麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜

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last updateLast Updated : 2026-01-31
By:  彼方Completed
Language: Japanese
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 麻雀のプロにはいくつかの種類がある。  リーグ戦などで切磋琢磨する競技麻雀のプロ。  大きな賭場で稼ぐバクチ打ち。  よくある麻雀店で働くスタッフ。  健康麻雀の講師など。  他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。  そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。 『接待麻雀』それを自分の仕事とした麻雀家政婦の物語がいま始まる――

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Chapter 1

その1 第一話 その名は紅中

潮崎市、センター病院。

「子宮外妊娠です。卵管破裂は命にかかわります!こんな大手術なのに、どうして一人で来たんですか?主人は?早く呼んでサインをもらってください!」

朝霧静奈(あさぎりしずな)は、腹部を引き裂かれるような激痛に耐えながら、電話をかけた。

呼び出し音は長く続いた。

受話器の向こうから、冷たい声が聞こえる。

「何?」

「彰人、今、忙しい?お腹がすごく痛くて、少しだけ……」

「暇じゃない」

彼女が言い終わる前に、不機嫌な声が冷たく言葉を遮った。

「腹が痛いなら医者に行け。こっちは忙しい」

「彰人さん、誰から?」

電話の向こうから、甘い女の声が聞こえる。

「どうでもいい相手だ」

彼の声が、急に優しくなった。

「どれがいい?好きな方を言え。競り落としてプレゼントしてやる」

耳元で、ツーツーという無機質な音が鳴り響く。

静奈の心は、まるでナイフでじわじわと切り刻まれるようだった。

彼女の顔色が真っ白になり、呼吸が浅くなっているのに気づき、医師が叫んだ。

「急げ!すぐに手術室を押さえろ!患者の手術を始める!」

静奈が次に目を覚ましたのは、病室のベッドの上だった。

「目が覚めましたか?昨日は本当に危険な状態だったんですよ。処置が早かったから助かったものの、もう少し遅かったら危なかったんですから!」

若い看護師が、点滴をしながら愚痴をこぼした。

「それにしても、あなたの主人、ひどいじゃないですか!こんなに大きな手術をしたのに、一度も顔を見せないなんて!本当に無責任ですよ!

はい、これ、介護士センターの番号です。必要なら、介護士を呼んでくださいね」

「ありがとうございます」

静奈は看護師から名刺を受け取った。

携帯を取り出し、介護士センターに電話をかけようとした、その時。

突然、ニュース速報がポップアップで表示された。

【潮崎市一の富豪、長谷川グループ社長・長谷川彰人氏、二十八億円のマダム・デュヴィエのダイヤモンドネックレスを落札!恋人の笑顔のため、衝撃のプレゼントか!】

目に突き刺さるような見出しに、静奈の瞳孔が大きく開いた。

写真に写っているこの上なく端正な顔立ちは、まさしく自分の夫、長谷川彰人(はせがわあきと)だった。

だが、自分は彼にとって決して公開できない妻。

結婚して四年。

彼はいつも、氷のように冷たく無慈悲だった。

てっきり、それが彼の持って生まれた性格なのだとそう思っていた。

彼の心を動かすため、自分は従順で物分かりの良い「長谷川夫人」を必死に演じてきた。

しかし今、彼が堂々と他の女性を腕に抱き、世間に愛情を見せつけている姿を見て、ようやく悟った。

彼は本当に少しも自分を愛してなどいなかったのだ。

胸が締め付けられるように痛む。

静奈の目には、みるみるうちに涙が滲んだ。

もう、諦めなければ。

四年も続いたこの茶番を、終わらせる時が来たのだ。

静奈は予定より二日早く、退院手続きを済ませた。

医師は心配そうな顔で言った。

「体はまだかなり衰弱していますよ。もう少し入院していた方が……」

「家の用事がありまして」

「しばらくは絶対に安静にしてください。激しい運動は禁止、それから性行為は絶対に駄目ですよ。一週間後にまた検査に来てください」

「ええ、わかりました。ありがとうございます、先生」

静奈は汐見台という住宅街にある一軒家の邸宅に戻った。

家政婦の田所敦子(たどころ あつこ)は、あからさまに不機嫌な顔で彼女を責め立てた。

「若奥様、近頃はますます目に余りますね!何日も家を空けるなんて!若様がお知りになったら、お怒りになりますよ!」

敦子は長谷川家の家政婦という立場だが、その振る舞いは姑同然だった。

彼女は彰人のめのとであり、自分は特別な存在だと自負している。

彰人から寵愛を受けていない静奈のことなど、端から見下していた。

静奈は分かっていた。

敦子が自分に対してこのような態度を取るのは、彰人の指示ではないにしても、彼の黙認があるからだ。

でなければ、これほどまで傲慢になれるはずがない。

これまでは、彰人に気に入られようと、静奈は彼の周りの人間すべてに媚びへつらってきた。

敦子にいじめられ、見下されても、いつも腹の底に怒りを押し殺してきた。

しかし、もう我慢する必要はない。

静奈は敦子の頬を思い切り平手で打った。

その声は侮蔑に満ちていた。

「出過ぎた真似を!ただの雇われの分際で、誰に向かってそんな口を利いている!」

「なっ!」

敦子は顔を覆い、愕然とした表情で目を見開いた。まさか静奈が手を出すとは思ってもみなかったのだろう。

「私を叩いた……」

「叩かれて当然よ!何?まさか、やり返すつもり?」

静奈の冷え切った一言が、敦子を凍り付かせた。

いくら若様に疎まれていようと、彼女は長谷川家の大奥様が直々に選んだ人なのだ。

敦子は、込み上げる怒りを無理やり飲み込むしかなかった。

静奈は背を向け、二階へと上がっていく。

背後から、敦子の小声での悪態が聞こえてきた。

「顔が綺麗なだけで、何の役にも立たないくせに。どうせ若様からは見向きもされないんだわ。この家の若奥様の席なんて、すぐに他の人のものになるんだから!」

棘のある言葉が、ナイフのように静奈の胸に突き刺さる。

彼女は深呼吸をした。

もう、どうでもいい。

今日を限り、彰人に関するすべては、もうどうでもよくなるのだ。

自室に戻った静奈は、私物をすべてスーツケースに詰めた。

彼女の物は驚くほど少なく、スーツケース一つで十分だった。

スーツケースを持ち上げた瞬間、傷口が引きつれた。

腹部に激しい痛みが走り、冷や汗が雨のように流れ落ちる。

静奈は痛み止めを数錠飲んで、ようやく少し落ち着いた。

薬が効いてきたのか、彼女はベッドに横たわると、いつの間にか眠りに落ちていた。

深夜。

部屋に、大きな人影が入ってきた。

バスルームからシャワーの音が聞こえ、二十分ほどして、彰人が腰にバスタオルを巻いた姿で出てきた。

彼は彫刻のように整った顔立ちで、広い肩幅に引き締まった腰、そして力強く割れた腹筋のが男性的魅力を放っていた。

水滴が筋肉を伝い、緩く巻かれたタオルの内側へと消えていく。

彼は何も言わなかった。

まるで月に一回の事務的なことをこなすかのように、静奈のネグリジェの裾をめくり上げた。

眠っていた静奈は、痛みに体を震わせた。

「痛い……」

彼女は無意識に彼を押しのけた。

「やめて」

「拒むふりか?静奈、それが新しい手口か?」

低く、嘲るような声が頭上から降ってきた。

彰人は彼女から離れるどころか、報復するように続けた。

「月に一度の夫婦の営みは、お前がおばあさんに頼み込んで実現したことだろう?今更やめたいと?」

傷口が引き裂かれるような痛みに、静奈の目から涙がこぼれ落ちた。

彰人が自分を憎んでいることは分かっている。

数年前。

彰人の祖母である大奥様が、二人の結婚を強引に進めた。

結婚後、彰人が彼女に冷淡な態度を取り続けるのを見かねた大奥様が、月に一度は夫婦として同衾するよう、彼に命じたのだ。

その度に、彼はまるで道具でも扱うかのように、彼女で欲望を処理するだけだった。

四年間にも及ぶ結婚生活を思い返し、静奈の胸は痛みに満たされた。

細心の注意を払い、自分を殺して尽くしてきたというのに、彼の心からの愛情はひとかけらも手に入らなかった。

それならば、これ以上執着する必要がどこにあるだろう?

「彰人、離婚よ……」

静奈が言い終わる前に、けたたましく携帯の着信音が鳴り響いた。

彰人は、夜中に電話がかかってくることを非常に嫌う。

しかし、その電話には驚くほど優しく応じた。

「どうした?」

「彰人さん、一人だと怖いの。会いに来てくれない?」

受話器から、甘えたような女の声が聞こえる。

「わかった」

彼は一瞬のためらいもなく承諾した。

その声には、静奈が一度も聞いたことのない優しさが滲んでいた。

「すぐに行くから、二十分だけ待ってて」

電話が切れる。

彰人は、ためらうことなく彼女の上から体をどけた。

そして、一度も振り返ることなく部屋を出て行った。

数分後、階下から車が走り去る音が聞こえた。

涙が枕を濡らす。

静奈は、白くなった指でシーツを固く握りしめた。

愛すると、愛さないとでは、これほどまでに違うのだ。

翌朝。

静奈は離婚協議書をテーブルの上に残し、スーツケースを引いて家を出た。

その瞬間、腹部に骨の髄まで染み込むような痛みが走り、体の下から暖かい何かが流れ出る感覚があった。

太ももを伝って、足元へと落ちていく。

ふと下を見る。

そこには、衝撃的なほどの血だまりが広がっていた。

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その1 第一話 その名は紅中
1. 麻雀のプロにはいくつかの種類がある。 リーグ戦などで切磋琢磨する『競技麻雀』のプロ。大きな賭場で稼ぐ『バクチ打ち』。よくある麻雀店で働く『スタッフ』。健康麻雀の『講師』など。 他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。 ――そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。──── (好形イーシャンテンですね……)二四六七④⑤3456778 三ツモ(ドラは4索……この手からは後に危険になりそうな3索を今のうちに捨ててテンパイ時に安全性が高そうな8索を捨てるのが手順です。でも、だからこそ私の仕事的には……)打8「よーし、リーチだ!」「(来ましたね。待ってましたよ)ここは私も降りられませんね」打6「ロン! 一発だから満貫!」「チュンさーん。どんな手から勝負しちゃったのー?」「いい手でしたよー。テンパイですし」チュン手牌二三四赤伍六七④⑤34577「ああ、三色変化を待ちつつのタンピン系ダマ満貫か。これは6索放銃も仕方ないねー。ていうかもうリーチしちゃっても良かったんじゃないの?」 「チュンさんっていい手作りしてるけどチョイチョイ大物手に放銃しちゃってるよね」「アハハ、あまり守備が上手くないんで」「不思議だなー。いつもけっこういいポジションにいるのにね」(私は気持ちよく麻雀をしてもらえれば、それが仕事ですからね。上手に点数を分配するためには最初はある程度集める必要がありますし)──────「ああ、今日の麻雀も楽しかった! チュンさん、また明日ね!」「ええ、また明日。リベンジさせて下さい(ふう、今日もなんとか任務完了ですね)」 これは、『接待麻雀』という打ち方を生業に選んだ特殊な麻雀打ちの物語――麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜「では、行ってまいります」「任せたよ。気を付けてね、チュン」「はい。お任せ下さい」  そう言うと大きな荷物を背負い事務所の扉を開けて彼女はお勤めに出た。 ここは特殊な専門知識を持つ家政婦のみが採用される特別な家政婦の集まる場所。『特化家政婦専門事務所 アズマ』 家政婦派遣いたします。料金は応相談。サービスに対して高いということは決してございません。顧客満足度97% 初回はお試し価格。東京都と東京隣接地域ならほぼ全箇所出向きます。 表向きはここまでの情報しかない。い
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