「やっぱり、牧野さんには鈴の本性を、自分の目で確かめてもらったほうがいいと思うの」紗枝が静かに口を開いた。「でも、牧野みたいな単純な男に、あの清楚ぶったずる賢い女の本性なんて見抜けるはずないじゃない」苛立ちを隠せない梓は、今にも感情が爆発しそうだった。こんな状況に直面するのは、彼女にとって初めてのことだった。お見合いで牧野と出会ったのは、何かの縁だと思っていた。まさか、運命の人に巡り会えたのかもしれないとさえ思っていた。けれど今、はっきりわかった。この世に純粋な愛なんて、存在しないのだと。「男の人ってね、よっぽどの馬鹿じゃない限り、ああいう清楚ぶった女や計算高い女の正体には気づくものよ」紗枝は、世の中の一部の男性はそれを承知の上で、あえて騙されたふりをし、ちやほやされるのを楽しんでいるのだと考えていた。「......あの二人が食事を終えるまで、ちょっと様子を見ましょう。鈴がこのあと、どう出るか」紗枝の提案に、梓はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。自分が今、衝動的に飛び出していっても、鈴には勝てない。そんな気がしていた。それに、牧野さんが鈴のことを「斎藤家のお嬢様」と呼んでいたのが、どうしても頭から離れなかった。確かに、家柄では到底かなわない。梓は心の中で、静かに決意を固めた。もし牧野が本当にどうしようもない男だったなら、きっぱり別れよう。最悪、またお見合いして、新しい人を探せばいいだけのこと。一方、隣の個室では、牧野は鈴の前で梓の話を一切せず、適当に料理を注文すると、会話の矛先を紗枝に向けた。「今日は、奥様は会社でどんなお仕事をされていたんですか?」「別に。会議の書類を見てただけよ」そう言いながらも、鈴は食事の合間に紗枝の悪口を続けた。「お義姉さん、全然真面目に働いてないと思うわ。会議の報告書一つに、一時間以上もかけて。集中できないとか言って、私がそばで手伝ってたのが邪魔だったみたいで、一人で出て行かされたの」牧野は軽くうなずいた。「妊婦さんは情緒不安定になりがちですから......本当にお疲れ様です」「疲れてないわよ。啓司さんの負担を少しでも軽くできれば、それだけで十分」そう言って、鈴は自分の食べかけのデザートを牧野の前へ差し出した。「牧野さん、これ食べてみて。すっごく
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