「わかりました。必ず全力を尽くします」そう言って、優奈は孝寛に色っぽい視線を投げかけた。明らかに、さきほどの出来事に二人とも満足していた。孝寛はただ口元に笑みを浮かべただけで、何も言わなかった。女というのは、甘やかしすぎればすぐに図に乗る。その理屈をよく理解しているからこそ、孝寛はこういう女にはどんな態度で接すればいいのか心得ていた。大企業を仕切る以上、ある程度の冷徹さは欠かせない。今最も重要なのは、辰琉がどこの刑務所にいるのかを突き止めることだ。早く引き出さなければ、この会社自体が危うい。もし美月が資金を引き上げれば、被害はさらに大きくになる。それに、安東と二川を比べれば、当然ながら二川という老舗の方が格は上だ。比べられれば比べられるほど、安東の立場は弱い。だからこそ、孝寛は一刻も早く辰琉を連れ戻す必要があると考えていた。このまま引き延ばすわけにはいかない。美月の提示した条件は明白だ。彼女に説明をしなければならない。だが、今となってはどう言い繕えばいいのか、まったく見当もつかない。結局のところ、辰琉こそが一番の鍵を握る存在だ。それ以外に打てる手など、孝寛には思いつかなかった。だが、ただ黙って死を待つなど到底できない。この会社は自分が一から築き上げ、長年連れ添ってきたものだ。他人に差し出すことも、倒産を見届けることも、絶対に受け入れられない。ならば、あの逆子を差し出すしかない――他に方法はもう残されていない。一方その頃、孝寛と一夜を過ごした優奈は、まるで羽が生えたように軽やかな足取りで歩いていた。周囲を見渡す目つきも、どこか人を見下すようなものに変わっていた。愚かな人たち。死ぬほど働いたところで、社長に取り入る一度には及ばない。無駄なことをして、何になる。そう思うと、ますます胸がすく。彼女にとっては、孝寛と関係を保っていさえすれば、将来に何の不安もなかった。優奈は顎を上げ、堂々と歩いていた。だが、そんな彼女を快く思わない者もおり、ひそひそと声が上がった。「ねぇ、この人......なんだか様子がおかしくない?」その一言に、周囲も首をかしげ始める。確かに、以前の優奈も嫌味なところはあったが、今ほど傲慢ではなかった。「そうだよ。も
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