音ちゃんの瞳には険しい光が走った。彼女はすでに海咲をここに連れてきた以上、海咲を生かしてここから出すつもりは全くなかった。だが、あの男が部屋を去ってからわずか30分もしないうちに、部屋の扉がノックされた。「入って」彼女が冷ややかに二言だけ発すると、体格の大きな男が参鶏湯の入ったお盆を持って部屋に入ってきた。男は恭しく音ちゃんの前に立ち、「音様、ファラオの指示で特別にお持ちした補身のスープです」と告げた。音ちゃんは一瞥しただけで背を向け、「そこに置いておいて、着替えたら後で飲むわ」と答えた。彼女がここに来てからというもの、隔日で参鶏湯が届けられる。だが正直なところ、彼女はもううんざりしていた。男は言われた通り参鶏湯を机に置き、「音様、ファラオからの指示で、私が見届けるまで飲み終えていただかないといけません」と冷たい声で言った。音ちゃんは答えず着替えを終えた後、机に向かい参鶏湯の碗を手に取った。中から立ち上る薬膳の匂いに顔をしかめながら、気合を入れて一気に飲み干した。「少しは融通を利かせられないの?いちいち見張らなくても私はちゃんとしているでしょう」と不満を漏らす。男は冷淡な口調で答えた。「音様、私はファラオの命令に従っているだけです」音ちゃんは言葉に詰まり、次いで手を振って男を追い払った。「分かったわ、もう出ていって」これまでの辛く耐え難い日々を乗り越えてきた彼女が、この程度くらいで怖気づくはずがない。男は一礼して部屋を後にした。音ちゃんは低い位置で髪をまとめ、顔をベールで覆った後、部屋を出た。海咲の様子を見に行こうと思った矢先、再び先ほどの男に行く手を阻まれた。男は謙虚な態度ながらも圧力を滲ませる声で言った。「音様、ファラオからのご指示で、しばらくは安静にしていただくようお願いされています。勝手に動き回らないでください」その言葉を聞いた音ちゃんは、怒りをぐっと飲み込むしかなかった。この扱いはまるで軟禁ではないかと心中で憤る。だが表立って反発することはできない。彼女は悔しさを押し殺してその場を立ち去ったが、タケシにすぐさまメッセージを送った。【温井海咲の様子を確認して、彼女の映像を撮って送って】たとえ外に出られなくても、タケシがいれば状況を把握できる。【分かりました】タケシから迅速に返信が来ると、音ちゃんの心中の怒りも少し収まっ
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