彼女は安東グループと長年にわたり協力関係を築いてきたのに、まさか目の利かない受付に止められるとは思ってもいなかった。そう考えると、美月の胸の奥に怒りが再びこみ上げてきた。この何年もの協力も、安東家の者たちは心に留めていなかったのか。そうでなければ、受付が自分をこんな扱いするはずがない。美月の胸中には元々鬱積した怒りがあった。そこに受付の一件が重なり、ますます血が頭に上った。山口はすぐに空気を読んで、ボディーガードに目配せした。ボディーガードは即座に前に出て、左右から受付を抑えた。相手が女性だからといって、手加減することはなかった。その光景に、会社ロビーにいた人々は皆呆気にとられた。こんな時代に、まだヤクザまがいのことがあるのか?法律違反じゃないのか?受付の女性も慌てふためき、必死に抵抗を始めた。「何をするのですか!今すぐ離して!ここは安東グループよ。場所くらいわきまえなさいよ!」受付はすぐに冷静さを取り戻し、数人に向かって強気に脅しをかけた。だが美月は唇を吊り上げ、秘書とボディーガードを従え、さらに受付を引きずるようにして、そのままエレベーターへと進んでいった。以前ここに契約の件で来たことがあるので、道順は当然分かっている。一行の前に立ち塞がる者は誰一人いなかった。なにしろ、あの二人のボディーガードは体格も大きく、ただ立っているだけで威圧感があった。一目見ただけで、誰も逆らう気になれない。ましてや揉め事を起こすなど無謀だ。皆、噂話は好きでも、自分の身が一番大事だ。人々はただ美月が社長室に直通するエレベーターへ向かうのを見送るしかなかった。やがて一行がエレベーターに乗り込むと、ようやく誰かが後から気づいたように声を上げた。「今の人......二川グループの会長じゃなかったか?」その言葉に、周囲の者は一斉に彼を見つめ、信じられないという表情を浮かべた。「本当に?」「本当だ......」その人物は最初、自分の目を疑っていた。だが考えれば考えるほど違和感が強まる。相手はサングラスをかけていたが、隣の秘書の顔は見覚えがある。加えて、あの強烈な存在感。それで記憶が繋がったのだ。その分析を聞いた周囲は、皆一様にため息を漏らした。これは大変なこ
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