紗枝は、牧野と鈴に気づかれないようにそっと屋敷の裏手を回り、警備室へと向かった。警備員は不意の訪問に驚き、眉をひそめた。「奥様、何かございましたか?」「気にしないで。ただ少し確認したいことがあるの」紗枝は落ち着いた声でそう言った。警備員は無言で頷き、彼女の要望に応じて玄関前の監視カメラの映像を表示させた。画面には、門前でじっと誰かを待つ牧野の姿。そして出てきたのは紗枝ではなく、鈴だった。「牧野さん!」鈴は駆け寄り、潤んだ瞳で牧野を見上げた。その目には情熱の残り火が宿っていた。だが牧野は、まるでその火を冷や水でかき消すように、一歩後ずさった。「鈴さん、もうそんな馴れ馴れしい態度はやめてください」冷たく突き放すような言葉だった。鈴は一瞬、固まったようにその場に立ち尽くした。「......どうして?あの女のせいで、私に怒ってるの?」鈴の声には震えがあり、目には涙が滲んでいた。彼女はさらに一歩、牧野に近づいた。「ごめんなさい。怒らないで......彼女にちゃんと謝るから」「何を謝るんです?」牧野が静かに尋ねた。「......私たちの関係を、誤解させたこと......」鈴は呟くように言った。次の瞬間、牧野はスマートフォンを取り出し、ある音声ファイルを再生した。『今日、どうして牧野さんと二人で会ったか、知ってる?彼を誘惑したかったのよ。あなたに、何ができる?』そこに響いたのは、紛れもなく鈴の傲慢な声だった。鈴の顔から血の気が引いた。牧野の目には、冷たい光が宿っていた。「これ以上、誤魔化すのはやめましょう。僕たちはもう、ただの他人です。今後、二度とその口調で話しかけないでください」それは宣告だった。鈴の頬が紅潮した。羞恥と怒りと、そして恐れが入り混じった複雑な表情を浮かべながらも、言い返す言葉を失っていた。まさか、あの日の会話が録音されていたなんて。あの女、ただの小娘じゃなかった。あそこまで計算していたなんて。心の中で悪態をつきながらも、鈴はようやく自分の裏の顔がバレたことに気づいた。これからは、言葉にも振る舞いにも、もっと慎重にならなければならない。そう思った矢先、鈴は涙声で訴えた。「でも、私、本当にあなたと仲良くしたいの。あんなことを言ったのは、あの子が
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