All Chapters of 麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜: Chapter 1 - Chapter 10

50 Chapters

その1 第一話 その名は紅中

1. 麻雀のプロにはいくつかの種類がある。 リーグ戦などで切磋琢磨する『競技麻雀』のプロ。大きな賭場で稼ぐ『バクチ打ち』。よくある麻雀店で働く『スタッフ』。健康麻雀の『講師』など。 他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。 ――そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。──── (好形イーシャンテンですね……)二四六七④⑤3456778 三ツモ(ドラは4索……この手からは後に危険になりそうな3索を今のうちに捨ててテンパイ時に安全性が高そうな8索を捨てるのが手順です。でも、だからこそ私の仕事的には……)打8「よーし、リーチだ!」「(来ましたね。待ってましたよ)ここは私も降りられませんね」打6「ロン! 一発だから満貫!」「チュンさーん。どんな手から勝負しちゃったのー?」「いい手でしたよー。テンパイですし」チュン手牌二三四赤伍六七④⑤34577「ああ、三色変化を待ちつつのタンピン系ダマ満貫か。これは6索放銃も仕方ないねー。ていうかもうリーチしちゃっても良かったんじゃないの?」 「チュンさんっていい手作りしてるけどチョイチョイ大物手に放銃しちゃってるよね」「アハハ、あまり守備が上手くないんで」「不思議だなー。いつもけっこういいポジションにいるのにね」(私は気持ちよく麻雀をしてもらえれば、それが仕事ですからね。上手に点数を分配するためには最初はある程度集める必要がありますし)──────「ああ、今日の麻雀も楽しかった! チュンさん、また明日ね!」「ええ、また明日。リベンジさせて下さい(ふう、今日もなんとか任務完了ですね)」 これは、『接待麻雀』という打ち方を生業に選んだ特殊な麻雀打ちの物語――麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜「では、行ってまいります」「任せたよ。気を付けてね、チュン」「はい。お任せ下さい」  そう言うと大きな荷物を背負い事務所の扉を開けて彼女はお勤めに出た。 ここは特殊な専門知識を持つ家政婦のみが採用される特別な家政婦の集まる場所。『特化家政婦専門事務所 アズマ』 家政婦派遣いたします。料金は応相談。サービスに対して高いということは決してございません。顧客満足度97% 初回はお試し価格。東京都と東京隣接地域ならほぼ全箇所出向きます。 表向きはここまでの情報しかない。い
last updateLast Updated : 2025-11-24
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その1 第二話 アマチュア漫画家

2.第二話 アマチュア漫画家 井之上家の住人は3人だけ。父、井之上章生(いのうえあきお)45歳。長男、井之上宏(いのうえこう)16歳。次男、井之上士郎(いのうえしろう)13歳。この3人だ。母親は亡くなっており男3人で暮らしているようだが、家事がうまくできる者が誰一人としておらず、困り果てているようである。加えて収入面においても作家であった奥さまを失い、余裕ある暮らしの継続は難しくなったと見ていいだろう。まだ貯金が残っているうちに家政婦に任せようという考えなのではないだろうか。 家は大きくて立派な庭付き一戸建て。部屋数こそ少ないが、その各部屋が広い。(東京都内でこの広さなら大変な値段になるはずだけど、ここはギリギリで埼玉県。でもむしろ子育てにはこのくらいの環境がいいわよね。となると、いくらくらいなんでしょうね。勉強不足だったわ。わからない。なんにしてもこう大きくては安くはないはず。この家はローンで購入したのかしら。それとも作家だった奥さまの一括?)「それでは士郎さん。まずはあなたの部屋から片付けますので少々お待ち頂けますか」「うん、わかった。じゃあ僕は飲み物でも買ってくるよ」 士郎は気が利く子だ。頭もいいし、優しい子なので友達も多いが、ここ1年ほどは学友を1人も家に呼んでいない。呼ばないようにしているのだ。家が散らかっているしゴミの臭いが気になるから。 自分の部屋が汚いくらいのことは毎度の事なのでさほど気にせずにいられるのだが、家そのものが汚いというのはさすがにまずい。 ガチャ(あー、散らかしてますけど収納はありますね。棚の使い方も工夫すればかなり物が収まりそうです。これはけっこう簡単かな) ――30分後ガチャ「ただいまあ~」「おかえりなさいませ。お買い物お疲れ様です。士郎さん、お部屋はあらかた片付きましたよ。あとは掃除機をかければいいだけですね。士郎さんの部屋はもうゆったりくつろげるスペースを作りました」「エッ! ほんとに? ちょっと飲み物買いにスーパー行ってたほんの30分で?!」 驚きのあまり士郎は駆け足で自分の部屋を確認に行った。バタバタバタ!ダンダンダンダンダン!ガチャ「……本当だ……すっげーーーー! さすが家政婦さん! うわすっげーー!」「お褒めに預かり光栄です」 するとテーブルに見た事のない本が置いてあるのが士
last updateLast Updated : 2025-11-24
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その1 第三話 お試し

3.第三話 お試し 玄関には家族の写真がいくつか飾られていたがどれも子供たちか子供と父親が一緒に写っている写真かであり母親の写真はひとつも無かった。(いつもカメラを持つのは奥さまだったようですね。まあ、そういう家庭は珍しくないです。けど、1枚くらいあっても良さそうなものですけど) 玄関から廊下はある程度掃除してあったので細々したゴミを取り除き、あとは拭き掃除することで一旦よしとした。(玄関口にわずかですが悪臭がありますね。まあ、玄関、とくに靴は臭うものですからね……まして男性3人では。こういうのは他人じゃないと気付けない臭いなので自分たちでは対策をしない家庭がほとんどです。持参した強力消臭剤を置くとしましょう)……コトッ 紅中は玄関の靴箱の上に無香料の消臭剤を置いた。見た目はオブジェのようで掃除して細々したゴミがなくなった靴箱の上に置くのにはちょうどいい。 廊下には電話が置かれていないのに電話台があり、なんとなく時代に置き去りにされたかのようでどこか寂し気に見えた。(この電話台、ここにあっても意味がありませんね。ちょっとどけましょうか……。どこに置いたら丁度いいでしょう……?) 紅中は靴箱の横にスペースがあるのを見つけた。(ん! ここ丁度いいんじゃないですか?) 紅中は内ポケットから小さな巻き尺を取り出して靴箱横のスペースと電話台を計測した。「わあっ! 1センチの狂いもなくぴったりだわ!」 紅中は思わず声が出た。「どうしました?」「あっ、旦那様。失礼しました。これは、ちょっとびっくりしただけで」「何か手伝いますか?」「よろしいのですか? それでしたらこの電話台を玄関の方に運びたいので一緒に持ち上げてもらえたらありがたいです」「了解。その程度、お安い御用だよ」「「せーの……ンッ!」」 欅で作られたその電話台は中身を全部出してもなかなか重かった。「よいしょ……っと。あ、ぴったり!」「ええ、本当に。少しのズレもなくぴったりなんですよ。元からここにあったのでは? と思えるほどに。それでさっき驚いてしまって。旦那様、持ち運びご協力ありがとうございました」「いやいや、こんな事でいちいちお礼なんかいらないですよ。それより少し休憩にしませんか。もうかれこれ1時間半ほど働いてますし。その間オレンジジュースをひと飲みしただけでは疲れたでし
last updateLast Updated : 2025-11-25
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その1 第四話 置き切り

4. 第四話 置き切り  居間を片付けて紅中は長男の宏にも漫画の1巻を渡した。  「良かったら読んでみて下さい。私の自信作です」「ふうん……まぁ、あとで部屋で読むからテーブルに置いといて下さい」「はい」(良かった。少し話せた。それに、作品さえ読んでもらえれば私という人間を知ってもらうのに充分ですからね)  父親の章生は既に漫画の世界に没頭していた。プロの漫画家だった章生がこれほど没頭して読んでいるというのはアマチュア漫画家の紅中には嬉しいことだ。 紅中はつい顔がニヤけてしまいそうになるのを頑張って抑えた。 「………………いや、かなり麻雀に対する理解が深くないと描けない漫画ですねこれ。チュンさんは元麻雀プロかなんかなんですか?」「お父さんもそう思った? 打牌時の置き切りなんて完全にプロのそれだもんね。よく絵で描けてる」「士郎さん、よくそこに気付きましたね、凄いです! 確かに、置き切りを再現している麻雀漫画はかつてひとつもありませんでしたからね。ここは私もこだわって描いた部分です」「置き切り?」「一流の打ち手はこうやって切るんです。打牌の音を出さず、なおかつ全員に同時に牌の絵柄が見えるよう考え尽くされた切り方。それが『置き切り』です。具体的にどのようにやるかと言いますと、牌の背ではなく下を先に着地させて、その着地した面を支点とし、優しく前へ押し倒すのです。このとき中指は側面に添えたままにして下さい。牌を綺麗に倒すために中指の『添え』は必要です。また、人差し指と親指は牌から速やかに離すことが大事です。麻雀店で働くスタッフはまず最初にこの牌の置き方を教わるものなのです」「「「へぇ〜……」」」(よしッ! 士郎さんナイス! おかげで宏さんからも関心の「へぇ〜」がいただけま
last updateLast Updated : 2025-11-26
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その1 第伍話 イノウエ順子

5.第伍話 イノウエ順子「あっ、珍しい。象牙の牌ですか」「うちのはじいちゃんの代からあるやつだから年季が入ってるよ」 井之上家の麻雀牌は象牙だった。立派だし、象牙の麻雀牌は手積み麻雀をやる上で良い。 というのも、象牙は天然素材で、湿度や温度の影響を受けやすく、乾燥すると収縮して裏面が凹み、表面が凸になる『アーチ反り』が起こりやすい。特に古いセットにはその現象が顕著に現れ、コレクターの間では『象牙の味』として好まれる特徴の一つである。 こうなっていると17牌17牌で2列にして手前1列を持ち上げて牌山を作ろうとする時に山を積み上げやすくなる。自然が作り上げた使いやすさというのはなんとも心ときめくものがあるではないか。「いいですね、象牙牌。私も学生時代によく麻雀しに集まってた友達の家の牌は象牙でした。美しいですよね」「学生時代は私も学友と麻雀したものですよ。メンツのためなら仲良くない友達とか、時には女の子にも声かけて……それがきっかけで仲良くなるということも少なくない。そんな学生時代でしたね。懐かしいです」「もしかして奥さまとも?」「チュンさんは鋭いですね。そうなんです。妻とは麻雀がきっかけで知り合いました。ずいぶん気の強そうな女の子がいるな、というのが最初の印象でしたよ。ハハハハハ!」「そんな話はおれらも初めて聞いたぞ。なあ、シロー」「そうだね~」「お母さんは普段はおしとやかで通してたからな。気の強い勝負師な面は隠してたのさ。バレてるけどな」「隠しきれてないよ」「てか作品読んだ読者はみんな知ってるまであるよね。お母さんの作品に出てくる女の子って気の強いのばっかりじゃん」「そうだな。純子は本当に、面白いお母さんだったな」「イノウエジュンコさん? もしかして『望遠鏡』や『イノウエ順子短編集』などの青春小説で一世を風靡した『イノウエ順子』さんですか?」「よくご存じですね。イノウエ順子は妻のペンネームでした。と言っても字を変えてるだけで読み上げる音的には本名のままですけどね。これならペンネームで呼ばれてピンとこないということが無いから良いんだとか言ってました。本名のままでも良いんだけど麻雀好きの作家で『純子』だとエッセイストの左田純子先生と被るから」「私、短編集の『世界は君の思い通り』が好きでした! へー、あのイノウエ順子さんでしたか! し
last updateLast Updated : 2025-11-27
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その1 第六話 名刺代わりの初アガリ

6. 第六話 名刺代わりの初アガリ (さて、起家です。とは言え最初は様子見をしたい所。変なことはせずに普通に打つとしますか……)  紅中の配牌はぐちゃぐちゃのそれはもう酷いものであった。 紅中配牌一二六八④⑦⑨149南西北中 (ま、様子見するにはおあつらえ向きといった所でしょうか。接待麻雀にはこのくらいが丁度いいです) 打1 「ねえねえ、チュンさんはいつから漫画を描いてるの? ずっと麻雀漫画なの?」 「はい、麻雀漫画オンリーです。麻雀が好きなので、自分の好きなものを漫画にしてみたいと思いました。漫画歴ですか。今年で4年目ですかね。少しは上達したと思うのですが。いつか同人誌のマーケットのような所で行列の出来る漫画家になるのが今の私の夢です」 「壁サークルってやつね。4年目であの面白さならそれも可能な気がするな。プロは目指したりしないの?」 「まあ、それは雲の上の人たちの世界ですからね。私は趣味でやるのが性に合うと思ってます」  そんな会話をしながら場面は中盤になり、紅中は七対子になればいいな程度の手。ほぼ無理である。 (麻雀っていうのはこの七対子という役が一番やっかいなんですよね。この役が無かったら現在の麻雀の難しさは絶対にありえない。でも、七対子があるからこそ、上手な人と初心者で実力差が出るようになってる、とも言えます。そう考えると七対子という役を作ったと言われてるアメリカに感謝ですね)  七対子はセンスの必要な役と言われている。その最大の要因として挙げられるのは何と言っても『何を引けるかを予想しなければならない』という点である。それは他の手役でも同じだと思われるかもしれない。しか
last updateLast Updated : 2025-11-28
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その1 第七話 打牌強打とタバコと不良

7. 第七話 打牌強打とタバコと不良 「凄いですねチュンさん。その七対子」と父、章生が紅中のアガリを見てびっくりしていた。「そーなの? 普通のチートイに見えるけど」「士郎、捨て牌をよく見てみろ。これ、被りがひとつもないんだよ。つまりこの手における最速のアガリをしてるってこと」「あ、ほんとだ。メンツ手にも出来ないし」「鳴きも不可能だな」「そんな、たまたまですよ……」 (ただの七対子でこんなに評価されるなんて想定外でした。たしかに、この局は上手く打てたな、とは自分でも思ったんですけど。ご主人様はなかなか鋭いですね) 次局 「リーチ!」 ダシン!  士郎が気合いを入れてリーチする。よほどいい手なのだろう。 (あまり露骨ではない危険牌を試してみますか) 打九 打① 打二 (通っちゃいますね……) 数巡後 「ツモ!!」 バチコン! 士郎手牌二三四六七④⑤⑥66777 伍ツモ 「せんにせん!」 「士郎さんは元気いっぱいですね。てっきり倍満でもツモられたかと思いました」「いや~。麻雀をすること自体久しぶりだったから興奮しちゃった」「そういうのはありますよね。私も久しぶりの麻雀で楽しいです。士郎さんは強打が好きなんですか?」「え、うん、な
last updateLast Updated : 2025-11-29
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その1 第八話 本契約

8. 第八話 本契約  紅中はちょいちょい振り込み、たまにアガり、二着、三着あたりを取り続けた。そして日が暮れる―― 「あ……もうこんな時間? 紅中さんは何時までの約束でしたっけ?」「実はあと2分です。丁度いいタイミングでオーラスが終わりました。これ以上だと延長料金をもらうように言われていますからね。ギリギリです」「あ……あのさ。お父さん、僕は紅中さんにまた来てもらいたいんだけど。どうかな?」「なんでだよ士郎。必要ないだろ。もうあとは自分たちで片付けられる」「兄ちゃんはまだ漫画読んでないからそういうこと言えるんだよ! ねえ? お父さん!」「いや、お父さんもまた頼もうと決めてた。毎週定期的に来てもらいたいのですが。頼めますか?」「! もちろんです。それでは契約書を用意いたしますので、印鑑のご用意をお願いします」  章生は印鑑を用意すると『の』の字を書くようにしっかりと力を込めて契約書に判を押した。 「ここから私は長期契約するための説得のフレーズを色々考えていたのですが、不要でしたね。ありがたいです。正直、NOと言う人をYESにさせるための話というのは話す側には勇気がいるので……。今回はご契約ありがとうございます」「いえいえ、そんなそんな。私たちこそこんなに良くしてもらって。久しぶりに麻雀も打てて、宏が嬉しそうにしてるのを見るのも久しぶりでしたし」「おい、別に嬉しそうになんかしてねーよ!」「まあまあ、とにかく。明後日もよろしくお願いします。基本的に土日と祝日は私は家にいますのでそこのタイミングで来て頂けますか」「分かりました。祝日が無い週はどうしますか」「その場合は週2になりますが、週3の時と週2の時とあるような、そういう契約は可能でしょうか」「もちろん可能です」&nbs
last updateLast Updated : 2025-11-30
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その1 第九話 接待麻雀特化家政婦

9.第九話 接待麻雀特化家政婦 ここは、特化家政婦専門事務所 アズマ。ここには数名の『麻雀の才能に特化した家政婦』が所属しているという、不思議な家政婦事務所である。♪〜「はい、アズマです」『アズマ所長、お疲れ様です。今終わりました。本契約結びましたよ』「チュンは相変わらず優秀だね。今日は事務所に戻らなくていいよ。疲れただろうし、もう遅いからね。そのまま帰りなさい。退勤のタイムカードはこっちで適当な時間にやっておくから」『ありがとうございます』「気を付けて帰るんだよ」『はい。では、お先に失礼します』「お疲れ様」『お疲れ様です』ピッ……ツー、ツー、ツー「電話。チュンさんからですか?」「ああ、あの子は相変わらず優秀だよ。今回も本契約結んだってさ。有り難いことさね」「凄いよねぇ、チュンさんは」「リュウハ。あんたももっと頑張んな。かわいい顔してんだから、仕事取りやすいハズだろう?」「私はダメですよ〜。家政婦とか才能ないもん。まず背が低いのが難点だし。高学歴だから家庭教師とかなら向いてるんだけどなあ。ま、ひとまずは麻雀のメンツとして使って下さいよ。麻雀ならどんなルールも器用にこなすからぁ〜」「……アンタねえ。うちは基本的に家政婦派遣事務所だよ。なにを間違えてここに来たのやら。まあ、メンツとして優秀だから雇う意味があるわけだけど。でも家政婦の仕事も勉強しなさい。今のままだったらいつか解雇するからね!」「採用したの所長じゃん」「採用されたら普通しっかり働くのよ」「へーい。わかりまちたー」「まったく……」「ただいま戻りましたー」「ミナミ。おかえりなさい」「ミナミさんお疲れ様です〜」「どうだった?」「月1のペースで来て欲しいって言われました。まあ良かったですよ」「上出来ね。よくやったわ」「えへへ、紅中は?」「あの子は土日祝で雇われたわよ」「紅中はやっぱすごいな〜。私もあやかってお団子にしようかしら」「いいんじゃない? あなたにも似合いそうよ」トン「南さんお疲れ様。まあまずはコーヒーでも飲んで休憩して下さい」「キタさん、ありがとうございます」「キタさん。私もコーヒーほしー」「リュウハはヒマなんだから自分でやれ」「あ、ひどーい。泣いちゃうよ?」「お好きにどうぞ」──────「さっ、もういい時間だから全員帰り
last updateLast Updated : 2025-12-01
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その2 第一話 生き方は人それぞれ

10.ここまでのあらすじ 接待麻雀に特化した家政婦を派遣する『アズマ』という家政婦事務所で働く接待麻雀専門家の『紅中』。 彼女はとくに優秀であり何軒もの家を綺麗にしてきたアズマ自慢のスーパーエース家政婦である。今回もその実力で『井之上家』と本契約を結んだのだった―― 【登場人物紹介】紅中ほんちゅん チュンの愛称で親しまれる成績優秀な『アズマ』のスーパーエース。趣味は同人誌作り。いつか同人誌フリマで壁サークルになるのが夢。東あずま アズマの所長。口では厳しいことを言うがその実は面倒見が良くて母性に溢れた優しい女性である。井之上章生いのうえあきお 依頼主。妻の死によって自分は家事を全くしてこなかったのだと痛感。職業は陶芸家で元漫画家。今でも漫画は大好き。井之上宏いのうえこう 章生の息子で長男。現在高校1年。決して悪い子ではないが母の死がきっかけで反抗的になっている。弟の士郎にはなんだかんだ優しい。井之上士郎いのうえしろう 章生の息子で井之上家次男。中1。明るい性格で友達も多い。基本マイペースで片付けは苦手。まだ子供で兄の宏にいつも甘えている。その2第一話 生き方は人それぞれ 土曜日。 今日は紅中がまた井之上家に行く日だ。「では、行ってまいります」「チュン。気を付けてね」「はい。ありがとうございます」(さて、宏さんは私の描いた漫画を読んでくれてるでしょうか……)────ピンポーン『はい』「ごめんください、アズマから参りました家政婦の紅中です」『チュンさん。お待ちしてました、今鍵開けるので、どぞ!』 インターホンには士郎が出た。紅中が来るのが待ち遠しかったのか、とても嬉しそうである。ガチャ「こんにちは」「いらっしゃい。さっ、上がって上がって」「失礼いたします」  廊下は美しさを保っていた。2日前に掃除したばかりだから当たり前かとも思うかもしれないが、家政婦を頼りにするような家庭だとそれも当たり前とは言い切れないものだ。(良かった。玄関口の異臭も全くしなくなってます。こうやって維持されてると掃除した甲斐がありますね)「ああ、チュンさん。いらっしゃい。いやぁ、漫画読みましたよ! すごいな、いや本当に嫉妬するくらい面白い! 私が描いた漫画よりずいぶん面白いよ」「そんな事……褒め過ぎではないでしょ
last updateLast Updated : 2025-12-02
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