吉岡がそんなにも自分を信頼してくれているのを見て、紗雪の胸の奥にじんとした感動が広がった。「ありがとう。その信頼を裏切らないよう、頑張るよ」そう言って、紗雪は素直に打ち明けた。「実は、デザインスタジオを立ち上げて、不動産デザインの仕事をしたいと思ってるけど......そのアシスタントの席は、空けておくから」それを聞いた吉岡は、ようやく心から安心した。やはり、紗雪は絶対に挫けるような人じゃない。二川グループを離れたとしても、彼女に手を差し伸べる会社はいくらでもある。二川グループなんて、彼女にとってはただの踏み台に過ぎないのだ。だから今回、紗雪が辞めると言ったときも、吉岡は引き止めなかった。オフィスに戻るとすぐに、退職届を書き上げ、人事部に提出した。退職届を見た人事担当は、思わず目を丸くした。「本気にいいんですか?」なにしろ、今ちょうど会長代理の席が空いているのだ。吉岡は長年紗雪の下で働いてきた人間で、その実力も社内で認められている。昇進の最有力候補だった彼が、こんな時に辞職するなんて......「頭でも打ったのか?」と、誰もがそう思った。だが吉岡は真剣な表情でうなずいた。「もう決めましたので。どうか受理してください」人事担当は口を開き、何とか説得しようとしたが、彼の揺るがない視線を見て、言葉を飲み込んだ。「......私の一存では決められませんね。会長に確認してもらわないと」吉岡は少し驚いた顔をした。「私はただの社員ですよ。会長にまで会わなきゃいけないんですか?」「ええ。元紗雪さん所属の社員の去就は、すべて会長の承認が必要です」仕方なく、吉岡はため息をつき、退職届を引き取った。「分かりました。お願いします」その丁寧な態度に、人事担当もそれ以上は言わなかった。さっきの発言も、実際のところは方便に過ぎない。彼が思い直すきっかけになれば――そう思ってのことだった。二川グループにとって、吉岡のような有能な人材を失うのは大きな痛手だ。人事担当は深く息をつきながら、心の中で呟いた。「厄介事を増やしてすみません。でも、これも会社のためなんです」吉岡は自分の席に戻り、退職届を見つめながら頭を抱えた。面倒なことになったと、今さら思い始める。紗雪の言葉を
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