Chapter: その7 第九話 炎天下で飲むコーラ66.第九話 炎天下で飲むコーラ 新居を決めた俺は早速契約を結び引っ越し作業をすることにした。 作業自体は急ぐことないから業者は雇わずに自分でじわじわと物を運ぶことに。今住んでいる家を出ていくわけじゃないからな。焦る必要ない。 今日、俺は休みだ。木曜日だからあやの食堂のやってない日なのだが、あやのさんの荷物を運ぶのを手伝うということで食堂に来ていた。 季節はもう秋なのだが残暑がしつこく、現在の気温は32℃だった。風がないからもっと暑く感じる。(わざわざこんな暑い日にやらんでも。っていうわけにもいかないかー。あやのさんも俺も同時に休める日ってのは限られてるもんな) しばらくすると危ない走りをした軽トラがやってきて食堂の前にキキッ! と止まった。「あやのー! おまたせ! 借りてきたよー!」「ありがとうございますー!」 そこには軽トラの運転席から顔を出して声を上げるジュンコさんがいた。そっか、あやのさんはキッチンをなんとかしたいから運ぶものが多いんだな。そんで免許持ってるジュンコさんにレンタカー屋さんから軽トラを借りてきてもらった、と。(それはいいとして、一緒に連れてきた助手席の美人さんは誰だろう)「あやのさん、お久しぶりです。今日はお手伝いにきました」「ありがと〜。助かるわぁ」「……あの、こちらの方は?」「あー、言ってなかったっけ? 今日手伝ってもらう私の仲間よ」 その人は肩より少し下まである黒髪をなびかせてこちらへ歩いてきた。 年齢はあやのさんと同じくらいかそれより少し若いくらい……いや、女性の年齢を考える
Last Updated: 2025-09-22
Chapter: その7 第八話 俺たちの新居65.第八話 俺たちの新居 宝くじを当てた日以来、中間地点の物件探しを暇があれば毎日のようにしてた。 それは俺だけじゃなくて、あやのさんもマキも各々チェックをしていた。一応、俺たちの新居っていう感じで借りるつもりだから、全員がある程度納得できる部屋がいい。ちなみに、なんでか美咲も一生懸命に検索してた。これ、おまえんちじゃないからな。 俺はできれば庭付きがいいなと思ってて。庭なしなら広めのベランダが欲しいと考えてる。なんとなく、植物育てたいなと思って。自分で育てたミニトマトとか食べたいじゃん。小さくてもいいから家庭菜園をやってみたいんだよ。 あやのさんのこだわりはキッチンの広さだった。とくに流しの大きさは気になるようで一生懸命画像を見てた。 マキはコンビニが近いかどうかを気にしてた。たしかに、近くにコンビニがあれば有り難いかもしれない。 とくに夜も働くマキにとっては一般人の生活リズムは当てはまらない。24時間開いてる店があることは重要なことなのだろう。 それぞれの理想を取り入れて探すとなるとなかなかハードルが高い。 ──数日後 今日はあやの食堂に3人集合して物件の話し合い。 もう俺は折れようかな。家庭菜園は豆苗でもやって満足すればいいか。そう諦めかけてた時だった。「あった! あったわよ! コレ、完全にみんなの理想を叶えてくれるやつ!」「本当? あやの」「本当本当! これならOKなはず!」 それは予想していた以上の好条件な上にアパートやマンションではなく一戸建てだった。外壁は赤茶色でそれもまたオシャレに思えた。「ここにしよう!」 後日、俺たち3人はこの物件を直接見に行
Last Updated: 2025-09-21
Chapter: その7 第七話 キャンベラ的な64.第七話 キャンベラ的な「はぁい、600300円。じゃあ気を付けて持ち帰ってね。お兄さんおめでとうございます」「ありがとうございます」 俺は当たった60万円をカバンにしまい、とりあえず銀行ATMへ向かうことにした。──── 60万円持ち歩くなんてのはソワソワしちゃうので脇目も振らずATMへと直進。真っ先に自分の銀行に入金完了。とりあえずこれで一安心だ。「いやーしっかし驚いたー。ていうか60万円その場で手渡しで貰えるんだねぇ」「100万円からは銀行手続きが必要だったはず。……しかし、本当に当たるんだな。すげぇな美咲、おい」「当たったお金、どうするの?」「うん、それなんだけど。部屋を借りようかと思ってる」「あ、つまり! 雰囲気だけでも新婚みたいな感じにするってこと? え、お兄ちゃんおうちから出てっちゃうっていうこと?」「ま、まあな……」「嫌だよう〜。それは嫌だ〜」 なんだこいつ、かわいいな。そんなに俺と離れたくないのか。「ただでさえ少ない家族なんだから人手が減るのは困るよお」 違った。そりゃそうか。「んー、でもなあ。麻雀食堂までここからだとけっこう遠いからなー」「あ、分かった。それならさ、あやのさん達の所とウチのそのちょうど中間地点に当たるとこにお兄ちゃんの部屋を借りればいいんじゃない?」「中間地点だとそれまたド田舎になるけどな。まあいっか。キャンベラ※的な。うん、そうしよう」※オーストラリアの首都『キャン
Last Updated: 2025-09-20
Chapter: その7 第六話 美咲の強運63.第六話 美咲の強運 俺はその日家の近くのスーパーにある宝くじ売り場にいた。 何か大当たりしたら買いたいものがあるとか、そういう目的があったわけではないが1枚300円のスクラッチくじを3枚買ってみた。別になんとなくだ。そういう時ってあるだろ? まあ、購入の理由は全く無いわけじゃないが。というのも今回のスクラッチくじが『麻雀スクラッチ』というくじだったから。どんだけ麻雀好きなんだよ。 宝くじを買うのは3枚くらいがいいんだ。4枚買おうとすると1000円超えてしまうから。それはちょっと使いすぎな気がする。遊びなんだから、こんなのは。(この10円玉で削るのが楽しいんだよな。童心に帰れるというか。昔の雑誌の付録で遊んでるみたいで) 俺は削る前に裏面に書いてあることを読んだ。どうせならどれが大当たりかとか理解してから楽しみたい。(ええと、なになに赤伍萬が3つ暗刻ると大当たり120万円。赤⑤筒3つだと2等30万円。赤5索3つだと3等10万円。4等から7等は東南西北の順ね。これ企画したやつ相当麻雀好きだな。三元牌とかじゃなくて赤牌を1等にもってくるのは本物の雀士の感覚じゃん!) まず1つ目を削る。カリカリカリカリ西西(お、いきなりリーチ? 6等1000円) こういうのは金額の問題以前に『当たりそう』ということだけでワクワクする。 さあ、1000円は当たるのか? 最後の1マスを削る。カリカリカリカリ中「ちゅん! ブハッ!」
Last Updated: 2025-09-19
Chapter: その7 第伍話 新人教育62.第伍話 新人教育 髙橋彩乃はヤキモキしていた。原因はもちろん乾春人である。(ハルト君からメッセージこないなー。昨日は私から『おやすみ』のメッセージ入れたんだから今日は先にあっちからメッセージ送ってきたりしてくれないかなー。『おはよう』だけでもいいのにな)と思っていたが、ふと思い出した。そうだ、契約その3だ!その3 ハルトからのアプローチは嫉妬の原因になるので基本的にハルトは受け身で。と書いた。(そうか、ハルト君は受け身にならなきゃいけないからそれを忠実に守ってるんだ、きっとそうだ) それなら仕方ない。という事にすぐ気付けて良かった。朝っぱらからいつまでも連絡を待ってヤキモキするとこだった。 お昼休みあたりでまた私からメッセージでも送っておこう。『こんにちは』だけでもいいわけだし。(……そっかー。ハルト君が契約書の通りにしてるってことは、なんか「好きです!」とか「付き合って下さい!」みたいな青春イベントは無いまんま私たちの付き合いは既に始まったんだ……。なんか、え? もうこれ始まったの? て感じね。まあ、青春イベントを求めるような年齢ではないわけだけど。……でも、ハルト君はどうなのかしら。こんな始まり方の付き合いでいいのかなー)◆◇◆◇ 一方、ハルトは特に気にしておらず。契約書に書いてある三人のルールを守ることだけ注意していた。 気にするしないとかよりハルトは仕事で忙しかったのだ。 (はー、新人教育って初めてやるけどかなり大変だな。しかも女子っていうのがまたな。同性にやらせてくれよと思う所だが、まあ、うちの会社は女性社員が極端に少ないからな。1人だけ適任な人はいるにはいるけど、今は産休ときてる。
Last Updated: 2025-09-18
Chapter: その7 第四話 朝のコーンスープ61.第四話 朝のコーンスープ 朝起きるとマキから "おはよ~(アタシは今から寝るけど)" というメッセージが届いてた。メッセージが来ていたのは15分前。返信はどうしよう。絶妙に時間が経過している。今から寝るって言ってるのに返信したら迷惑になるか? いやでもたった15分だし。ウーム。悩む、が! もし自分なら(返信くるかなくるかな)とワクワクしてなかなか寝付けない可能性まである。ここは1つ、一刻も早く返信しよう。うん、それがいい。 考えた末に今すぐ返信という結論に至り(その結論に達するまでにさらに10分くらいかけた)。"おはよう! もう寝てたらゴメン"とメッセージを送った。すると送信するや否や既読がついて。"大丈夫、今から寝るとこ。ぐんなーい♡(朝)" という返事が帰ってきた。良かった、正解だった。俺はもう仕事に行く時間なのでこれに返信することはなく急いでバタバタと家を出た。返信するしないで悩んでるうちにムダに時間をかけてしまったのだ。布団の中で悩むんじゃなくて朝ごはんでも食べながら悩めばいいのにな。効率の悪い自分に呆れる。(強い雀士の武器は共通して素早い決断力だ。こんなことじゃダメだな、もっと精進せねば。せっかくネギ切ってあったのに。納豆ご飯くらい食べておきたかったな)なんてことを思いながら駅までの何もない住宅街を早歩きで進む。 本当にこのへんは何もない。自販機すらない。駅前まで行けばコンビニとスーパーがあるがスーパーはまだ開いてないし、コンビニは寄る時間があるか微妙だ。 朝の買い物はそこでしか出来ないので出勤時間の駅前コンビニはやたらと混んでる。行列に並んでいるような時間の余裕は今日は無い。 チラリと店内を覗き見て、右手にしてる腕時計と相談する。(うん、無理だな。諦めよう) 空腹のまま俺は改札を抜け、ホームに降りる。自販機で飲み物を買うくらいの時間はあったので冷たいコーンスープを買うことに。少しだけでも腹に何か入れたい。 実を言うと俺は両利きだから仕事に行く時は電子時計を右手首につけている。その方が改札を通る時に楽だから。左手首につけてると改札が全然スマートに通れないからな。 なぜ、通常左につけるものに電子定期券機能をつけたのか。そもそも改札も改札だ。いい加減、電子時計利用者用に左側にもセンサーをつけるべきでは? もうかなり前から
Last Updated: 2025-09-17
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十三話 私の中の佐藤ユウ230.第十三話 私の中の佐藤ユウ南2局 井川ミサトの最後の親番 ミサトには非常に期待値の高い手が入っていた。そんな6巡目。ミサト手牌 切り番三三三四七②③④④⑥⑦234 ドラ7 場にはピンズの上がポロポロ出ており⑤-⑧あたりはサクッと引いてこれそうだった。 七切りすれば全箇所で受け入れ豊富なイーシャンテンだ。しかし。ミサト打④『んんんんん??』『井川、これは不思議な選択をしました。何のために七を残したのでしょうか?』『ちょっと、わかりませんね。たしかにこの手に①を引いてしまうと勿体ないとは思いますが……』(解説者さんたちは困惑してるとこじゃないかな。この、ユウがやりそうな選択は。私の中の佐藤ユウがここは七萬を囮に残せと言っているの!)3巡後ミサトツモ⑧『張った! 勝負手』「リーチ」打七 スパッと美しく牌を横に曲げる。その所作一つとってもフリーに通い始めの頃のミサトとはまるで違う。林アヤノを見て習ったプロの所作。井川ミサトもカオリ同様に凄まじく成長していた。同巡カオリ手牌二三四伍六七八④⑤7788 7ツモ ドラ7『あっ! 財前カオリもテンパイしました!』『いやでもこれは、二切りになってしまいますよ!』『もしかして…… いや、間違いない。待ちの反対側となる上の牌を囮として引っ張ることで本命を上だと思わせ
Last Updated: 2025-09-22
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十二話 プロの対応229.第十二話 プロの対応 最終戦南入。勝負は後半戦に突入した。親は左田ジュンコ。 左田は親番だからリーチして攻めたいのと最後の親番をなんとかして維持するために鳴きたいのとで考えが決まらず揺れていた。(メンゼンで行くなら役牌はいらない。でも、仕掛けて行く方針も捨てがたい…… どうする) タンヤオもピンフもつかなくする三元牌の存在は扱いの難しい問題だった。「…すいません…」 ジュンコが第一打から長考する。そんなことは普段ならまずない。決勝戦のプレッシャーがジュンコに大きくのしかかっているのは誰の目にも明らかだった。(ジュンコさんのこんなに長考するとこ初めて見た)《親番のジュンコにとってはここが天下分け目ですからね》ジュンコ1巡目打発 この、ごく普通の切り出しに15秒ほどかけた。その事実が(この局はリーチで攻める。先制リーチの為に目一杯まで広く受けて鳴かれそうな牌はスタートから処分していく!)と宣言しており、危険信号だった。 それを見た白山シオリが(その対応はさすが!)としか言いようのない反応を見せた。「(四)チー」「ロン。1300」白山手牌二三②②②⑧⑧中中中(二三四チー) 一ロン 四萬の方を鳴いてタンヤオに見せかけての一萬をロン。しかも、鳴かなければ四暗刻イーシャンテンの手からの仕掛けである。(くっ! 確信してる鳴きだ。ここで私が決定打を作ろうとしてることを……。や
Last Updated: 2025-09-21
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十一話 ウルトラCの麻雀228.第十一話 ウルトラCの麻雀 シオリとジュンコはここで(絶対にこの最終戦だけはノーミスで打つ!)という心構えでいた。それは立派だったが、カオリとミサトの心構えはそれ以上だった。(最後の半荘だ。絶対に満点を…… いえ、それ以上のウルトラCの麻雀をしてみせる! 今日、いまここで自己最高記録の更新を! いま、自分の枠をブチ破ってやる!!) さながらオリンピック本番で自己新記録を出すつもりのアスリートのようである。 この考え方こそが佐藤スグル直伝のものだ。細かいところは教えてくれないスグルだが、強く生きるとは、勝つとは、それがどういうことか。そんなような話はよくしてくれた。 かつて麻雀部で佐藤スグルはこう教えてくれた――「いいか、そつなく打つな。小さくきれいにまとまろうとすんな。多少危険だろうと構わない。もとより安全と勝利は両立しないものだ。 上手くなくていい。ただ挑戦者であれ! いつだって満点以上を出すつもりで戦いに挑むんだ。そうした時にやっと初めて満点が出るんだよ。ミスしないぞという心構えじゃ80点の正解が限界だからな。120点取るつもりでいて初めて100点が目指せるってこと忘れないこと!」「「はい!」」「力強くあれ! おれたちはチャレンジャーだ! 昨日までは出来なかったことであっても諦めたらいけない! 今日は出来るかもしれないと思って挑むんだよ!」────── この心の持ちようがカオリたち麻雀部の強さなのだった。そして今その心構えの効果が結果に出た。「リーチ」 白山シオリの先制リーチだ。そこに対してカオリは安全牌を持っている。しかし……
Last Updated: 2025-09-20
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十話 最高打点になる手順227.第十話 最高打点になる手順 池袋―― 雀荘『ペガサス』にて「ナオさん、何見てるんすか?」 財前マナミの実の姉である石井奈央(いしいなお)はパソコンで師団名人戦を観戦していた。「師団名人戦決勝」「へえ、競技麻雀も興味あるんすね」「私の義理の妹がいま決勝戦に残ってるからね」「ええっ!?」「この子。財前香織」「めっちゃ美少女!」「そうなのよ。ちなみに血の繋がった妹もいるけどそっちも美少女プロ雀士よ」「でも、財前って? リングネームみたいなもんすか?」「いや、本当は私も財前なの。親が再婚したからね。でも、そのタイミングで私は自立して家を出てってたから面倒くさいし旧姓の石井をそのまま名乗ってるだけ。いま親の姓は財前なのよ」「えっ、そうなんだ」「私は財前にはならなくていいわ。それよりも、早く私を『泉』にしてよね、テンマくん!」「も、もーちょっとお金が溜まったらね……」「たくう、頼りないんだから!」◆◇◆◇ 水戸―― 雀荘『ひよこ』にて「店長、店長! 最終戦ですよ!」「おお! どうだ、カオリさんは勝てそうか?」「総合ラス目だけど優勝の目はあります。それに、なんだか楽しそう! あの子はきっとやってくれる。諦めてないどころか、ここから逆転するストーリーを考えて楽しんでる。そんな顔してますね」「なら、きっと勝つ
Last Updated: 2025-09-19
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第九話 絆読み226.第九話 絆読み ──最終戦 井川ミサトはジッと財前カオリを見つめて昔のことを思い出していた。(カオリ…… 私の大好きな友達。高校2年の頃は麻雀部で1番弱かった子が…… それが今はすっかり強くなってプロ意識も高い。しまいには麻雀界最強を決める大会の決勝戦に残って私の敵として立ちはだかるのだからわからないものね、カオリも私も)「リーチ!」 そんなことを考えていたらカオリから4巡目にリーチが入った。ミサトの手はとても勝負などできるものではなかったので徹底して降りたが…… 15巡目、ついに安全牌を失ってしまう。 選択肢は2つだけ。孤立した1索切りか孤立した三萬切り。他の牌は5枚使いスジや宣言牌跨ぎの3枚使い、ドラ周辺牌などでとてもじゃないが切り出せない。1が当たりのケース1.1単騎2.1シャンポン3.1-4リャンメン(あるいはノベタン)この3つのケースであり、それと比較して三は三が当たりのケース1.三単騎2.三シャンポン3.三-六リャンメン(あるいはノベタン)4.三ペンチャン5.三カンチャンこの5つのケースがある。つまり数字の理論上は1索の方が通るように思えるが…… それは間違いだ。(果たしてプロ意識を持っているあのカオリが4巡目リーチで愚形三萬待ちなどするだろうか? ましてこれは映像対局だ…… あの子なら……)
Last Updated: 2025-09-18
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第八話 麻雀界最強を目指して225.第八話 麻雀界最強を目指して『間もなく最終半荘となるわけですが、先ほどのゲームはいかがでしたか小林プロ』『いやーー! さすがでしたね、いいものを見ました。あのままやられる井川プロではないと思っていましたがあそこまで復活するとは』『昔から言いますからね「虎は傷ついてからが本物である」って』『ヒンズー教徒のことわざでしたっけ。となると、今回の半荘で傷ついたもう一頭の虎が今度は気になりますねー』『財前のことですか』『はい、彼女もまた虎の牙を持つ獣でしょう。私達と同じですよ』『……ですね。面白い試合を期待しましょう!』「ねえ、白山」「はい?」「あと、1時間もしたら決着ね」「はあ、だいたいそんなもんですね」「寂しくない?」「……?」「私は、この勝負が終わっちゃうと思うと寂しいわ。50も過ぎるとね…… こんないい試合に出会えたこと、それ自体がもう、感動で。なかなか無いわよ、今日みたいな面子でこんな大舞台で打てる機会は」「……そういうものですか」「あなたはこれから先もきっと決勝戦に何度も残る。優勝だって何度もすると思うわ。でも私は違う。現にそんなことにはならなかった人生を半世紀歩んできたから分かるわ。だから、今日この日がずっと前から楽しみだったし、あと1時間くらいで終わるなんて寂しいのよ」「でも、ジュンコさんは最近成果を上げてます。結果だけ冷静に見て考えると『強くなった』という事ではありませんか? 何か、以前とは違うことを始めて、それが効果を出したみたいな可能性はないんですか?」「無い無いそんなの! あるわけないって。たまたま偶然だよ」「そうですか…… それにしては今日の麻雀、
Last Updated: 2025-09-17