以前、病院で緒莉と一緒にいたときは特に何も感じなかった。だが今の坂井には、緒莉がどこか神経質で、どんな出来事に直面しても感情の起伏がないように思えてならなかった。それどころか、気づけば彼女のペースに巻き込まれてしまう。そんな時、坂井はふと韓警官の言葉を思い出した。やはり、女の言葉など信じるものではない。ましてや緒莉のような女なら、なおさらだ。この期間で、坂井も思い知った。美しい女ほど、腹の内は深く隠されているのだと。彼はいま、それを痛感していた。その一方で、緒莉も警察相手にどう振る舞えばいいのか、掴みかねていた。もし自分の計画を立てているときに研修警察に聞かれでもしたらどうする?そうなれば、全てが露呈してしまうのではないか。そう考えれば考えるほど、緒莉の胸は焦りでざわついていった。だが、無言でいる坂井を前に、どう出るべきか決めかねていた。警察署に着くと、坂井はようやく肩の力を抜いたようだった。先ほどまでとは明らかに違い、緒莉に話しかける声にはどこか嬉しささえ混じっていた。「降りろ。もう着いた」その一言に、緒莉の胸がドキリと跳ねた。時間がこんなに早く過ぎてしまったのか――ようやくそれを実感する。「はい」彼女は小さくうなずき、余計な抵抗はしなかった。ここまで来てしまえば、もう言い訳のしようもないのだ。彼女の目的は、辰琉が今どうなっているかを確かめることだ。その様子を知れば、今後の道をどう進むべきか決められる。もちろん、そんな思惑は胸の奥に押し込めていた。誰に相談できるわけでもない。自分の行く末は、自分で切り開くしかない。二川家に生まれて、もし何も知らないままでいたら、とっくに骨まで食い尽くされていただろう。だからこそ、緒莉の性格は今のように歪んでしまった。彼女は常に、自分にとっての利益を最優先に考えるようになったのだ。「入れ。時間を無駄にするな」坂井が急かす。彼はこれから何が始まるのかを知っているからこそ、待ちきれずに彼女を促していた。緒莉はうなずき、坂井の後に続いて中へ入った。ここで時間を潰しても、何の意味もない。彼女はすぐに取り調べ室へと通される。入った瞬間、そこにいた辰琉の姿を目にして思わず立ち尽くした。髪は乱れ、
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