青葉が紗枝を目にしたとき、思い出さずにはいられなかった。かつて、彼女がただ一人で刃物を手にし、自分に向かって放ったあの言葉を。もし昭子という養女の存在がなければ、この女性を高く評価していたかもしれない。その思いを、否応なく認めざるを得なかった。「夏目さん、あなたも騒ぎを見に来たの?」そう言いながら青葉は周囲に目をやった。そこに集まっていたのは、通りがかりの野次馬たちで、鈴木グループの社員ではないようだった。「もちろん違います」紗枝は微笑みながらスマートフォンを取り出し、何かを探し始めた。そして続けた。「さっきのあなたたちの会話、全部聞いていました。昭子さん、美希さんのことを実の母親だと認めず、証拠を出せって言ってましたよね?」昭子の胸に、理由のない不安がさっと走った。「紗枝、これは私たち家族の問題よ」そう言った昭子の声を、紗枝はあえて無視し、スマートフォンの画面に目を落とすと、目的のファイルを見つけ、青葉に差し出した。「これが、親子鑑定の報告書です」青葉は一瞬ためらいながらも、それを受け取った。報告書には、美希と昭子が実の親子であることが、はっきりと記されていた。昭子も思わず身を乗り出して覗き込み、一瞥した瞬間、信じられないという表情を浮かべた。「お母さん、これ、きっと偽物よ。私、美希の娘なんかじゃない!」驚いたような素振りでそう言う昭子を見て、そばにいた介護士がついに我慢できず、声を上げた。「お嬢さん、前に美希さんに会いに来たとき、ご自分で言っていたじゃないですか。『実の母親こそ本当の母だ』って。養母のお金だけが目的なんでしょう?」介護士にとって、余計な口出しをするつもりはなかった。しかし、目の前で実母を突き放す娘の姿を、黙って見ていられなかった。その言葉に、昭子は反射的に激昂した。「あなたみたいな介護士に、何がわかるのよ!あなたたち、共謀して私を陥れようとしてるの?名誉毀損で訴えるわよ!」「訴える」――その一言に、介護士は確かに口を噤み、それ以上は何も言えなくなった。青葉は黙ってそのやりとりを見守っていた。怒りに震える娘の姿を、目の前でただ見つめていた。彼女は昭子を幼い頃から育て、その性格を誰よりも理解していた。幼い昭子がもし潔白であれば、どれほど疑いをかけられようと、動じること
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