All Chapters of 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜: Chapter 221 - Chapter 230

231 Chapters

第1部 一章【財前姉妹】その16 第三話 正着のその先

220.第三話 正着のその先「正着を打つことが正解だと思った方が気は楽だしある程度までは勝てるだろう。しかし、それではいつまでたっても『ある程度』強いだけだ。最強になるには正着のその先にある応用問題を解いていかねばならない」そう言っていたのは南上コテツだ。(なぜだろう、彼のあの言葉をいま思い出したのは……。この場面がまさに応用問題だということなのかしら?)白山シオリは少し止まって考えた。東2局東家 財前カオリ 捨て牌 西→中→9南家 井川ミサト 捨て牌 ⑨→中→六西家 白山シオリ 捨て牌 北→一北家 左田ジュンコ 捨て牌 南→二3巡目白山手牌 切り番七九②③④⑤⑥⑦⑧33489 ドラ①(ペンチャンターツを外すのが正着なのはわかるけど…… それじゃただの1人麻雀。ここは、これ!)打九『おっと! 白山プロ。ペンチャンよりもカンチャンを嫌いました、これはどういった意図なんでしょうか』『全体で打つって事でしょうか。攻撃的ですね。一瞬残してる七も六にくっつけば採用していく手順。親の時はこの手順を使うことは多いですけど…』 解説の小林は攻撃的に全体で打つ選択だと言ったが、シオリの考えはそうではなかった。(この局、南家(井川)の捨て牌が少しおかしい。2巡目の中。ただの合わせ打ちということもあるかも知れないが、親に合わせて親の現物を処理するというのは少々違和感がある。井川ミサトは守備力の高い選手だったはずだ。親の現物は基本的に大切にするだろう。あやしいな……。3巡目の六萬だって早くないか? そう考えていくと1巡目の⑨筒もドラ表示牌として1枚減の牌だ。それらを繋げる何かがあるかも知れない…… と考えれば答えは1つ! 七対子狙いだ。 七対子狙いだから1枚切れてる牌は処分した。一向聴だと中は貴重だから多分2巡目の時点では二向聴。六萬には一向聴になって罠を設置したような意図を感じる。なら七、八、九は危険だ。まあ、七は比較的安全かもしれないけど。例えば六八九から六切りしたとかじゃないかしら? であればここは九切り。井川ミサトがテンパイする前に萬子の上を処分しておいて、後々放銃になるかも知れない手順を回避する)白山次巡ツモ7!(絶好の引き! 井川ミサト、アナタのおかげよ! 感謝するわ)打七『うお! 白山シオリ、天才の引きをしますね。魅せてくれます!
last updateLast Updated : 2025-09-12
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第四話 いい試合にしましょうね

221. 第四話 いい試合にしましょうね  一回戦でシオリに跳満を放銃したミサトはそのままラス。カオリは三着だった。まるで『新人にはまだ早い』と言い放たれたようだった。圧巻する女王シオリ。   ――休憩中 「クソー。やっぱり白山プロ強いなー」「「フゥ……」」 カオリとミサトは自販機の前にあるソファに並んで座りココアを飲みながら2人は同時にため息をついた。「まあ、まだ半荘3回あるし大丈夫大丈夫」「……ありがとう、カオリ。……でも、今日は決勝戦。つまりはオールorナッシング! 2人とも仲良く勝つとかは出来ないんだからね。休憩中でも気を緩めちゃだめよ。私達はいま敵対してるんだから」「ミサトが先に話しはじめたんでしょ。もう、面倒なこと言わないでよ。だいたい、私達は卓上で私情を挟めるほど心の余裕なんてない。そうでしょ」「ま、そうね」  するとコツコツとヒールの音を立ててシオリが近づいてきた。「なーに、2人して作戦会議?」「あは、そんなもんで勝てる相手ならいくらでも会議するんですけどね」「まあ、優勝は1人しかできないから会議したってケンカになるだけですけど」「それもそうね。……私は期待されてるし負けてあげられないけど、でも2人も頑張って。いい試合にしましょうね」 「「はい!」」 「はーーー……。いいヒトだわー……。素敵だなぁ」「ほんと素敵な人よね。知ってる? 白山プロは最近メガネもかけるのよ。それがまた似合うと評判なの」「そうなんだ! ミサト詳しいね。でも今日はしてないね」「ファンだからね
last updateLast Updated : 2025-09-13
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第伍話 勇気と根性のツモり四暗刻

222. 第伍話 勇気と根性のツモり四暗刻  二回戦は左田ジュンコの勢いが凄かった。 さすがは決勝戦経験者というべきか。左田は過去にも一度、師団名人戦の決勝に残った事がある。その時は4位で終わったのだが、その経験から決勝戦の戦い方というのを分かっていた。 (決勝戦4回勝負は二回戦が肝心なんだ。ここで脱落してしまうとあれよあれよと圏外に追いやられて目無しの人数合わせにされてしまう。あれは、つらかったな……。何やっても届くわけない点差にされて、ただ誰にも有利にならない牌を探してひたすらオリてた。あんな決勝はもうこりごりよ! 私はここで勝負をかける!) 「リーチ!」 左田手牌一一二三三③③④⑤⑥789 ドラ⑦  一盃口(イーペーコー)のみだ。それでもジュンコは力強くノータイムでリーチする。『さあ、左田ジュンコ! 一盃口のみの嵌張待ちだが果敢にリーチに出ました!』『いや、この待ちはそれなりにいいですよ。萬子の下は誰も使っていません! もしかしたら……』 「ツモ!」  一発ツモで2000.3900。 『一発でツモってきたあー!!』『裏はありませんでしたが、2000.3900です!』 (とんでもないわね)《ただの一盃口をいとも容易く満貫クラスですか…… 勝負師ですね》 「ロン。5200」 『財前カオリ。冷静にタンヤオドラドラを決めてきました』  負けじとゴーニーをジュンコからダマで討ち取ったカオリだったが……&nbs
last updateLast Updated : 2025-09-14
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第六話 昼休憩

223. 第六話 昼休憩  二回戦が終わると昼休憩だ。しかし、左田は外に食べに行かないという。 「えっ、食べに行かないって…… お弁当持参とかですか?」「そうじゃなくて食べないの。食べたら眠くなっちゃうからね」「えっっっっ! そこまで徹底するんですか!!」「だって、シオリさんはあっという間に食べに行きましたよ!」「白山はああ見えて食べる事が生き甲斐みたいなとこあるから。あなたたちも私に構わず食事に行きなさい。私は食後に人よりも眠気が来るタイプだし、昨日もあまり寝れてないから」 「だって、どーする? ミサト」「うーん、とりあえず軽く食べようよ。ガッツリ食べたりはしないにしても軽食はしておこう」「それがいいね」  スタジオを出るとチェーン店のよく知ってるファミレスがあったのでそこで食べることにした。安くて学生に優しいイタリアンレストランだ。 「この、エスカルゴのオーブン焼きっていうのすごく気になってるんだけど、どうしても注文できないの」「あ、わかるー! 要するに貝料理だと思えばいいのかもしれないけど、勇気出ないよね」「美味しいらしいという記事は読んだ。でも、でんでん虫よね……」「……ま、今日のところはムール貝のガーリック焼きにしとこ」「そ、そうね」「ガーリックのにおい、大丈夫かな」「まあ、平気でしょ」「あとは――」 「「小エビのカクテルサラダとたらこソースシシリー風」」 「え? 同じ?」「美味しいからね。じゃ、サラダは取り皿もらって分けようよ。大きいし」「ドリンクバーはどうする?」「いらないよ、そんな
last updateLast Updated : 2025-09-15
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第七話 ありがとう、麻雀

224. 第七話 ありがとう、麻雀  三回戦。ここで挽回しなければならないのは井川ミサトだった。カオリは要所要所でアガリを取って焦る必要ない立場をキープしていたがミサトの麻雀はそうじゃない。ミサトはチャンス手をドガッと決めてそれ以外は鉄の守備を貫くようなタイプの打ち手だ。 しかしそれも力量差があるから可能な勝ち方。今回のように相手の力量も凄まじいとなると肝心の『チャンス手をドガッ』が出来ないでいた。これじゃあジリ貧だ。 打点力のあるミサトだが、二回戦まではただただ傷を負い疲弊しているばかり、そんな決勝三回戦目。 東1局 親番ミサト手牌二三四③③④⑤⑥⑦⑦234 ドラ二  7巡目にこのテンパイをいれてダマに構えるミサト。 『打点は欲しいからこそのダマテンですが。どうですか小林さん』『彼女らしい、ちゃんとした麻雀ですね。三色になってくれればいいですが』  しかし、9巡目。 ミサトツモ③ 「リーチ」打⑦ ミサト手牌二三四③③③④⑤⑥⑦234 『……あっ! ツモ③は2000オールのアガリ牌だったはずです。それを全く躊躇なく! 解説が追いつかない速度でフリテンリーチにしました! さすがです、36期新人王井川ミサト!!』 『このフリテンリーチはいいですね。高めの②とかツモって来そうな感じしますし。しかしあまりにもノータイムでしたね。決めていたんでしょうね。ツモったらフリテンで曲げるって。若い頃の私にはそんなことは出来なかった気がします。すごいですね彼女……』 
last updateLast Updated : 2025-09-16
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第八話 麻雀界最強を目指して

225. 第八話 麻雀界最強を目指して 『間もなく最終半荘となるわけですが、先ほどのゲームはいかがでしたか小林プロ』『いやーー! さすがでしたね、いいものを見ました。あのままやられる井川プロではないと思っていましたがあそこまで復活するとは』『昔から言いますからね「虎は傷ついてからが本物である」って』『ヒンズー教徒のことわざでしたっけ。となると、今回の半荘で傷ついたもう一頭の虎が今度は気になりますねー』『財前のことですか』『はい、彼女もまた虎の牙を持つ獣でしょう。私達と同じですよ』『……ですね。面白い試合を期待しましょう!』   「ねえ、白山」「はい?」「あと、1時間もしたら決着ね」「はあ、だいたいそんなもんですね」「寂しくない?」「……?」「私は、この勝負が終わっちゃうと思うと寂しいわ。50も過ぎるとね…… こんないい試合に出会えたこと、それ自体がもう、感動で。なかなか無いわよ、今日みたいな面子でこんな大舞台で打てる機会は」「……そういうものですか」「あなたはこれから先もきっと決勝戦に何度も残る。優勝だって何度もすると思うわ。でも私は違う。現にそんなことにはならなかった人生を半世紀歩んできたから分かるわ。だから、今日この日がずっと前から楽しみだったし、あと1時間くらいで終わるなんて寂しいのよ」「でも、ジュンコさんは最近成果を上げてます。結果だけ冷静に見て考えると『強くなった』という事ではありませんか? 何か、以前とは違うことを始めて、それが効果を出したみたいな可能性はないんですか?」「無い無いそんなの! あるわけないって。たまたま偶然だよ」「そうですか…… それにしては今日の麻雀、
last updateLast Updated : 2025-09-17
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第九話 絆読み

226. 第九話 絆読み  ──最終戦  井川ミサトはジッと財前カオリを見つめて昔のことを思い出していた。 (カオリ…… 私の大好きな友達。高校2年の頃は麻雀部で1番弱かった子が…… それが今はすっかり強くなってプロ意識も高い。しまいには麻雀界最強を決める大会の決勝戦に残って私の敵として立ちはだかるのだからわからないものね、カオリも私も) 「リーチ!」  そんなことを考えていたらカオリから4巡目にリーチが入った。ミサトの手はとても勝負などできるものではなかったので徹底して降りたが…… 15巡目、ついに安全牌を失ってしまう。 選択肢は2つだけ。孤立した1索切りか孤立した三萬切り。他の牌は5枚使いスジや宣言牌跨ぎの3枚使い、ドラ周辺牌などでとてもじゃないが切り出せない。 1が当たりのケース 1.1単騎2.1シャンポン3.1-4リャンメン(あるいはノベタン) この3つのケースであり、それと比較して三は 三が当たりのケース 1.三単騎2.三シャンポン3.三-六リャンメン(あるいはノベタン)4.三ペンチャン5.三カンチャン この5つのケースがある。つまり数字の理論上は1索の方が通るように思えるが…… それは間違いだ。 (果たしてプロ意識を持っているあのカオリが4巡目リーチで愚形三萬待ちなどするだろうか? ましてこれは映像対局だ…… あの子なら……)
last updateLast Updated : 2025-09-18
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第十話 最高打点になる手順

227. 第十話 最高打点になる手順  池袋――  雀荘『ペガサス』にて 「ナオさん、何見てるんすか?」  財前マナミの実の姉である石井奈央(いしいなお)はパソコンで師団名人戦を観戦していた。 「師団名人戦決勝」「へえ、競技麻雀も興味あるんすね」「私の義理の妹がいま決勝戦に残ってるからね」「ええっ!?」「この子。財前香織」「めっちゃ美少女!」「そうなのよ。ちなみに血の繋がった妹もいるけどそっちも美少女プロ雀士よ」「でも、財前って? リングネームみたいなもんすか?」「いや、本当は私も財前なの。親が再婚したからね。でも、そのタイミングで私は自立して家を出てってたから面倒くさいし旧姓の石井をそのまま名乗ってるだけ。いま親の姓は財前なのよ」 「えっ、そうなんだ」 「私は財前にはならなくていいわ。それよりも、早く私を『泉』にしてよね、テンマくん!」「も、もーちょっとお金が溜まったらね……」「たくう、頼りないんだから!」  ◆◇◆◇  水戸――  雀荘『ひよこ』にて 「店長、店長! 最終戦ですよ!」 「おお! どうだ、カオリさんは勝てそうか?」 「総合ラス目だけど優勝の目はあります。それに、なんだか楽しそう!  あの子はきっとやってくれる。諦めてないどころか、ここから逆転するストーリーを考えて楽しんでる。そんな顔してますね」 「なら、きっと勝つ
last updateLast Updated : 2025-09-19
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第十一話 ウルトラCの麻雀

228. 第十一話 ウルトラCの麻雀  シオリとジュンコはここで(絶対にこの最終戦だけはノーミスで打つ!)という心構えでいた。それは立派だったが、カオリとミサトの心構えはそれ以上だった。 (最後の半荘だ。絶対に満点を…… いえ、それ以上のウルトラCの麻雀をしてみせる! 今日、いまここで自己最高記録の更新を! いま、自分の枠をブチ破ってやる!!)  さながらオリンピック本番で自己新記録を出すつもりのアスリートのようである。 この考え方こそが佐藤スグル直伝のものだ。細かいところは教えてくれないスグルだが、強く生きるとは、勝つとは、それがどういうことか。そんなような話はよくしてくれた。   かつて麻雀部で佐藤スグルはこう教えてくれた――  「いいか、そつなく打つな。小さくきれいにまとまろうとすんな。多少危険だろうと構わない。もとより安全と勝利は両立しないものだ。 上手くなくていい。ただ挑戦者であれ! いつだって満点以上を出すつもりで戦いに挑むんだ。そうした時にやっと初めて満点が出るんだよ。ミスしないぞという心構えじゃ80点の正解が限界だからな。120点取るつもりでいて初めて100点が目指せるってこと忘れないこと!」 「「はい!」」 「力強くあれ! おれたちはチャレンジャーだ! 昨日までは出来なかったことであっても諦めたらいけない! 今日は出来るかもしれないと思って挑むんだよ!」 ──────  この心の持ちようがカオリたち麻雀部の強さなのだった。そして今その心構えの効果が結果に出た。 「リーチ」  白山シオリの先制リーチだ。そこに対してカオリは安全牌を持っている。しかし……
last updateLast Updated : 2025-09-20
Read more

第1部 一章【財前姉妹】その16 第十二話 プロの対応

229. 第十二話 プロの対応  最終戦南入。勝負は後半戦に突入した。親は左田ジュンコ。  左田は親番だからリーチして攻めたいのと最後の親番をなんとかして維持するために鳴きたいのとで考えが決まらず揺れていた。 (メンゼンで行くなら役牌はいらない。でも、仕掛けて行く方針も捨てがたい…… どうする)  タンヤオもピンフもつかなくする三元牌の存在は扱いの難しい問題だった。 「…すいません…」  ジュンコが第一打から長考する。そんなことは普段ならまずない。決勝戦のプレッシャーがジュンコに大きくのしかかっているのは誰の目にも明らかだった。 (ジュンコさんのこんなに長考するとこ初めて見た)《親番のジュンコにとってはここが天下分け目ですからね》 ジュンコ1巡目打発  この、ごく普通の切り出しに15秒ほどかけた。その事実が(この局はリーチで攻める。先制リーチの為に目一杯まで広く受けて鳴かれそうな牌はスタートから処分していく!)と宣言しており、危険信号だった。  それを見た白山シオリが(その対応はさすが!)としか言いようのない反応を見せた。 「(四)チー」「ロン。1300」 白山手牌二三②②②⑧⑧中中中(二三四チー) 一ロン  四萬の方を鳴いてタンヤオに見せかけての一萬をロン。しかも、鳴かなければ四暗刻イーシャンテンの手からの仕掛けである。 (くっ! 確信してる鳴きだ。ここで私が決定打を作ろうとしてることを……。や
last updateLast Updated : 2025-09-21
Read more
PREV
1
...
192021222324
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status