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彼方の小説

【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜

【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜

 この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。  麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。  そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。  大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。  ――そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。 彼方
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Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】エピローグ 少女の心のままで
235.財前姉妹 エピローグ 少女の心のままで その後はというと。 カオリとマナミは女流Aのタイトル戦へ挑むもシオリにことごとくやられるので武者修行が必要だという結論になり大学卒業後は都内の雀荘へと就職する。そこは、シオリが言っていた最強メンバーの集う雀荘『富士2号店』。そこに2人の師である佐藤スグルが働いていたことには驚いた。世界は狭い。 ユウたちの麻雀教室は軌道に乗り水戸の麻雀業界は栄え始めた。ユウの教室があるおかげで麻雀人口が増えているのだ。その後何十年にも渡ってユウ、アン、ショウコは水戸から麻雀界のファン人口を増やすことに貢献する。 ヤチヨはセット雀荘で働きながら麻雀作家として活動し、ヒロコはネット雀士として活動した。ヒロコの活動は麻雀系映像創作者、いわゆる麻雀配信者のはしりとなる。 サトコとヤヨイとナツミはジュンコの会社で働くこととなりサトコはジュンコ引退後月刊マージャン部の編集長になり、ジュンコは後に麻雀のできる小料理屋を作りたいという女性に出会い、その手伝いをするようになる。 メグミとアカネは今では女流雀士のリーダーだ。アカネは後に理事となり、そのさらに十数年後、メグミは団体初の女性理事長となる。 そして、ミサトは――「じゃあ、私は行くから。いつでも電話してきてね!」「気をつけてね」 車を購入したミサトはプロリーグも休場して全国をユキと一緒に旅することにした。行く先行く先で麻雀を広めていこうと。時には雀荘の臨時スタッフとして活動。時には学生相手に麻雀教室。麻雀を広めながら2人は日本中を旅した。「ほんとにミサトはタフなんだから。延々と車で寝泊まり生活とか、理解できないわよ」とカオリはつぶやいた。
最終更新日: 2025-09-26
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 最終話 幸せな大人
234.一章 最終話 幸せな大人「「ありがとうございました!!」」 試合終了の挨拶をするとインタビューが始まった。『財前カオリ選手! 優勝おめでとうございます!』「ありがとうございます」『今回は初タイトルということでお気持ちはいかがですか!?』「はい、夢のようです。私のような未熟な打ち手が獲れるようなものではないと思っていたので。もちろん、私なりに全力を尽くしましたが、それでも今回は運が良かったなと思います」『ライバルの井川プロとは――──────「ああもう、すごく時間かかっちゃった! 今日はあと数時間しかないのにー!」「カオリ。何をそんなに慌ててるの?」「今日中にやりたいことがあるの! ミサト! 悪いけど私は先帰るから! 今日はいい試合だったね。ありがとう!」「うん。カオリ、すごく強くなったね。……負けたのはやっぱり悔しいけど、成長したあなたと最高の舞台で戦えたことは、嬉しくも…思う。……今日は、おめでとう!」「ありがとう!!」 カオリは急いで駅へ向かい帰りの電車に乗り込んだ。《本当に何をそんなに慌ててるんですか?》(…あなたねー。明日には私が二十歳になっちゃうからもう会えないんでしょ? 今日のうちにたくさんお話ししておきたいのよ! あ な た と !)《ああ、なんだそのことでしたか!》(なんだじゃないわよ! 大事なことよ!)《別に消えると言っても…… ラーシャさんもマナミに憑くのをやめただけで今も居ますしね》(居るってどこに)《部屋に居ますよロフトに。毎晩私と一緒に念で作り上げた牌並べてはあー
最終更新日: 2025-09-25
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十六話 最後の罠
233.第十六話 最後の罠カオリ手牌一二三四六七八九23334 伍ツモ『ツモりました! 財前! すばらしい!!』『トップ逆転しましたねー! さあ、裏ドラは?』(((せめて裏は乗らないで!!))) カオリの豪快なツモアガリを見て3人がそれを同時に念じた。そう、師団名人戦にアガリやめはない。4000オールならここでミサトを2800点差まくったわけだがそれで「はい優勝おめでとう」と終わるものではない。だからせめて4000オール止まりにして欲しいのだ。6000オールになるのはキツイ。裏ドラ西「4000オール」 3人の祈りは届いてなんとか4000オール止まりだった。(よし、2800点差。そのための前局のダマテンよ)とミサトは思った。この点差ならテンパイノーテンでも再逆転できる。オーラス一本場 ドラ9 左田ジュンコは最後の可能性に賭けて国士無双をやることにした。そこには罠も迷彩も何もない。バレて元々の特攻だった。しかし……。ジュンコ手牌一九①6東東西西北白発中中 ⑨ツモジュンコ打6「ポン」『鳴いた! 白山シオリが叩きました!』『白山の手。倍満級のトップ逆転手まで育つ可能性はありますからね』カオリ手牌二二三四四伍伍⑤⑤⑥⑦⑧南 伍ツモ『さあ財前はテンパイです!』打南「ポン」『あーーーっと! 財前の捨てた南を白山が鳴いた! これ2枚目ですね』『はい、ですので左田の国士は不可能となりました!』(くっそーーーいいとこまで行ったのにお終いかー。あと南と1と9だけだったのにな! まあ、9(ドラ)は白山が固めてそうだけどね……) そう、白山シオリは倍満ツモ条件であるのに6索をポンしたと言うことは役ホンイツトイトイドラ3が本命であり9索はもちろん1索を引く可能性も低そうな感じではあったのだ。白山手牌1133999(南南南)(666) アガリは出ぬまま局は進み15巡目―― 井川ミサトは絶体絶命だった。ミサト手牌一三四六③⑤⑦⑨22289 (クソッ! 全然揃わない。ああ、私はなんでカオリと決勝まで当たりたくないなんて思ってしまったんだろう。おかげで願いが叶ってしまった。最悪な形で。そうよ、カオリの成長速度は凄まじいと分かっていたのに。それなら少しでも早くカオリと当たりたいと思わなければダメだったんだ。成長する前に叩かないと
最終更新日: 2025-09-24
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十伍話 それでもあなたを……
232.第十伍話 それでもあなたを……オーラス ドラ伍 親のカオリは目一杯まで広く取っていく。まるでマナミのように攻めた手順を採用した。そしてそれはミサトも同じであったしシオリやジュンコもまだ当然諦めていなかった。『さあ、オーラスですがいかがですか小林プロ』『いやー! 見応えある戦いですね。オーラスは点差からして井川有利というのは間違いないんですが、財前カオリは侮れません。なんとなくですけど、やはり彼女がここで一撃決めてくる気が……してしまいませんか?』『確かにそうですね。それに白山も左田も諦める人たちじゃありません。最後まで良い勝負をしてくれるんじゃないでしょうか!』 オーラスはカオリの手が早かった。4巡目カオリ手牌 親番一二三三四六七八九2333 4ツモ『財前! テンパイだ。あっという間に張ったー!』「リーチ」打三『なっ!』『イッツー確定に取りました! 力強い!』《この待ち取りは伍萬がドラなだけに価値がある。リャンメンをカンチャンにして不思議ない手です。あくまで自然ですからね! さあ、ここで伍(わたし)を引いて勝ちましょう!》(…………)カオリツモ七打七《どうして!? なぜ引かないんですか?! もう山にないとか?》(ううん、そうじゃないけど。やっぱり私、能力は使わないでいたいの)
最終更新日: 2025-09-24
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十四話 みんなで来た最高峰の舞台
231.第十四話 みんなで来た最高峰の舞台南3局 白山シオリの親番 この局のシオリの捨て牌は特殊だった。おそらくはチートイツ狙い。もしやのチャンタや四暗刻も可能性はあるが、まあ確率的に考えて本線はチートイツと読んで良いだろう。 麻雀とは不思議なもので、チートイツとチャンタと四暗刻はそれぞれ全く違う手役であるのに捨て牌は似たような傾向になる。 そんな局の7巡目。カオリの手が整ってくる。カオリ手牌伍六④⑤⑥⑧⑧2345北北 6ツモ ドラ6『おっと、財前カオリ! いい所を引いてきた!』『北を外せばメンタンピン三色ドラ1のハネマンへ進みますね』しかし……(私たちはみんなの知恵を借りてここまで来た! そうだよね、杏奈)カオリ打⑧『おっとこれは?』『なんでしょう…… ⑧筒を先に外して好牌先打(こうはいせんだ)でしょうか?』 いや、そうではない。◆◇◆◇同時刻水戸―― アンは喫茶店仕事の休憩時間に名人戦のLIVEを観ていた。「あっ!! ⑧筒切り! ……これは、私の麻雀だ。ここから⑧筒外しは私の『いい待ちヘッド作戦』だ。親がチートイツやってるから」(……さっきはさっきでミサトさんがユウさんみたいなミスリードする麻雀を披露するし。カオリさんもミサトさんも私
最終更新日: 2025-09-23
Chapter: 第1部 一章【財前姉妹】その16 第十三話 私の中の佐藤ユウ
230.第十三話 私の中の佐藤ユウ南2局 井川ミサトの最後の親番 ミサトには非常に期待値の高い手が入っていた。そんな6巡目。ミサト手牌 切り番三三三四七②③④④⑥⑦234 ドラ7 場にはピンズの上がポロポロ出ており⑤-⑧あたりはサクッと引いてこれそうだった。 七切りすれば全箇所で受け入れ豊富なイーシャンテンだ。しかし。ミサト打④『んんんんん??』『井川、これは不思議な選択をしました。何のために七を残したのでしょうか?』『ちょっと、わかりませんね。たしかにこの手に①を引いてしまうと勿体ないとは思いますが……』(解説者さんたちは困惑してるとこじゃないかな。この、ユウがやりそうな選択は。私の中の佐藤ユウがここは七萬を囮に残せと言っているの!)3巡後ミサトツモ⑧『張った! 勝負手』「リーチ」打七 スパッと美しく牌を横に曲げる。その所作一つとってもフリーに通い始めの頃のミサトとはまるで違う。林アヤノを見て習ったプロの所作。井川ミサトもカオリ同様に凄まじく成長していた。同巡カオリ手牌二三四伍六七八④⑤7788 7ツモ ドラ7『あっ! 財前カオリもテンパイしました!』『いやでもこれは、二切りになってしまいますよ!』『もしかして…… いや、間違いない。待ちの反対側となる上の牌を囮として引っ張ることで本命を上だと思わせ
最終更新日: 2025-09-22
【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜 通

【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜 通

 彼方流麻雀小説の世界へようこそ――  この物語は【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜の第2巻として出させてもらうのですが、なんだ2巻かと思って戻らないで大丈夫です。例えるなら、ドラ◯ンクエスト2を思い浮かべてください。あれ、2から始めて全然大丈夫でしょう。これもそんな感じ。2巻からで大丈夫なんです。世界観が繋がっているけど1から順番に読む必要はない。二章からで全然楽しめる作りです。なので、これを最初に開いたならここから読んでくれたらいいんです。そのために2巻ってわかりづらいようにあえて『通』なんて書いたんです。  主人公が少女じゃないとかも気にしないで。  最後には、読んで良かった――と必ず思うはずですから。  
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Chapter: 第1部 三章【護りのミサト!】その1 第三話 これが井川ミサトの麻雀です
36.第三話 これが井川ミサトの麻雀です 対局開始してものの数分で井川ミサトはその高い技術を見せつけてきた。東3局4巡目ミサト手牌四伍④④④12345北北北 6ツモ「リーチ」打北(あれっ? てっきり④筒切りだと思ったけど)鉾田がユキと一緒になって後方から眺めている。(ポコタさんの言いたいことは分かります。④筒も北もまだ1枚残っているからアンカンして※テンパネのことを考えたら北残しの方が高くなるってことでしょ)(そうそう、僕なら絶対に符が高い方にとるけど。あとホコタね) すると2巡後に下家からもリーチが飛んでくる。「リーチ」下家手牌三三六七八⑤⑥4566782巡後ミサトツモ番ツモ④「カン」 そう、ミサトは後々引いてきた時危険な④筒をアンカンで出ないようにするために北を捨てていたのである。(見ましたか? これが井川ミサトの麻雀です) ユキが自分の事のように自慢する。(まいったな、僕ならここで放銃だ。さすが『護りのミサト』と言われるだけはある) しかし、その後……ミサトのツモ番ツモ⑦「ロン」
最終更新日: 2025-11-06
Chapter: 第1部 三章【護りのミサト!】その1 第二話 麻雀のメッカ
35.第二話 麻雀のメッカ「最初の行き先は新宿歌舞伎町よ」「ええ!? 最後に行き着く先みたいなイメージあるけど!」「だからこそよ。私たちの麻雀は最高峰クラスのものでありその技術は歌舞伎町ですら通用する。それでも私たちはノーレートや低レート、競技麻雀をする。なぜならレートに関係なく麻雀を愛しているから。そう主張するには最初に歌舞伎町制覇するのがいい」「なるほど、ハイグレードなステージから逃げて初心者講座やってるというのでは説得力がないということね。たしかにそうだ」「……ふふふ、できるかな? 言うのは簡単だけど、実際問題新宿歌舞伎町は麻雀のメッカ。レベルが高いに決まってる」 最初の行き先は歌舞伎町という事で決定となった。「ねえ、ミサト。せっかく車も買ったけど新宿は電車で行かない? 駐車場代も高いだろうし……」「そうね、じゃあ最初の旅は都内をぐるぐる山手線の旅にしましょうか」「えー面白そう」「とりあえず、1週間! 1週間の雀荘巡りで収支をプラスして帰ってくる。これが最初の目標にしましょう。できる? ユキ」「私だって強くなったんだから。やってみせるわ。ミサトにだって負けないんだから!」「おーおー、大きく出たな。頼もしい限り! よーし、じゃあ明日の朝10時に駅に待ち合わせでいいよね。そしたら今日はよく寝ること! 明日から修行の旅だかんね!」「オッケー」 まずは新宿歌舞伎町!────── 2人は
最終更新日: 2025-11-05
Chapter: 第1部 三章【護りのミサト!】その1 第一話 打倒! 財前姉妹!
34. 井川美沙都を(いがわみさと)は守備力で右に出る者はいないとまで言われた一流の女流雀士だ。 その実力は誰もが認める所だが、しかし大きな勝負で優勝するのはいつも白山詩織(はくざんしおり)か財前姉妹(ざいぜんしまい)だった。そのことがミサトは悔しくてたまらない。 自分の麻雀に限界を感じ。今のままを繰り返した所でナンバーワンにはなれない。そう悟ったミサトは自分の殻を破るための冒険の旅に出ることを決意した。 これは【財前姉妹】の後の世界をミサトを主役として書いた冒険の物語!三章 護りのミサト!~女流雀士冒険譚~その1第一話 打倒! 財前姉妹!『優勝は井川美沙都プロ!』ワアアア! ワアアア! ワアアア!パチパチパチパチパチパチパチパチ!! 大歓声と拍手の雨だ、とても誇らしい。私は優勝したんだ。(ん? 優勝した? そうだっけか? 何で優勝したんだっけ。思い出せない……)──────「ハッ!」「あっ、ミサトおはよう」「……あーー……ユキ、おはよう……夢、か……」──── 私は井川ミサト。デビューして即で新人王戦優勝。その後も数々の大会で決勝
最終更新日: 2025-11-04
Chapter: 第1部 二章【闇メン】エピローグ そして伝説へ
33.闇メン エピローグ そして伝説へ 結局『ラッキーボーイ』は閉店し、移転することは無かった。椎名は次第に仕事が減ってきたので渡邉さんに頼んで長期休暇を貰い旅打ちでもしようと思い立った。 たまにはこういうのもいい。ヤシロが鼻歌でよく歌っていた『戦場の足跡』という曲を聴きながら、気ままな旅をする。カバンには日吉オーナーから貰ったキーホルダーをつけて。 しかし、その行き先でキーホルダーを落としてしまう。すぐに気付いて引き返すと中学生くらいの少女がそれを拾ってとても興味ありげに眺めていた。「綺麗……」(これ、麻雀牌ってやつかな。真っ赤で宝石が付いてて。素敵だな)「あ、あった! ゴメンそれ僕の!」そう言う椎名の外見は細くて清潔感がありシャキッとした服装の真面目な好青年という印象を受けたので麻雀牌を落としたのが彼だというのが少女にはちょっと意外だった。(なんか、ギャンブラーとか、チンピラとかとは真逆みたいな印象の人だな。麻雀ってこういう人もやるんだ……)「キーホルダーだったんだけどとれちゃったか。気に入ってたんだけどな」 牌の上部にはネジ穴のようなものがあいていた。「お嬢さん、さっきそれじっと見てたけど、気に入ったのかな? 壊れちゃったので良ければあげるけど」「えっ、いいんですか!?」「うん。それがきっかけで麻雀に興味を持つ子が増えたりしたら僕も嬉しいし。一応とれたチェーンもあげとくね。大事にしてあげて」「ありがとうございます」「うん、いいよ。やっぱり宝石は男が持つより女の子にこそ似合うしね。きみに貰って欲しいってきっと牌も言ってるさ」 こうして、その少女は麻雀に興味を持ち、その後の麻雀界を変える程の歴史的な発見、新戦術を生み出す伝説の人物となる――◆◇◆◇牌神話テーマソング【戦場の足跡】作詞:彼方味方のいないはずの世界に味方のような顔をする奴がいる支えのないはずの場所に支えてくれそうな人がいるそんなはずはないそれは罠だ期待するな、信じるな安心するな、警戒を解くなヤツらの口をよく見てみろお前を喰らうための牙があるだろ私たちは戦士なんだ自分だけが頼りなんだ気を抜いたヤツから喰われる世界味方であるはずの男が味方ではなかったように支えてくれた人たちが全部おためごかしだったように それが世界だそこが戦場だ
最終更新日: 2025-11-03
Chapter: 第1部 二章【闇メン】最終話 おれは闇メン
32.二章 最終話 おれは闇メン 近頃『ラッキーボーイ』に闇メンが呼ばれる回数が減った。(常連の誰かに嫌われちゃったかな? だとしたら工藤さんかな?) 椎名はそんなことを想像した。 今は卓割れ中でお客さんはいないし従業員には買い物に行って貰ってるから現状オーナーの日吉さんと2人きりだった。なので椎名はこの隙にレジに置いてあるシフト表を見てみた。すると最近呼ばれる回数が減ったのがなんでなのか納得した。知らぬ間に新人が入っていたのだ。それも女の子。聞くと麻雀も打てるらしい。それじゃあ高い給料払って闇メンを呼ぶよりずっといい。 「椎名くんゴメンねえ。今は人が足りてるしそれに……」「それに?」「うん、それにこの建物は老朽化が進んでて、もうあと2ヶ月後には取り壊しなんだ」「えっ! ていうか、取り壊しなのに新人雇ったの?」「まだ、移転するかもしれないし、すごい可愛い子なんだよ。そんな子が突然履歴書持ってきたら雇わないオーナーとかは居ないだろう」 椎名は履歴書の写真を見せてもらった。 アイドルみたいに可愛い子だった。これは雇って当たり前だ。下心とかそういうのがなくても普通に採用してしまうだろう。(これは看板娘になるぞ)と思ったはずだ。「こりゃあ可愛いや。花岡縁(ハナオカユカリ)? なんだか名前までアイドルみたいじゃないか」「身長も高くて目立つんだよ。性格もまっすぐで真面目ないい子でさ」「なら、どうにか閉店じゃなくて移転にしたい所ですね」「だといいけど、まだ移転する先が見つからなくてね。まあ、そう都合良くは行かないかもね。なるようにしかならんさ…… そうそう、今日来たらしばらく渡邉さんとこへの依頼をする予定はないから…&
最終更新日: 2025-11-03
Chapter: 第1部 二章【闇メン】その5 第六話 工藤、自分を知る
31.第六話 工藤、自分を知る「どっ、どういうことだ……」「何がかしら?」「いやだって今の手、明らかに字牌を絞ったノーテン……」「あら、そうだったかしら。覚えてないわ」 やられた―― つまり、このお嬢さんはオレの満ツモ条件を把握して、ラス目から出たら見逃しするだろうと読み、おれの一瞬の身体の反応から(いま見逃したな)と看破して、ノーテンからロンしたんだ。そうすれば、じゃあ倒すしかないと考えてオレがロンして二着終了させると踏んで。これはダメだ。どうやっても勝てない。ギャンブラーとしてのその器があまりにも違う――「悪い、オレ抜けていいですか。ちょっともう無理だわ」「大丈夫ですよ。次からはラスハンコールのご協力をお願いしますね」「あらあ。残念。もうやめるの?」「ああ、もうこれからは麻雀は遊びでやる。今日限りで(職人として打つのは)やめだ」「うん? じゃあ遊びじゃなきゃ今日のはなんだったのかしら?」(稼ぐつもりで打ちに来てたなんて恥ずかしくて言えるわけねえや……)「まあ、またくるよ。おつかれ」「またねー♡」──── こうして、麻雀職人だった工藤ツヨシは引退した。自分では超えられない存在をほんの短期間の間にあまりにも多く見てしまったから。  工藤は帰り道を歩きながら色々な事を思い出していた。 仲間内で最強だった頃の事。 プロ入りして先輩達をも負かした話題の新人だった頃の事。 代表や理事長と揉めて、こんな団体の看板なんか無くてもオレはプロフェッショナルとして生きて行ける
最終更新日: 2025-11-02
【麻雀女流名人伝】遅番女子のミズサキ

【麻雀女流名人伝】遅番女子のミズサキ

 単線電車しか通らない田舎の駅の商店街。その少し離れた場所に小さな個人雀荘がありました。店の名前は『麻雀こじま』。  そこで働く主人公『ミズサキ』とクラスメイトで雀荘の店主の娘である『涼子』。  これは、正反対の二人が繰り広げる勇気と成長の物語――
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Chapter: その6 第三話 ミズサキによる福思書
48.第三話 ミズサキによる福思書「すごいですね。マタイさん」「何が?」「いや、麻雀うますぎますよ。マタイさんみたいな上手な人がいるなら私たち来る必要なかったのでは?」「……どの場面を見てそう思ったのか分からないけど、買いかぶりすぎだよ。それにおれは説明が苦手だし、恥ずかしながら、文字も……その、書けないんだ」「あ……そーいうことでしたか……」 文字が書けないは想定外だった。聞くとマタイさん世代のクリポン族は基本的にものを書く文化があまりなく、そのような学習を受けずに育つのが一般的だったのだとか(現在は違う)。 それはそれでいいとは思うが、他人に麻雀を教える上で筆記はなくてはならないものと言ってもいいのでカー子たちがマタイさんを頼れなかった理由が理解できた。「とは言え、やっぱり強い人がいて良かったね。ねっ、りょうちゃん」「そうね~。なにより強い人と麻雀する時が結局一番麻雀が面白いからね」「エッ!」「何よ?」「いや、りょうちゃんから『麻雀が面白い』なんて聞ける日が来るとは思わなかったなって」「そんなこと言ってないでしょ」「いや、言ったよ。間違いなく言ったって。賭けなきゃ面白くないみたいなこといつも言ってたくせに。強い人と打つのが結局一番楽しいんじゃん♪」「聞き間違いでしょ」「照れないでいいってー♡」「ハハハ! 二人は仲が良いんだな」「これからよろしくな、お二人さん」 とまあ、そんなこんなで私たちは賑やかに遅番初日を開始した。 うるさいとか言われるかと思ったけど私たちの可愛さゆえかお客さんみんな歓迎してくれて一緒に笑いながら初日を楽しんだ。でも、笑ってばかりもいられない。私は依頼されて来
最終更新日: 2025-11-06
Chapter: その6 第二話 ノータイムのマタイ
47.第二話 ノータイムのマタイマタイ手牌 東1局8巡目 親番 ドラ②二二赤伍六六七七(西西西)(北北北) ここにツモ四萬と引いた時、あなたならどんな反応をするだろうか。ツモ切りか? それでもいいだろう。むしろそれはマジョリティな選択であると思われる。そもそもこの手はホンイツトイトイを目指して鳴き始めたのだ。四萬に用はない。 しかし、このマタイというクリポン族の男はノータイムで打七萬としたのである。(なるほど、3面待ちへの変化を見た1手というわけね。よく考えたらたしかにここは七切りが良いように思える)と後ろ見していた私も思ったし、それが正解ではあるのだが、特筆すべきはその七切りの理由である。というのも――「ツモ!」二二四赤伍六六七(西西西)(北北北) 伍ツモ「2600オール」 これである。つまり、伍萬でのツモアガリを想定した※点パネ期待。ここに着目してマタイは四萬を採用したのだ。 マタイ曰く、この卓のメンツは強い。オタ風のポンを2つ見せて親のホンイツ仕掛けにこれ以上鳴かせたり放銃したりするような相手ではない。この手はもう※ツモ専となったようなものだ。だとしたら伍ツモの時に打点が上がる選択をするのが正解だと思った。自力でトイトイをつけてさらにアガるなんてのは夢物語もいいとこだが、自力伍萬ツモならリアルにあり得る。と。そういうことらしい。 なるほど納得。相手をリスペクトしているからこその選択というわけだ。 また、数局後にこのような手牌になった時もすごかった。マタイ手牌 4巡目 ドラ北三六七八①②⑤⑤⑥12789 
最終更新日: 2025-11-05
Chapter: その6 第一話 遅番開始
46.ここまでのあらすじ 不思議なカラス『カー子』に連れられて異世界に訪れたミズサキと涼子。彼女たちは異世界でも麻雀屋で働くことになる。今夜からミズサキたちの異世界遅番が始まる――【登場人物紹介】水崎真琴みずさきまこと 雀荘『こじま』の遅番メンバー。麻雀が好きなのと働きたくないのがリンクして雀荘遅番という職業につくことを選んだ現代に生きる遊び人。しかしこの度異世界へ転移。異世界雀荘『麻雀スノウドロップ』の遅番メンバーとなる。小島涼子こじまりょうこ 雀荘『こじま』の店主の娘。ミズサキとは中学高校の同級生。天才のミズサキとは真逆でアタマの固い涼子はミズサキに憧れる。見た目は真面目そうだけど性格はミズサキよりふざけてる。ミズサキと共に異世界へ転移。エル(カー子)える 異世界『マージ』の神様。雀荘経営をするにあたりスタッフが足らず、相応しいスタッフを求めて地球にカラスの姿で来ていた。ミズサキはそれに最も相応しい人物なのだとか。ただ、少し時代を間違えたらしかった。キュキュきゅきゅ 異世界『マージ』の神様の補佐をする仙人。13歳くらいの少年の姿をしているが、魔力エネルギーが減ってくるとリスになってしまう。とても物知りでエルをいつも助けてくれる。ネルビイねるびい 異世界『マージ』に住むシン族の少年。巷では天才と噂される。
最終更新日: 2025-11-04
Chapter: その5 第九話 異世界の発明品
45.第九話 異世界の発明品 結論から言うと、その目覚まし時計は鳴らなかった。 壊れてたわけじゃなく、鳴らない目覚まし時計だったのだ。 さすがは異世界の目覚まし時計である、起こし方が地球の常識と違っていた。 なんと、目覚まし時計は設定された時間になると眩しく光るのだ。光を浴びることで目覚めさせるという画期的な目覚まし時計なのである。 いや、全部が全部そのタイプではなく、音で起こすタイプの目覚ましもあるそうだが、これが最近ブームの目覚まし時計なんだということを後で知った。 いいアイデアではあると思う。大きな音で毎朝ビクッ! として飛び起きるのはなんとなく心臓に悪い気がするし。 しかし、思い出して欲しい。私たち遅番は昼間寝て夜起きるリズムだ。そして、アイマスクを購入した。ということは……「チョットー! 2人とも遅刻ダヨ。いつまで寝てんのヨ! とっくに遅番の出勤時間過ぎてるんだケド!」  そう、起きれるわけないよね。 カー子が起こしに来るまで私たちはぐっすりと寝ていた。アイマスクしてたから。はい、初日から大遅刻です。だって目覚まし時計が鳴らないだなんて思わないじゃん。 そんなわけでバタバタと支度する私と涼子。でもお風呂は入らせてよね。女の子なんだからさ。 すると、先に入った涼子が風呂場から大きな声を上げた。「ちょっとー! シャンプーないんだけど詰め替えはー?」「だってさカー子。詰め替えはどこにあるの」「ありマスありマス。台所の下に予備があるんで、いまお持ちしますネ」 そう言ってカー子が取り出したのは魚雷のような形をした小さく固めた粉洗剤的なものだった。「ハイ! これです。これをシャンプーボトルに入れて水を適量&helli
最終更新日: 2025-11-03
Chapter: その5 第八話 クリポン族
44.第八話 クリポン族 朝になりカー子とキュキュが起きてきたから4人(1名リス)で斜向かいの定食屋に向かった。 キュキュは涼子の肩の上がお気に入りらしい。高い所が好きなのか、リス姿の時はよく涼子に登っているがそれについての記憶は人型になった時にはあまり残っていないそうである。「おねーさーん。魔力丼大盛り4つくださいなー」「魔力丼大盛り4つですね。かしこまりました」「……先日の店員さんとは違ってなんか上品なお姉さんだね」「ああ、彼女が店長デスヨ。美人でしょウ?」「若っ……(くはないのかな、キュキュですら人間より長く生きてるらしいし)」「店長は若くはないデス。私よりは年下だけド」「もうわけがわかんない」「人間の若さはセツナ的ですヨネ。だからこそ若さが魅力に見えるのかもしれませんが、実際の所は若いって未熟って事だからほとんどの若い人は頼りないですヨネ。まあ、ミズサキは既に優秀ですガ……」「どーせあたしゃマコトと違ってただのアホですよ」「そ、そーは言ってマセン。涼子さんには涼子さんの良さがありますッテ!」「そうだよ。リョウコは美味しい唐揚げを作れるしさ」「キュキュ……いつの間に人型になったの」「さっきからなってたよ」「『ドロン!』とか『ボワン!』とか音したりしないんだね」「そう……だね。無音かもしんない……変かな?」「いや、イメージと違うなって思っただけ」 妖怪が人間に化ける時って必ず音が出るイメージだったけど、キュキュは違うらしい。まあ、キュキュは妖怪じゃなくて仙人か。 私たちは私と涼子にとっては夕飯。カー子とキュキュにとっては朝飯
最終更新日: 2025-11-02
Chapter: その5 第七話 ノーレート麻雀
43.第七話 ノーレート麻雀  コカトリスの唐揚げを食べた私は、満腹になりまた眠くなっていた。「いやー、それにしても唐揚げ美味しかった。こんなに美味しい唐揚げなら毎日でも食べれるよ。あ……お腹いっぱいになったら眠くなってきた」「さっきまで寝てたじゃないの! とは言え、実を言うと私も眠い。ごはんたっぷり食べたからね。ちょっと昼寝してもいいかな……」「昼寝っていうか、今寝ると普通に『寝』だけどね」「チョッ、チョット。おふたりサン! ダメデスヨ。起きててくんなきゃ。何のために帰したか忘れマシタカ」「えー、何のためだっけ?」「遅番やるための時間調整」「あたしゃハナから遅番のミズサキだよ」「今寝そうだけど?」 時刻は夜の11時である。遅番的には真っ昼間もいいとこだ。「遅番はいつでも眠いの」「それ、ミズサキだけじゃなくて?」「けっこう遅番あるあるだと思うけどなァ……。ちゃんと寝て来ても4時頃には眠くなるとか」「4時頃には、ね。今は11時だからやっぱ起きてようよ」「えーーー? 休みの日くらい自由に寝たいよぉ」「睡眠時間の調整もメンバーの仕事デスヨ。寝る時間は仕事のうちだと思って計算して睡眠してくだサイ」「ある程度は同意できる……けど、そうなると睡眠時間も給料が発生することになるわよね? 今までの従業員にはその睡眠時間も含めて給料与えてたの?」と鋭いツッコミをする涼子。さすが、抜け目ない。「ギクゥ!」「エル。あんまり面倒なことは言わないに限るよ、睡眠時間くらいは好きにさせりゃいいじゃん。そこまで管理しないでもさ」「そ、そーネ」「てことで、私たち1時間くらい寝るからカー
最終更新日: 2025-11-01
麻雀食堂―mahjong cafeteria―

麻雀食堂―mahjong cafeteria―

 東京の下町の商店街のはずれに一軒の小さな定食屋があった。そこは、静かな店内に美人店主がひとり。そしてその一角にはなぜか麻雀卓がある。そこでは様々な世代の麻雀好きが集まり食事と麻雀を楽しんでいた。  その店を偶然見つけた乾春人は次第にその定食屋の常連客となっていく。  店の名前は『あやの食堂』。通称『麻雀食堂』――
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Chapter: 【麻雀食堂】エピローグ 騒がしい毎日
76.【麻雀食堂】エピローグ 騒がしい毎日 俺は結局会社を辞めてあやの食堂とカラオケスナックの両方で働くことにした。それがけっこう性に合ってて毎日笑顔で働くことが出来るようになった。自分の好きな人の隣で働くことの出来る喜びを感じた。 美咲はあっという間に売れっ子の女流プロになっていた。まだ学生だから仕事の量は控えているが、明るく気さくな性格もあり異性だけでなく同性からも好かれる大人気新人麻雀プロとなった。 しかし、美咲は今執筆がうまくいかず連載中だった作品は休載になり苦しんでいるようだった。そんな悩みはおくびにも見せず、勉学に勤しみ、プロ活動の一環として麻雀の対局を配信したりと立派だった。「やめよっかな、小説家」なんてことを言うかもと思って心配していたがそんな様子は微塵もない。「スランプみたいだな。大丈夫なのか」と、一応声をかけてみたが……「スランプ? そんなのは新人には無いものだよ。まだ未熟なだけ。それにこの程度のことでやめるわけにはいかないよ。ファンがいるからね。私の書いたもののファンが。そもそもここまで書けるのは間違いなく才能なんだからやめたりしない。急いで書いたっていいもの生まれないよ。今はお休みでいいの!」と言う。強い妹だ、格好いいよ、美咲。 困ったのは、最近品川愛が休みの日によくあやの食堂に顔を出すようになったことだ。「何で来るんだ、近くないだろ」と言うと「何でってー? 美味しいからに決まってるじゃあないですか。あと先輩の顔が見たいからってのも当然あります!」「ケッ、俺はあんま見たくねーんだよ」「なーんてこと言うんですかぁ! 私がこんなに先輩を慕っているのに?」「おまえとはもう先輩後輩でも上司部下でもない。先輩呼びもしなくていい」「じゃあ『ハ ル ト ♡』って呼びましょうか」「やめてくれ。……先輩でいい」(なにあの女ー。くっそカワイイんだけど。あれがハルトの部下で上司だっていう品川さん? 女の子じゃん、聞いてないんだけど)(あーやだやだ、私らの旦那はモテ過ぎてイヤになるわね。3人目とかさすがにダメよ)「リーチぃ!」 奥の麻雀卓では財前カオリが後輩プロの望月コトノと一緒にアマチュア相手に実戦形式の勉強会を行っていた。  元気いっぱいなリーチ発声はアマチュアではなく望月プロによるものだった。望月プロは絶好調みたいですご
最終更新日: 2025-10-02
Chapter: その8 最終話 恋は食卓にある
75.最終話 恋は食卓にある 今日はメタさんがいのりを預かる日で、あやのさんとマキの2人とも俺の部屋に来ていた。 ちょうどいい機会だと思い、俺は自分の悩みを夕飯の時2人に打ち明けた。 部下だった人間が上司になりモチベーションが下がっている――と。 情けない話だがこれ以上自分の中だけでモヤモヤさせているのは無理だった。人に聞いてもらいたい。アドバイスが欲しい。 俺は精神的にも追い込まれていた。「じゃあ辞めちゃいなよ」「えっ」「そうだよ、そんなつらい思いしてまで会社勤めすることないよ! それしか道がないならまだ分かるけどハルトには稼いでくる嫁がいるじゃん!」「しかも2人もね。なんなら食堂で雇ってもいいし」「スナックで雇ってもいいよ?」 思いつきもしなかった。仕事ってやめてもいいんだ。そう言われた瞬間肩の荷がおりた気がして気付いたら津波のように一気に涙が押し寄せた。 なんの涙が出たのかも分からなかったが、止めどなく溢れ出る。「明るく生きてこーよ! ほら唐揚げできたから!」ゴトッ 食卓に揚げたての唐揚げが大皿で用意された。 ニオイだけで食欲をそそる。米が炊けるまであと2分。たった2分が待ち遠しい。「ホラホラ泣かない泣かない。オネーさんがチュッチュッしてあげるからねー。ンー、チュッ♡」「あー! マキずるいよ。私にだけ仕事させといてー」「だってアタシは料理うまくないもん」「ウソつけ!」「そンじゃー仕方ないからアタシは飲み物用意するねェ~♪」 そう言ってマキは冷蔵庫からアルコールを何種も取り出した。「えへへ~。こんな時にはやっぱりお酒でしょ。ハルトの気の済むまで飲んだらいいよ。カクテルとか作ろっか?」「もー、マキは自分が飲みたいだけでしょ! ハルト君は付き合うことないからね」「いや、今日は俺も飲むことにするよ。缶ビールもらっていいかな」「オッケー。アタシが注いだげる」 ビール専用の細長い摺りガラスのグラスにトクトクトクトクと缶ビールを注いでいくマキ。 俺は缶に直接口付けてもいいんだが、マキ曰く缶ビールは注がれること前提で味が調整されているからグラスに移し替えて初めて最高の仕上がりになるんだという。 ちなみにこの摺りガラスはなぜそうなっているかと言うとビールがキンキンに冷えているように見せかける視覚的効果を狙ったものなんだ
最終更新日: 2025-10-01
Chapter: その8 第八話 それから
74.第八話 それから マキとは話し合った結果、子供は作らないということに決まった。45歳でも健康的な子供を出産できる可能性はできるできないで比較すればできる寄りで、成功の%だけを考えれば充分高い成功率があると言える。 だがリスクの高さは若い子の比ではないし、そもそも子供を欲しいという気持ちはマキにはとくになかった。ただ生きる時間を共にする、楽しい恋人が欲しい。そういうことらしい。「だからずっと一緒にいてね~♡」「わかった」 あやのさんは「私は子供を作るのもいいし、できないならそれはそれでいい。自然に任せましょう」と言った。 自然を愛するあやのさんらしい答えだった。 俺も、あやのさんのように自然の流れに身を投じるような爽やかな生き方でありたい。──────────── 俺の生活が一変する出会いがあったあの初夏の日から2年の歳月が流れた。 美咲は今日『日本プロ麻雀師団』のプロテストを受けに行く。美咲なら間違いなく合格するだろう。これからは女流麻雀プロと作家の二足の草鞋というわけだ。こんな格好いい妹を持って兄として誇らしい。 メタさんはプロ麻雀界にプラスアルファリーグのチーム監督として復帰していた。選手時代に稼いだ貯金も底をつきそうなのでジュンコさんに仕事を与えてもらえないかと頼んだ結果こうなったらしい。選手をやめてから今までは何をやっていたんだろう? ジュンコさんは同世代のライバルだった早坂公子プロと組んで『左田早坂のマージャン愛好クラブ』という番組を作った。これが地味に人気があり、それによって発生したグッズや書籍も好評で、生活するには十分な売り上げを出していた。 とても楽しそうな番組で、こんなに笑顔で働いて稼ぎになるなんて羨ましいなと思う。 カンはとくに変化せずいつも通りだ。最近ヒゲがのびるのが早くなってきたのが悩みだとか。そう言えばヒゲって20代前半の頃は4日に一度剃ればいい程度のものだったのに、いつの間にか毎日剃る必要があるようになってたな。あれはなんなんだろう。「ヒゲを毎日剃るようになったのも、手の油が減ってビニール袋をあけにくくなったのも成長なんだろうか」とカンは最近の悩みをSNSで呟いてた。悩み、小さくていいな。 俺はと言うと、教育していたはずの品川愛に抜かれ品川の部下になっていた。 新人時代から感じていた事だが、こ
最終更新日: 2025-09-30
Chapter: その8 第七話 大都会とは
73.第七話 大都会とは 今日は3人のその後の生活についてしっかり話し合おうという事になり、俺はマキと一緒に新居にいた。ちなみに、あやのさんは今日は来れない。 あと、これは車を持ってない俺の誤算だったのだが、俺の利用してる鉄道はウネウネと線路が入り組んでいて直線が少ない。 鉄道による時間的中間地点というエリアを新居に選んだのだが、実際の距離的にはあやの食堂は新居からそんなに遠くなく、運転免許のあるあやのさんやマキは来やすい場所であったことが判明したのだ。つまり、嬉しい誤算。 なんなら気合いを入れれば電動アシスト自転車でも来れるかもしれない。いや、それは少しきついかな。「ねえ、ハルトは免許持ってないの?」「あるよ、原付きのやつなら(もう乗ってないけど)」「麻雀打てるか聞いたら出来るよと言われた後に点数計算は出来ませんけどと明かされた気分だワ」「高レートの高速道路には入れません、的な」「いい得て妙」 俺は自動車免許を持つ人がすごく多いことについてけっこう違和感を感じてる。 免許なんか取得するだけでやたらお金がかかるし、車を買うとなると大変な金額だし、駐車場や維持費もかなりするだろ? なのになぜそんなにも自動車免許を取ろうとするんだ。ド田舎だというならわかる。だが、ここは仮にも都内だ。交通機関は豊富にある。そして駐車場は高い。車の免許、本当に必要かなぁ? 原付きならバイク本体も維持費も免許も安いから取るのわかるんだけどさ。 その件についてマキに聞いてみた。すると……「出身地は気仙沼(けせんぬま)なの。宮城県気仙沼市。車が無きゃ仕事どころかコンビニにも行けなかったよ。そういうのが嫌になって東京来ちゃったのよね~」「そうなんだ。そう言えば出身地とか知らなかったなー。あやのさんはここらへんに子供の頃からいたみたいなこ
最終更新日: 2025-09-29
Chapter: その8 第六話 超一流の定義
72.第六話 超一流の定義 久しぶりに打ったリアル麻雀はすごく楽しかった。目線、呼吸、仕草、動作、振る舞い、ほんのさり気ない発言、それら全てが読みの情報になるリアルの対決はネットの麻雀では味わえない面白さがある。あ、もちろん、そんな高度な読みは俺はまだ出来てないよ、でも『読まれた理由』がそれだってこと。そこが面白い。 例えばさ、こんな事があったんだ。3巡目にドラ3赤1の跳満級リャンメンテンパイしてリーチした時。「ンーー。全然わかんないしどうしたモンかな~」とマキが言うからつい「こんなのはただの大ラッキーだから、当たったら事故ですよねー」みたいなこと言っちゃったんだよね。なんで俺は『大ラッキー』なんて言っちまったんだろ。その発言に注目して、そこから細かく答えを紐解いたのがその時に親番のメタさんだ。 メタさんは俺のこのうかつな発言をこう読み取った。(大ラッキー……リーチのみで使う言葉じゃないな。まず間違いなく勝負手だ。8000以上は必ずある。リャンメンテンパイ以上の可能性も大だろう。親のおれはツモられても6000支払いとかになる可能性が高いと読める。じっくり作って大物手で反撃を、と考えていたがそうもいかないらしい) という思考が働いてメンゼンなら12000級が余裕でイメージできる手をリャンメンチー。結果、2900点でかわされたんだ。 これ、喋ってなかったら結果は違ったかもと考えるとすごく面白くないか? リアル麻雀の深さを感じるだろう?  そう、上手い人は喋りひとつ取っても隙がまるでないんだよね。手牌に関することは全くと言っていい程喋らない。割といろんなことをペラペラ喋ってるくせにだよ?(メタさんのこと)「そう言えばさ、先日お手伝いに来てくれた財前さん、だっけ。あの人は何者なんですか。どっかで最近見たとこある気がするんですけど」「ん? カオリちゃんのこと? 麻雀プロだよ。知らないかな『財前姉妹』って」「あっ! わかった、思い出しました! 月刊マージャン部の巻頭で特集されてた人だ! あー、どーりで見たことあるなと思いましたよ」 「先月号の巻頭だったよね。今月号でもセンターカラーで取り上げられてるよ。ほら」 そう言ってあやのさんは今月の月刊マージャン部を見せてくれた。発売日は今日だ。俺も買わなきゃ。「本当だ。すごい人だったんだね」「いやぁ~で
最終更新日: 2025-09-28
Chapter: その8 第伍話 イジワルな答え
71.第伍話 イジワルな答え「もう、ムリ。降参。俺には難しかった。マキちゃん答え教えて」「んー。あとでね、いま美味しいカレー食べてる最中だから、忙しい」 絶対に食べながらでも教えられるだろと思ったけど、俺は大人しく待つことにした。やっぱり悔しいし、マキがカレーライスを食べ終わるまではもう一度考えてみようと思う。 ……とは言え、ムリなもんはムリなんだよな。どうしても3面待ちの時点で高め安めはできてしまうから。ピンフなんて役が存在しなければなー。「ハルト、本当に思い付かないの? ひとつひとつ試せば答え出ると思うけどな。カレーうまッ!」「いやだって、六七加えて六七七七だと六でピンフつかないから点数違うでしょ。七八加えて七七七八でも八でピンフつかないから点数違くなるじゃん。1七加えて147だと47が一気通貫にならないし。9七加えて369も36が一気通貫ならずでしょ。23加えて147や78加えて369も結局高め安めあるじゃんか」「モグモグ……それだけたくさん考えたのに答えにたどり着かなかったんだ。惜しいトコまでいってるけどね。……カレーがウマいけどっ…〜〜〜カラいっ! あやのぉ~、お水もう一杯ちょうだい」「はーい」ゴクッゴクッ「プハッ。結局は冷たい水が一番うまいよね」 それは言えてる、と思った。「でさ、あやののヒント思い出してみなよ。材料はあるけど揃えてないんでしょ。それはつまりさ……」「あっ、あっ、待って! わかった! わかりましたコレ! 3索7索だ!」「そゆことー。やーっとわかってくれたね。このクイズは一気通貫を見せてるのが罠だって
最終更新日: 2025-09-27
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