この言葉を聞いた美月の顔色は、さらに険しくなった。以前、紗雪があの男と付き合っていたことで、鳴り城の人々に笑いものにされたというのに、今になってもまだ懲りていないのか?美月は内心で忸怩たる思いを抱えつつ、ため息をついた。そして、緒莉に向かって言い聞かせるように口を開いた。「緒莉は優しい子よ。でも、この件には関わらなくていい」「紗雪ももう立派な大人よ。自分の行動には自分で責任を持たなければならない。いつまでも私たちに頼ってばかりはいられないのだから」緒莉は何か言いたそうに口を開きかけたが、結局は何も言わず、ため息混じりに頷いた。「わかったよ、母さん。紗雪がちゃんと考えて行動してくれたらいいな......お母さんにこれ以上心配をかけないでほしいの」その言葉には、美月を気遣う気持ちが滲み出ていた。美月はしっかり者の緒莉を見つめながら、無意識のうちに紗雪と比べてしまう。ほんの一瞬だったが、そのわずかな違和感を、緒莉は見逃さなかった。紗雪、たとえあなたが二川グループに入ったとしても、母はずっと私の味方よ。その頃、紗雪は車を発進させようとしていたが、ちょうどその時、プロジェクトマネージャーから新しい書類が送られてきた。マーケティングの状況に合わせて、改めて資料を整理し直すよう求める内容だった。紗雪は簡単に目を通し、すぐに思い出す。このデータ、前にすでに調査してまとめたはず。しかし、その資料は、先日二川家に戻ったときに部屋に置き忘れてしまった。彼女は小さく息をつき、結局は取りに戻ることにした。また一から整理し直すのは、さすがに手間がかかりすぎる。時計を見る。今の時間なら、おそらく美月はまだ帰っていない。よし、さっと行ってさっと帰ろう。紗雪は車を高級住宅街へと滑り込ませ、慣れた手つきで駐車場に停めた。陽の光が燦々と降り注ぎ、屋敷は静寂に包まれていた。緒莉も今日は家にいないのか?ふと疑問に思う。彼女は身体が弱く、普段は家で静養していることが多いはずなのに。首を傾げつつ、紗雪は玄関へ向かった。鍵を解除し、扉を押し開けた瞬間、ソファに無造作に寝転がる男の姿が目に飛び込んできた。安東辰琉。紗雪の義兄であり、緒莉の夫だ。彼は頬を赤らめ、ぼんやりとした目をしている
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