All Chapters of NAMED QUCA ~死神が愛した娘: Chapter 81 - Chapter 82

82 Chapters

第41-1話 共鳴する孤独

 小高い丘の上。 平日の午後。住宅街に設置されている児童公園には散策する人すらいない。 その児童公園は小高くなっている丘の上にあった。そして、公園の眼下にあるテニスコートが一望できていた。 テニスコートには部活なのだろうか、付近の中学校の生徒たちがラケットを振るっていた。 そんな学生たちをクーカはベンチに座ってぼんやりと眺めていた。「ここに居たのか…… 探したよ……」 クーカがチョコンと座るベンチの隣に先島が腰を掛けて来た。「……」 クーカは先島がやって来た事に関心が無いようだ。気が付いて無いかのように無言でコートを眺めている。 眼下に見えるテニスコートからは、テニスボールを撃ち返す音が響いて来た。それに交じって仲間を応援する声もする。 それは平和な日本を満喫するどこにでもある風景だ。「俺にもあんな時代があったな……」 生徒たちの上げる嬌声を聞きながら先島がポツリと言う感じで言った。「周りに居る大人は全部自分の味方だと信じていたもんさ」 そんな学生たちを見ながら、先島がおもむろに口を開いた。「無心に部活に打ち込んで、家に帰ってからは勉強そっちのけでゲームばかりやっていたっけ……」 もちろん人間関係の煩わしさもあったが、大人となって足枷だらけになった今とは雲泥の差だ。「……」 クーカは先島の話に関心が無いのか無言のままだった。 二人が見つめるコートの中に、一人の女子生徒が歩み出て来た。どうやら打球を受ける練習を行うようだ。 それを見ていた先島がおもむろに口を開いた。「彼女の名前は親谷野々花(おやたにののは)。年齢は14歳の中学生……」「成績は中くらいで友人は多数。 勉強は大嫌いだがスポーツは大好き」「まあ、どこにでも居る平均的な
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第41-2話 風の囁き

「あの娘はこれから友達を沢山作って、恋も一杯して、そしていつか結婚して子供たちに囲まれて静かに暮らす」 クーカは目を細めて『妹』の姿を見ていた。「そんな平凡な人生を送っていくの……」 打球を撃ち返せずに悔しがる妹。その妹を励ます友人たち。微笑ましい光景だ。「どれも…… お前には手の届かないものだな」 そんな様子を見ながら先島が言った。 「人は平凡なんかつまらないと言うけど、私から見れば眩しいくらいに羨ましいわ……」 実の姉が生存している事を知らない『妹』は、周りに居る友人たちと屈託なく笑っている。「彼女は私とは違う人生を送っていって欲しい。 それが私の残された願い…… 誰にも邪魔はさせないわ」 きっと何事も無ければ、妹の隣で共に光り輝いていたであろう自分の青春に思いを馳せていた。「……お前はそれで良いのか?」 先島が尋ねた。「物心付いてから今までに覚えたのは、人の殺し方と獲物を追い詰めるコツだけよ……」 クーカは口元に薄い笑いを浮かべがら言った。自分の人生にあるのは硝煙と血の匂いだけだ。今、居なくなっても誰も気に留めないし振り返られもしない。「……今更、どうにもならないわ」 きっと、どこか遠い国の知らない街の路地裏で、ひっそりと始末されるのが運命なのだと悟っている。風に吹かれると消えてしまう煙のようなものだ。「俺たちなら違う人生を送れるように手配できる」 俺たちとは先島が所属する組織の事だ。「表の世界に戻ってこないか? このまま暗闇の中をいくら走っても何も見えないままだぞ……」 先島は彼女をスカウトしようとしていた。殺し屋になるしかなかった不遇の人生を思いやっている訳ではない。 何とかして絶望の中で足掻いている少女を救いたかったの
last updateLast Updated : 2025-05-01
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