小林夫人は訝しげに尋ねた。「では瀬川さんは、いったい……?」「この指輪について、皆様がどうお考えかお伺いしに参りました」「お考え、ですか?」小林夫人は小林の父を一瞥し、無理に笑みを浮かべて言った。「私ども小林家は小さな商家です。この指輪はすでに高価な品ですから、異論などなく、当然お受けいたします」小林夫人が納得したのを見て、真奈は小林の父に目を向けて問うた。「小林会長も同じお考えでしょうか?」「確かに、この指輪を売れば相当な額になる。こっちも文句はない」小林の父は小規模な事業主で、半生かけてもこれほどの価値を持つ品を手にするのは容易ではない。今はすっかり折れていた。だが真奈は言った。「確かに価値は200億にものぼります。しかし、小林家の手に渡ったとしても、そう簡単には売りに出せないでしょう」その言葉に小林夫人は困惑の色を浮かべ、問い返した。「瀬川さん、それはどういう意味でしょう?この指輪は完璧な状態ですのに、なぜ売りにくいと言われるのですか?」この指輪は見るからに上質で、しかも百年前の品だ。競売にかければ、かなりの収益が期待できるだろう。真奈は穏やかに微笑みながら言った。「小林夫人は、まだ宝石の相場にはあまりお詳しくないようですね。このサファイアはたとえどれほど希少でも、所詮はコレクションの域を出ません。良い買い手に巡り会えなければ、むしろ損をすることだってあるんですよ」「それは……」「小林夫人、少し考えてみてください。これほどの逸品を、どうして冬城おばあさんあっさりと手放そうとしたのか。現金よりもずっと価値があることを、知らなかったはずがないでしょう?」その言葉に、小林夫人は言葉を失って黙り込んだ。誰にだってわかることだ。これほどの宝石が現金よりも貴重なのは明白で、普通なら現金を渡す方を選ぶ。そんな大切な品を、簡単に譲るわけがないのだ。「冬城おばあさんも、その点はきっとご承知のはずです。冬城家の影響力は、ビジネス界だけでなく、競売の世界でも非常に大きい。もし冬城おばあさんがこの指輪を市場に出させたくないとお考えなら、誰一人として手を出そうとはしないでしょう。そうなれば、指輪はただの宝の持ち腐れ。皆さまが焦り始めた頃を見計らって、冬城おばあさんが誰かに安値で買わせれば、その時点でこの指輪の価値は200億どころか
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