歳。アズマに出勤してない時は本を読んだりSNSをしたりでゆっくりしてる。たまに紅中の同人
48.サイドストーリー2イノウエ順子短編集その2大妖怪 井之上家との契約を変更したその日、紅中はイノウエ順子短編集を読んでいた。 (このストーリーは短いからほんのオマケみたいに書かれて注目度も低かったですけど。書いてある内容はすごく高度で『わかる人にはわかる』という名作でした。これを章生さんは読んでないんですかね? それともまるっきりフィクションだとでも解釈したんでしょうか。私にはこの物語は本当は純子さんのエッセイなんじゃないかと思うんですが。だって、輪ゴムで縛るとか。右腕の袖にひっかかって倒れるとか、リアルすぎるんですよね。……これきっと実話なんでしょうね。…………大妖怪。フフフッ)◎大妖怪著:イノウエ順子 その店には通称『妖怪』と呼ばれる常連がいて、あの手この手で勝ちに来る強敵であった。 その日、妖怪は私の下家にいた。「リーチだ」 妖怪からの先制リーチ。 すると妖怪の袖口が手牌に当たってしまい、右手側3枚の牌が倒れてしまう。西西九 西は場に2枚切れだ。「あははは! じいさん! チートイツか」「捨て牌に六萬も捨てて引っ掛けてたのに見えちゃったなあ!」と、お客2人は大笑いしていたが、私はあることに気付いていた。 妖怪のサイドテーブルに輪ゴムがあるということに。
47.第九話 手作りクッキー 翌日―― 今日は日曜日なのでまた紅中は井之上家へとやってくる。家事をするためではなく麻雀のメンツとしてだが。ピンポーン──────「さて、私は派遣メンバーではありませんので。今日は他にもなにかできないかと思い、クッキーを焼いてきましたよ!」「「えぇ?」」「あれ、クッキー苦手でしたか……? 台所にクッキーの缶が複数ありましたのできっとクッキーは好きなはずと読んだ上で作ってきたのですが」 相変わらずの観察力である。その読みは当たっていて、井之上家は全員クッキーが好きだ。……美味しいクッキーならば。というのが前提ではあるが。「い、いや、好きさ。全然嬉しいよ。チュンさんありがとう。今日はそれ食べながら麻雀しようよ、なっ? 士郎」「そそ、そうだね〜。それがいいね」(どうすんだよ。兄ちゃん)(どうもこうも、食うしかないだろ。大丈夫だ。4人で分けて食えばそんなたいした量じゃないだろ。牛乳もコーヒーもあるからごまかしながら食うぞ)(マジかよ〜。砂糖と塩間違えるとか古典的な失敗してたらさすがに食えないからね?)(さすがにそれはないだろ) 章生も明らかに(まいった)という感じの顔をしていたが、そういうのもすぐに察してしまう紅中なので章生は一瞬で表情を戻して笑顔で「ありがとうございます!」と言いクッキーを受け取った。すると……(うお! なんて量だ。すごいたっぷり作ってきたな……。これは事件だぞ) チラリと息子たちの