父との謁見が終わった後、自分の部屋に連れてこられ、それからほぼ監禁状態で当日を迎えてしまった。警備が厳重で、手洗いに行く時も見張りが付き、逃げる事も出来なかった。「リィナ、心配してるよな……。町でずっと待っててくれてるだろうし……。城から外に連れ出される時に強引に逃げるか? ……いや、すぐに警備兵に矢を射られて失敗する可能性が高いな……」 やはりあの時、馬車に乗らずリシュティナと逃げていれば良かったのか。 それとも護衛達に立ち向っていけば良かったのか。 今更色々悔やんでも、後の祭りだ……。「リィナ……会いたい……。お前にすごく会いたいよ……。――ごめんな、必ず戻るって約束……守れねぇかも――」 ヴィクタールがベッドに突っ伏してボソリと呟いた時、扉からノックの音が聞こえ、「失礼致します」 と、一人の初老の騎士が入ってきた。 ヴィクタールはのそりと起き上がり、気怠げに騎士に問う。「……もう時間か?」「いえ、ご報告に参りました。貴方様は解放となりました。海獣神様が気に入るであろう、その身を捧げる人物が現れましたので」「は……? どういう事だ……?」 ヴィクタールは、騎士に怪訝な表情丸出しで問い返した。「昨日の夕方、海獣神様の愛し子である、『セイレン』の血を引く者が自ら名乗り出てきたのです。ヴィクタール殿下の代わりに自分がこの身を捧げる、と。美しい声と、『セイレン』の特徴である神秘的な蒼色の瞳で、彼女が『セイレン』の血を引く者である事が証明されました。国王陛下は悩んでいたのですが、彼女の幾度の懇願に押され、最終的には了承しました」「……は……? まて……待てよ……。ソイツは……。ソイツって――」 『セイレン』の血を引く者。 美しき声。 神秘的な蒼色の瞳。 彼女――“女”。 思い当たる人物は、一人しかいない――「その娘から、ヴィクタール殿下へと。“魅了”を解除する飲み薬だそうです。即効性だからすぐに服用して欲しいと。そして、自分を忘れて幸せになって欲しい、と。今まで本当にありがとう、と。そう言伝を預かりました」 騎士はそう言いながら、ヴィクタールに透明の液体が入った、小さな小瓶を手渡した。「儀式はもうすぐ始まります。場所は王城の裏手にある崖の上です。それでは私はこれで失礼致します」 騎士は敬礼すると、静かに部屋を出て行った。
Last Updated : 2025-04-28 Read more