五郎が真司のそばに歩み寄り、「真司」と声をかけた。その時、理恵も出てきて、「真司、どうしてここに?」と尋ねた。真司は理恵を見つめ、穏やかな声で言った。「君が出てきてから随分時間が経ったから、心配で様子を見に来たんだ」五郎は嬉しそうに囃し立てた。「理恵、真司は君のことを気にかけてるんだよ」理恵の胸はときめいた。「五郎、からかわないで。真司、戻ろう」「うん」真司は理恵と五郎を連れて歩き出し、無表情のまま佳子とすれ違った。佳子は一人その場に立ち尽くした。かつて親しかった二人は、今や赤の他人のようだ。背中を壁に預けたまま、佳子は白い目の縁がじわじわと赤く染まり、どんなにこらえても、熱く透きとおる涙が目尻から零れ落ちた。真司を失うことは、胸を裂くように痛いのだ。……佳子は家に戻ると、そのまま布団に潜り込んで眠り込んだ。妊娠してからというもの、彼女は特に眠気が強くなっている。約束通り、彼女は栄一の大学に行って手続きを済ませ、まもなく研修のために通学することになった。しかし、そこへ奈苗から電話がかかってきた。スマホの向こうで彼女は力なく言った。「もしもし、佳子姉さん、私、病気になっちゃったの」佳子は驚いて立ち上がった。「奈苗、どうしたの?どこが悪いの?お医者さんには診てもらった?」「私、熱があるの。41度もあって……今は寮で休んでる」奈苗は研究所で研究をしている。そこには専門の医者もいるはずだ。だが、41度もの高熱は、佳子を大いに不安にさせた。頭痛で研究に支障が出るのだろうか。奈苗が滅多に病気をしないタイプだが、病気がさらに悪化する前に手当てするべきだ。「奈苗、そっちは看病してくれる人はいないんでしょ?今すぐ行ってあげるから、待ってて」「うん。警備員さんに通すよう言っておくね」電話を切ると、佳子は急いで衣類を数点詰め込み、車に飛び乗って研究所へ向かった。三十分ほどで到着し、警備員に案内されて寮の前に立った。「葉月さん、妹さんはこの部屋にいます」「ありがとう」佳子がノックすると、すぐに奈苗が扉を開けた。「佳子姉さん、こんなに早く来てくれたの?」佳子はすぐに奈苗を支え、その額に手を当てた。「まだこんなに熱いじゃない!お医者さんが診に来たんでしょ?」「診てもらったよ。薬ももらった。で
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