牧野は呆然と立ち尽くしていた。まさか、自分が鈴に会いに行った場面を梓に見られ、挙げ句の果てには写真まで撮られていたとは思ってもみなかった。【梓ちゃん、違うんだ!話を聞いてくれ!】そうメッセージを送信したが、既読つかない状態になった。彼は、梓にブロックされていた。牧野の心は、氷点下の風に晒されたように凍りついた。そのまま衝動的に車に飛び乗ると、アクセルを踏み、梓の勤める会社へと向かった。到着した会社で待っていたのは、見たこともないほど険しい梓の表情だった。その目は、今にも彼を殴りつけそうな怒りをたたえている。どうしてこの男は、まだ真実を語ろうとしないのか。梓の勤める会社は規模が小さく、警備体制も甘かった。牧野はためらいもせず事務所に入り込み、まっすぐ梓のもとへと歩み寄った。そして、彼女の手をつかんだ。「梓ちゃん、お願いだ、話を聞いてくれ!」必死の思いで言葉を吐き出す牧野。その切迫した声に、梓は一瞬驚いたように目を見開いた。周囲の同僚たちは、異様な空気に気づき、好奇の視線を二人に向けている。視線を背に受けながら、梓は観念したように無言で立ち上がり、彼について事務所を出た。人気のない場所まで歩くと、牧野はすぐに頭を下げた。「梓ちゃん......ごめん。本当のことを言うべきだった。嘘をつくなんて最低だった。でも......君に怒られるのが怖くて......怖くて、言い出せなかったんだ」「怒られるのが、怖くて?」梓の中で、怒りがさらに燃え広がっていく。「じゃあ、私もあなたに怒られるのが怖くて、黙って他の男と付き合ったら......それで済むってわけ?」牧野は自分に非があるとは、最初は思っていなかった。けれど、梓の言葉を聞いた途端、胸の奥に後悔が押し寄せた。「......もちろんダメだ」小さな声で、ようやくそう答える。すると梓は、顔を真っ赤にして叫ぶように言った。「それとこれと、何が違うっていうの!?怒られるのが怖かったって、そんな理由になるわけないでしょ?もし私が夜中に男と二人きりでいて、抱き合ったりして、それをあなたに黙ってたら......あなたはどう思うの?」牧野は言葉を失った。おそらく、その男を殺したくなるだろう。だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。「......ごめん、梓
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