「これは昔の複式簿記で、なかなか理解しにくそうだね」「お前にはわかるのか?」「まあまあかな。ただ、長いこと見てなかったから、ちょっと慣れが必要だね」真奈は帳簿をじっくりと見つめていた。隣にいた黒澤は、真剣な表情で見入る真奈の横顔を見ながら、感心したように言った。「まさか、俺の嫁さんがここまで優秀だったとはな。こんな記帳方法までわかるなんて」「私が何を勉強してたか、忘れたの?私は金融専攻よ。帳簿が読めなかったら、会社の経営なんてできないでしょ」そう口では言いながらも、真奈の心の中には、冬城への感謝の思いが浮かんでいた。前世の彼女は冬城に想いを寄せていて、彼を助けたくて必死に金融の知識を学んだ。その頃は、さまざまな分野に触れ、吸収も早かった。もし前世で積み上げた知識がなければ、今こんなふうに理解できるはずがない。しばらく帳簿を読み込んでいた真奈だったが、次第に眉間にしわが寄っていった。「……この帳簿、何かおかしい」「どこが?」「記載されてる金額が、変なのよ」「どういうこと?」「見て。このページには黒澤家の洋貨商売で、年間の収入が三十万円、支出が六十万円って書いてある。でも、差し引きで出てくる三十万は、一体どこに消えたの?」「瀬川家の当時の主な事業は化粧品関係だった。でも商売の内容はさらに不可解で、年間の入金が十万円、出金は二十万円になってる」「伊藤家は農業関係の事業で、年間入金は二十万円、出金が四十万円」真奈はさらに佐藤家の帳簿を開きながら言った。「ここ。総年間入金は百二十万円。でも、出金の欄が空白なの」「つまり、ほかの家が出金したお金は、全部佐藤家に流れたってことだな」真奈と黒澤は、顔を見合わせて黙り込んだ。この帳簿は最初の一年分だけだったが、その年、各家は実質的に二倍の損失を計上し、結果としてすべての資金が佐藤家に流れていた。つまり、最初の一年、四大家族は揃って帳簿を偽造していたのだ。「もしこの帳簿の記載がすべて虚偽なら、私たちは佐藤家の帳簿にある総年間入金だけ覚えておけばいい。そうすれば、彼らがその年に百二十万円を不正に得たことが分かる」当時の百二十万円は、現代でいえば240億円以上に相当する金額だった。その当時の海城の発展状況からしても、百二十万円はまさに天文学的な金額だった。
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