All Chapters of 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜: Chapter 71 - Chapter 80

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第1部 一章【財前姉妹】その6 第九話 3面張固定のリスク

70. 第九話 3面張固定のリスク 「「カンパーイ!」」 カチン!  学生3人はドリンクバーのコーラとメロンソーダで。メグミは中生で乾杯した。  ゴクッゴクッゴクッ! と生ビールを飲むメグミはどこかオッさんぽくもあるが、大人の女性の色っぽさもあり魅力的に見えた。 「……っはーー! ウマい!」  メグミはテーブルに4分の1の大きさに折って敷いたおしぼりの上に中ジョッキをゴン! と置くと今日の事を話し始めた。「まず、マナミは最強。まじでつよい。アンタには才能を感じる」「えへへ~。そうですよねえ」となぜかカオリの方が喜ぶ。「あんたら2人はさっさと上位リーグに上がって麻雀界を盛り上げちゃいなさい。今の調子なら出来るでしょ」「がんばります」「んでぇ。井川さん」「はい!」「最終戦だけ見てたんだけど、素晴らしいわね。特筆すべき点はふたつあったわ」「ど、どこでしょう」「ちょっと紙とペンない?」「あります」とカオリがスッと差し出す。カオリは何かあればすぐメモ書きして自分のノートに書き込む習慣があるので筆記用具を持っていない時などない。ポケットの中には小さなリングノートとボールペン。それと小さな巾着袋。袋の中には赤伍萬が入っている。裸で持ち歩いていると、もし仮に対局中に病で倒れるなど不測の事態で気を失った場合にポケットを探った人がこれを見つけたらイカサマを疑うかもしれない。なので巾着に入れて持ち歩くことにしたのだ。 「ありがと」と受け取るとメグミはサラサラと牌姿を書いた。 三三四③④⑤⑥⑦⑦56799 ドラ5 「この形」「あっ、私の五回戦東2局!」「そ
last updateLast Updated : 2025-04-26
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十話 レートはタバスコ

71. 第十話 レートはタバスコ 「はい、チキンステーキとラージライスです。器はお熱いのでお気を付けください」「はい」とカオリ。「スパゲッティナポリタンとほうれん草のソテーです」「はーい両方私です」と奥から手を伸ばしてミサトが受け取る。 「いただきまあす」 「ちょっと私タバスコとってくるね」とミサトが出ようとするので「いいよ私が持ってくる。私もちょうど飲み物おかわりしたかったし」とカオリが気を効かせる。 「ありがとう、じゃあお願い」 「タバスコと言えばさ。レートはタバスコって話知ってる?」とマナミが言ってきた「なにそれ、知らない」「ネットで麻雀戦術論を公開してる『ライジン』って人の記事が面白くて。その人の日記に麻雀のレートについて書いた記事があったんだけど。それがすごくいいのよ」  そう言うとマナミはそのSNSを開いて見せてくれた。  ◆◇◆◇ ××年××月××日××時××分投稿者:ライジン 【麻雀のレートについて】  ごきげんよう、ライジンです。  今回は麻雀のレートとギャンブルについて語って行こうと思います。 結論から申し上げて、麻雀はギャンブルの部類に属さない。素晴らしい『競技』です。なぜなら、麻雀はあまりにもルールに縛られているゲームであるから。  まず、リーチについてですけど。 麻雀がギャンブルだと言うのなら勝負手なので10倍賭け
last updateLast Updated : 2025-04-27
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十一話 贅沢な生き方

72. 第十一話 贅沢な生き方 「はー、食べた食べた。ごちそうさまでした」 紙ナプキンで口元の汚れを拭うとメグミは先程の話の続きをし始めた。 「でえ、井川さんの何が凄かったかって大三元の局ね」「あれは凄かったですよね!」とマナミも言う。「うん、結果的にアガれたし。凄いのだけど。何が凄かったかはその結果の部分じゃないの」「っていうと?」「あの時、私は井川さんの対面の手を見てたわ。対面にいたのは私の同期だからちょっとだけ興味があったの。そんなに仲良しでもないんだけどね」「そう言えば対面を見てましたね」「うん、でもね。途中で遠くから見てるマナミの瞳孔が開いたの。動きも止まるし。カオリちゃんなんか『ぽかん』と口開いてるしで。(何かが起きてる)って思って。自販機に飲み物買いに行くふりして移動してみたわ。対局者の周囲をグルグルするのはマナー違反だからね、さりげなーく移動したのよ。そしたら大三元じゃないの」「ど、瞳孔??」かなり離れて見ていたつもりだったがメグミはどんな視力をしているのだ。いや、それよりも。なぜ外野の反応に気付いたりできるのか。プロはこわいな。と思うマナミたちだった。「少なくとも、私の同期はそれで気付いて止めたっぽいわね。本来なら一萬が止まる手ではなかったから」「そんな、ごめんねえミサトぉ」「いいわよ、おかげで大三元になったし、結果オーライよ」 「凄いのは井川さんのその雰囲気。全然分からなかった。少しも役満の空気にはなってなかった。たいした手じゃないよ、みたいな顔で。あんな演技はなかなか難しいわ」 「あの時は自分は5200を張ってると思い込ませていたので」「どういうこと?」 「あの白仕掛けはマックス16000ミニマム5200のつもりで鳴き始めた手でした。なので5200だと思い込んで打つことで役満を悟らせない空気作りを心掛け
last updateLast Updated : 2025-04-28
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十二話 真のサービス業

73. 第十二話 真のサービス業  スグルの接客は高く評価された。それは何も卓外のことだけではない。スグルは卓内でも優れた接客をする従業員だった。その最たるものが、人知れず行う、誰にも気づいてもらえず感謝もされない接客にあった。  ラス前の北家でスグルがトップ目という時にそれは遠目に卓を見ていた1人立番のマサルにだけ発覚する。 東家1巡目打北 南家1巡目打北 西家1巡目打北  と来て、スグルの手は 一二三①③⑥⑦125578北 ドラは④  配牌でピンフ三色のリャンシャンテン……というか北を持っているからそれを切ってしまえば4人全員が1巡目に同じ風牌を切ることによって起きる特殊ルール『四風子連打』が発動してスグルのトップ目のままオーラスを迎えられる。 親は2着目なのでその方が絶対いい。しかし、この時代の麻雀店にはメンバー制約というものがあり(従業員による途中流局は禁ずる。※オーラスのトップ確定終了時は例外とする)というものがあった。つまり、この手は流せばトップが転がりこんできそうだが、流すわけにはいかないのがメンバー制約ということだ。そのことはもちろんスグルは承知している。 (『うわ、流してぇー』って思ってるだろうな。それでも……) 北家(スグル)1巡目打① (うん。よくその手、この点棒状況から三色捨ててまで制約を守った。偉いぞ!) スグル2巡目ツモ⑤
last updateLast Updated : 2025-04-28
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十三話 ホール捌き

74. 第十三話 ホール捌き  泉テンマは池袋の駅前喫茶店で働いていた。そこは自分のイメージしていた喫茶店の仕事とはまるで異なり、ひたすらハードな労働だった。「喫茶店っていったら浅○南の実家みたいなのんびりした感じじゃないのかよ…… すげえキッツイじゃん……」  トゥルルルルル! トゥルルル…「はい! お電話ありがとうございます。まーじゃ…(じゃなくて)喫茶pondです」『まーじゃ?』「あ、ごめんなさい。つい最近まで働いてたのが雀荘だったもので、うっかり」『泉くんか。私、石田。あのさ、店長いるかな』「ちょっと今、近くに買い物行ってますね。多分すぐ戻りますけど」『あっ、そう。じゃあ伝えておいて欲しいんだけど、今日子供が熱出しちゃって病院行くから2時間くらいは遅刻するって言っておいて。その後は分かり次第また連絡するけど、最悪休むかもしれないから』「分かりました、お伝えしておきます」『じゃ、悪いけどお願いね』「いえ、お気になさらず」『ありがとう』   そんなわけで今日はテンマがホールも担当することになった。そこでテンマの先読みしたホール捌きが開花する。(あの3人は窓から目立つ所に案内して店内が繁盛している風に見せよう)やら(あの席は1人で静かにコーヒーを楽しむ人のための席だから近くにはギリギリまで人を案内しないよう配慮してキープしよう)やら(ちょっとマナー悪そうな人だな。酔っているのか? 常に視界に入るようにレジ近くに案内した方いいだろう)などの理由で人を案内配置して店内を支配した。 それらをやった上でレジ横の簡易キッチンでパフェやコーヒーを作り。厨房でナポリタンを作り、洗い物もした。(疲れた~。もうだめ、もう帰りたい)  石田が来
last updateLast Updated : 2025-04-29
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十四話 アカネとメグミ

75. 第十四話 アカネとメグミ  杜若(かきつばた)アカネは杜若家の次女で小説が好きな子供だった。特に好きなのは推理小説で探偵ものには目がなかった。そんな小学生だったので世間には少々変わった子だと思われた。 ある日、何を思ったかホームセンターに行った際に乾電池をポケットに入れてレジを通さず持ち帰ってしまった。それは無意識のうちの万引きだったが、この時こう思ってしまった。 (万引きって気付かれないんだな)と。  そして、それ以来(探偵練習ごっこ)と称して、やれ針金を万引き。やれボルトを万引き。と必要のないものを(名探偵ならこのくらいやってのけるはずだ)というよく分からない理由で窃盗した。 しかし、それが何回か成功してエスカレートし、次は下州屋という釣具店でフライフィッシングの疑似餌セットを盗もうとした……が。「ちょっと来てもらおうか」 店長と思われる人物に腕を掴まれる。「ポケットの中、見せて」「…はい」 アカネは素直に降参して疑似餌セットを出した。「これだけで全部?」「全部です」「いま警察呼ぶから。あとは警察の人に任せるから、この部屋で反省して待ってなさい。私は忙しいからもう店番に戻るけど、二度とやらないように!」「…はい」  数十分後   お巡りさんが到着する。アカネは近くの派出所に連れて行かれた。「なんであんな必要ないものを盗もうとしたのかな?」「…探偵ごっこでした」「え?」「名探偵に憧れてて……探偵ならあれくらいわけなく盗み出しそうだなって」「呆れた、それは探偵じゃなくて怪盗じゃないか。敵だよ敵」
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第1部 一章【財前姉妹】その6 第十伍話 新人王戦へ向けて

76. 第十伍話 新人王戦へ向けて 「……って言うのが私と師匠の出会いなんだけど。その師匠が久しぶりに大会決勝に駒を進めて、しかし惜しくも敗れた。それもアマチュアに。それで、その大会で優勝したそのアマチュアってのがアナタの親友だっていうんだから麻雀界は狭いわね」と成田メグミはカオリに話す。「ですね。ユウは本当にすごいんですよ」「じゃあプロになればいいじゃない」「それは違うらしくて……」「今度彼女も連れて来なさい。アマチュアの参加も大歓迎だから」  今日は杜若アカネと成田メグミの主催する麻雀研究会だった。カオリは今回アカネが他の仕事でどうしても来られないという事なので成田の助手として参加し、ついでに自分も勉強させてもらうことにした。ちなみにマナミは『ひよこ』でバイトだ。3人とも抜けるのはリーグ戦の時のみ、基本的には誰か出勤するようにしていたので今日の出勤はマナミなのである。  カオリは最近はどこに行くにもポケットに赤伍萬を入れた巾着を持参していた。  《カオリ、ここにいるのは全員プロなんですか?》(分かんないわよ、私は麻雀マニアであって麻雀プロマニアではないから。だいたいプロ雀士は多すぎるのよ)《それは言えてます》 「私もね、若い頃は準優勝2回したってだけでも期待の新人とか言って特集されたし、結婚前は『氷海メグミ』だったから、冷静沈着、氷の少女、とか言われててね」「へぇーカッコいい」「別に言う程クールな麻雀してたとは思わないんだけど苗字になぞらえたキャッチコピーを作りたかったんでしょうね。キャッチコピーなんてテキトーなんだなってあの時知ったわ」「メグミさんはどっちかって言うと熱い打ち手ですもんね」「そうよ! でも、今はある程度いい成績出しても当たり前みたいな風に見られるだけのベテランになっちゃったわ。も
last updateLast Updated : 2025-05-01
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第1部 一章【財前姉妹】その7 第一話 フリー雀荘巡り

77. ここまでのあらすじ  プロになった財前姉妹と井川ミサトが初のタイトル戦に挑もうとしていた。カオリたちの新人王戦が今始まる。  【登場人物紹介】 財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。女子大生プロ雀士。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。その右手には神の力を宿している。 財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。ラシャの付喪神に見守られている。 佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。誘導するような罠作りに長けている。麻雀教室の講師になることが夢。 竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。竹田慎一のいとこ。 佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『富士』という雀荘の遅番メンバー。萬屋の右腕的存在。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。 井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派の女子大生プロ雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。 中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究
last updateLast Updated : 2025-05-02
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第1部 一章【財前姉妹】その7 第二話 小宮山の話

78. 第二話 小宮山の話  五明求道(ごみょうもとみち)がオーナーをしている『麻雀ファイブ』のレートは名前の通り0.5で、プロとは言えまだ学生のミサトにはレート1.0は高いから丁度良かった。(ちなみに、普段の『ひよこ』のレートはソフトピンと呼ばれるもので0.5よりは高いけど低レートの部類に属するもの。ファイブのレートとあまり動きは変わらない) 初めて行ったその日はチャラで帰れたが、ここで林彩乃から学んで行くには何度も通う必要がある。学生のミサトにそんな頻繁に通うお金があるわけは無かったしリーグ戦や大会の参加費だってどうやって稼ごうかという悩みもあった。ミサトの家はご両親が競技麻雀に理解を示してくれていて、プロ活動の費用は全て出してくれると言うのだが、そこは麻雀部いちストイックで頑固なミサトが甘えるわけがなかった。「自分でなんとかするから、大丈夫。パパとママは応援だけしてて」と相変わらずだった。しかし、ミサトはそれじゃあどうやってお金を工面するのかと言われると思い付かなくて困っていた。『ひよこ』はムリだ。もう人員は足りている。これ以上バイトが増えては今いるバイトの稼ぎを減らすことになる。そもそもカオリやマナミだって本来なら1人でやる労働時間を分けて半分ずつ稼いでるのだ。これ以上の分割は誰一人として満足する金額を貰えなくなる。 かと言って他にある近場の雀荘はセット雀荘しかなくて水戸のフリー雀荘はここだけだ。セット雀荘は店主1人で営業するのが基本形で他にスタッフがいたとしても家族経営な事が多く人員募集など絶対にしてない。 どうしたものかと頭を悩ませているミサトはとりあえず今日は『ひよこ』で勝って稼ごうとした、しかしその日は相手が悪かった。店内いちの勝ち頭、小宮山ハジメとの同卓である。  「ツモ!」  小宮山が珍しく大きな声で発声した。それだけで手牌を開ける前からみんな察していた。これ、ヤバいやつだ。と。 小宮山手牌南南北北西西西(七八九)
last updateLast Updated : 2025-05-03
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第1部 一章【財前姉妹】その7 第三話 リンリン

79. 第三話 リンリン 「似合うかしら…… 変じゃない?」 「井川さんにピッタリだよ! やっぱり声かけてみて良かったなあ」  井川ミサトはメイド服を着ていた。小宮山はミサトを一目見た時からウチに欲しいと思っていたのだと言う。  近頃都内で店舗数を増やしている大人気メイドカフェ『リンリン』の新店が茨城県水戸市にもオープンした。その水戸店の店長が小宮山だということだった。 「まだオープンしたばかりでね、スタッフは足りてないんだ。バイト大募集中だから入りたいだけ入ってくれて構わないよ」 「それは助かります!」 「こちらこそだよ。そうだ、源氏名は何にしようか」 「私は雀士ですし、麻雀に絡ませたいですね」 (麻雀… 雀士… 麻雀にハマってる娘…) 「あさぬま……すずめ」 「えっ」 「麻雀の沼にハマった美少女。麻沼(あさぬま)スズメなんてどう?」 「美少女だなんて、ウフフ。それにしましょう!」    こうして、ミサトの金銭的な問題は解決した。ミサトは大学に通いながらバイトもたくさん入れて、ユウの家にも立ち寄っては麻雀部のみんなとも交流し、リーグ戦にも出場し休日には上野まで行き『麻雀ファイブ』で打つというスケジュールで、暇な日など全くない時間のない生活をしていた。  その日々は忙しい毎日ではあったが充実していた。井川ミサトは青春時代を目一杯楽しんで全力で駆け抜けていた。もちろん、移動の際の電車では相変わらず立ったまま。常に鍛える金髪美少女『護りのミサト』は、今日も肉体を強化して行く―― ◆◇◆◇  ユウの大会優勝を一番喜んだのはアンだった。  アンとユウはいつしか『アマチュアが親しみやすい競技麻雀講師となる』という同じ夢を目指す相棒になっていたので、その第一歩として挑戦したユウの競技麻雀界デビュー戦が最高の結果だったことを誰よりも喜んだ。 (ユウさんは自分のすべきことをしてしっかりと成果を上げてきた。私はどうしよう)  アンは実は進学より就職を考えていた。喫茶店で働いてみたいなと。  雀荘と
last updateLast Updated : 2025-05-04
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